2章目
1話目 前半 奇妙な少女
《これまでのあらすじ》
生まれた際に八咫 来瀬という名を付けられ、目付きの悪さから今まで物理言葉と共に理不尽な暴力を受け続けてきた俺はある日突然、妙に意思疎通ができる黒猫からドロップキックをされて異世界へ飛ばされてしまった。
そこでララという少女を助けた形で出会い、彼女に保護されるような形でこの世界の初めての町「イグラス」へと到着する。
町の出入口で見張りを務めるフレディと知り合い、彼の好意でなんとか町の中へ入れてもらうことに成功。
さらにその後もフレディの紹介で連合本部で冒険者という職に就き、格安の宿も確保した。
この世界でも俺の目は若干引かれてしまうが、それでも元の世界より俺とちゃんと接してくれる人がいることに涙が出そうになるこの頃。
しかし不幸は絶えず襲ってくる。
冒険者になって早速一つ目の依頼を受けた俺たちは目的を達成するために町から出たが、その最中にアクシデントが起きて謎の施設へと迷い込み、そして――俺は一度死んだ。
そして気が付くと何事もなく息をしていて、同じ日に二度目の死を体験した。
そこで俺はすでに死んでいると言われバラバラに殺されてしまい、再び息を吹き返す。
俺は人間ではない何かになったのだと理解した。
それでも人間をやめた俺は今日も元気に生きていこうと思います。
……お前もう死んでるじゃんなんてマジレスはいらんからな!
――――
「ではリドウさんからヤタ様への指名依頼はこちらになります」
連合本部でララたちと共に受付に行くと、早速そう言われ紙を一枚差し出された。
リドウさんが経営している店から出てそんなに経ってないというのに、連合本部へ依頼が出されている行動の早さに関心する。
「えっと……ベルド鉱石の採取?」
「はい。補足説明ですが、ベルド鉱石は剣や鎧の材料となります。駆け出しや見習いの冒険者でも採れる場所にあるので、受ける分には問題ありませんが……しかし単体ですと貰える報酬が少ないせいか依頼を受ける者も少なく、材料が足りてないとリドウさんが嘆いていました」
意外と余計な情報も話してくれるアイカさんに、俺は紙に書いてある依頼の内容を改めて確認しながら「そうですか」と軽く流して答える。
「やっぱり鉱石というなら、何か掘る道具は持った方がいいですか?」
「数にもよりますが……そこに書かれている依頼内容の採取数は五キロ弱とありますが、ここから近くにある採掘場は長い間使われていないので必要な分は採れると思います。それに実際、鉱石を掘る道具となるとお値段の方も……」
今まで顔に浮かべていた笑みが引きつり、視線が横に逸れる。手を出すには躊躇するような値段ってことか。
「なら素手で行くとするか……って、そういえば運搬手段はどうすれば?」
「先程渡したフィッカーに詰めれば丁度いいかと……念の為、一キロほどは同行するララ様のフィッカーが空いていただければ……」
アイカさんが当たり前のように言ったことで説明を受けている俺の後ろにくっ付いているララに気付き、彼女の方に振り向く。
「一緒に行くか?」
短い問いかけに頷くララ。
「……無理に付いて来なくていいんだぞ?」
そう言うとララは頬を膨らませて不機嫌になり、俺の太ももへいい感じのローキックを打ち込んできた。
条件反射で「いたっ」とリアクションをしながら話を進める。
「あーはいはい、わかったわかったから!……それじゃあ、この三人パーティで行きます」
「了解しました、では……」
アイカさんが金を置くキャッシュトレイを俺の前に出す。
「イクナ様の通行証制作費、今回は特別に初回登録としまして五百ゼニア、それと冒険者登録料四百八十ゼニア……合わせて九百八十ゼニアのお支払いをお願いします」
アイカさんの屈託の無い営業スマイルで言い放ったその金銭を要求する言葉に、どこの世界でも金は重要なんだなと改めて思い知らされ、涙が出そうになった。
――――
「この袋が軽いのは元からなのか、金が減ったからなのか……」
フィッカーを片手に俺は嘆くようにそう呟き、目的地の鉱山へと向かっていた。
本当なら昨日の出来事もあって見習いや駆け出しは当分依頼による外出禁止令が出されるのだけれど、幸いその目的地は俺たちが迷い込んだ施設とは真逆の方向だったから許可が下りた。
もちろん変な魔物に出会ったら即逃走+命を落としても知らんぞ、とのことだった。まぁ、冒険者になった時から自己責任はってのはわかり切ってるから今更だ。
そしてそれはそれとして、一瞬だけ小金持ちの気分になった俺の懐から必要経費の出費でまた貧乏人へ逆戻りになってしまった……
とはいえ、冒険に装備は欠かせないからしょうがないんだけどね。ナイフもギルドから借りっぱなしというわけにもいかないしな。
この格好を見せた連合本部に行った時にはウルクさんから「急に冒険者らしくなったじゃないか!」と言われてちょっと嬉しくなったりもしたが、他の冒険者から「その目で稼いだのか?」なんて笑われて小馬鹿にされたりした。
だけどそのバカのされ方に嫌な感じはなく、彼らの中にも「ま、その姿でい続けりゃ、そのうち板に付くだろ」と励ますように言ってくれる人もいる。
「……あそこの人たちはすげー優しいな……」
唐突にそう口にした俺の言葉にララは少し首を傾げるように
顔を覗いてきて、その意図を察したのかすぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
ララはウルクさんたちのことを家族のように思ってるかもしれないな……
そう思いながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「おーい、そこの三人組の人たちー!」
それは少女の声だった。
本来なら「きっと俺じゃないから反応しなくていいな」と無視するだろうけど、この辺りには俺たちしかいない。
だとしたら俺たちのことなのか……いや、もしかしたら俺たちの後ろにも三人組がいるかもしれない。
だから俺が今、取るべき行動は――無視だ。
「ちょ……ちょっとー!無視しないでニ、そこの目の腐った男子一人と体格大きめの大剣持った女子一人とフードの子一人!」
ピンポイントで俺たちパーティの特徴を言って呼び止めてきやがったよ、チクショウ!
仕方無く振り返ると、こっちに走ってくる少女がいた。
「やー、やっと止まってくれたニ?女の子が声をかけてるのに、無視するなんて酷い二!」
不思議な語尾を付ける少女が俺たちの前で止まり、中腰になって軽い敬礼のようなものをしてポーズを取る。あざとい……
彼女の見た目は特徴的で、妙に両サイド二箇所が盛り上がったニット帽を被り、ショートの白髪と赤い瞳をしていた。
身長は……百三十から百四十くらいだろうか?かなり低いことから年齢も幼いと思いたかったが……それを否定する「もの」が彼女に付いていた。
ご立派な胸……しかも大きさも普通じゃない。
「巨」なんて生易しい文字では表せない。
爆乳?いや、違う。
現実ではありえない大きさをしたソレは、もはや魔乳と言う他ない。
とにかく、成人女性ですらそうそう持ちえないであろう……まさにスイカと言っても相違ない大きさのバストを彼女はその小さい身に宿していた。
ロリ巨乳なんて言葉はアニメや漫画などではたまに見かけたが、彼女のような不相応なアンバランスの場合はロリ「魔」乳がぴったりだと思う。
だから俺はつい言葉に出してしまった。
「デカ――ぐぶっ!?」
あまりにも異常な乳に反射的なリアクションをした直後、それを予測していたかのように横にいたララから素早い蹴りが炸裂し、俺は勢いよく吹き飛んでしまった。
「うわー……凄い勢いで飛んでったけど、大丈夫二?」
吹き飛ばされた先の茂みに頭を突っ込んでいると、彼女の心配してくる声が聞こえてくる。
ララの奴……俺が死なない体になったからって手加減抜きでやってないか?まぁ、痛みを感じないからいいんだけどさぁ……
「ああ、問題無い。最近じゃ、よくやるやり取りだ……それよりも俺たちに何か用か?」
「あ、そう二!さっきギルドで聞いちゃったけど、君たち鉱山に行く二?僕もそこの近くで用のある依頼を受けた二。だから一緒に行こうと思って声をかけたんだけど……迷惑だった二?」
彼女は俺のとこまで来てそう言うと、低身長を駆使してうるうるさせた目で上目遣いをしてくる。
その言動にドキッとしてしまうが、ここで簡単に頷いてはいけない。
ここには三人もいるのに、わざわざ男の俺に色仕掛けで許可を貰おうとするということは、何か裏があるってことだ。
つまりこれはハニートラップ……そう簡単に引っかかってたまるかよ!
「……い、いや、別に……迷惑ってわけじゃないけど……」
俺は目を逸らしながら、どもった返事をしてしまった。しかもその逸らした視線は自然と彼女の奇乳に目がいってしまっていた……
ああ、やめて!腕でその大きな胸を挟んで強調させないで!男だから反応しちゃうから!
すると俺の返事を聞いた彼女は、嬉しそうに飛び跳ねて喜んだ。
「本当二!?やった!あたしって他の人からもパーティに入れてもらえなくて困ってた二!助かった二!」
飛び跳ねる度に彼女の大きな胸が揺れる揺れる。め、目が離せない……!
というか、ララがなぜかものっそい俺を睨んできてて怒ってるっぽいから……めっちゃ怖いから!
今はイクナがなぜか彼女に絡み付いていて動けない様子だったが、そうじゃなかったら今頃俺は追撃を食らっていただろう……
「僕はレチア、階級は見習い二!」
「俺はヤタ、階級は……たしか駆け出しだったか?あっちにいる背の高い方がララ、外套被ってるのがイクナだ。イクナはさっき登録したばかりだから俺と同じ駆け出しで、ララは……最近知り合ったばかりだから知らないな」
自身のに加え、喋れない彼女たちの紹介もするとレチアは誇らしげに胸を張り、その魔乳を前へと突き出す。
「それじゃ、少なくとも僕は君とイクナちゃんの先輩ってことだ二!これからよろしく二!」
気さくにそう言って握手を求めてくるレチア。
彼女のようにグイグイ引っ張ってくれそうな人種はコミュ障の俺にとってありがたいが……十歳どころか二十以上離れてそうな少女に、というのは些か抵抗がある。
「その……ずいぶんしっかりしてるようだけど、年齢を聞いてもいいか……?」
「女性に年齢のことを聞くのは失礼」というのは重々承知で問いかけてみる。嫌と言われればすぐに引き下がるつもりだったが……
「歳二?僕は十八だ二」
「……マジか」
明らかに幼女レベルの外見をしたレチアが成人直前だったとは……
しかしその事実に俺も驚いたのだが、それ以上に離れたところで聞いていたララが口を開けっ放しにして固まってしまっていた。
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