第13話 罰と提案
何故お嬢様がここにいるのか、どこまで知っているのか、色々聞きたいことはあったが、どれも言葉にならなかった。俺の視線はスマートフォンを操作するお嬢様に釘付けだった。
「ま、無事に仲直りできたようで何よりね」
「……知ってたんスか」
「知っていたと言うより、今朝知ったばかりね」
ということはつまり、俺が家を出た時からつけられていたと考えた方がいいだろう。俺が浮かれていたせいかもしれないが、全然気づかなかった。
「……コソコソ人のあとをつけるのはお嬢様としてどうかと」
「うるさいわね。貴方たちを助けたのが誰かまだ分かって──」
「申し訳ございません」
「変わり身が早いわよ」
いや、だって……あんなこと言われたら謝るしかないだろう。まぁ、心から怒っているような雰囲気ではなかったのが唯一の救いか。
次の瞬間、そんな風に楽観的に思っていた自分を殴りたくなった。
「さて、栄吾。詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「……っ」
「安心しなさい。別れろ、なんて言うことだけはしないわ」
安心できるか! そう叫びたかった。だってそうだろう、今の一言は裏を返せば別れさせない以外なら何でもするということなんだから。
お嬢様に隠していた身として、逆らおうなんて考えるわけがない。ただ、不安がじわじわと俺の心に侵食してくるだけだ。
ぎゅっと手を握られた感覚があった。視線を落とすとちょうど俺を見上げた芽衣と目が合った。それだけで不安に荒れまくっていた心が凪いでいくんだから不思議だ。
「分かりました。お嬢様には──いえ、お嬢様たちには全てをお話します」
そう言うと、お嬢様が目を丸くした。すぐに真顔に戻ったけれど、俺は見逃さない。
「蒼真様も聞いているんですよね?」
「……よく分かったわね」
「まぁ、スマホを操作しまくってたんで誰かと連絡をとってるんだろうな、と。蒼真様かどうかは賭けでしたけど」
そう答えると、お嬢様は大きくため息をついた。それと同時にスマホの画面をこちらに向けた。画面には “速水蒼真” と表示されていて、すぐに蒼真様の声が聞こえてきた。
『正解だよ。さすがの洞察力だね』
「お嬢様のしそうなことを予想しただけですけどね。伊達に執事をやってませんよ」
『ふふ、そうか。なら話は早い……早速聞かせてもらおうかな』
「はい、もちろんです」
そして俺は全てを話した。ところどころ芽衣が補足してくれたこともあり、話し終えた時には必要以上な情報がお二人に伝わったようだった。
『なるほど、相思相愛なのは伝わってきたよ』
改めてそう言われると、照れる。
『何はともあれ、まずはお礼を言うべきだろうね』
「……?」
『芽衣を助けてくれてありがとう』
「いえ、俺なりに彼女を守っただけなので」
『……そうか』
蒼真様はそこで間を置いた。瞬間的に周囲の気温が低下したように感じ、鳥肌が立つのが分かった。芽衣も同じことを感じたのか、繋がれた手に力が込められた。
『それじゃあ話をしようか』
色々、という言葉を強調したそのセリフに何かが含まれているように感じたが、それを確かめることはできなかった。
『芽衣』
「……っ! はい」
『同行者がいる、という言葉に偽りはなかった訳だが……まさか西辻君だったとはね』
「申し訳ございません……ですが──」
『言い訳はいらないよ。主を騙し、あろうことかライバル関係にある家の付き人と交際をしていた、その事実は変わらない』
その “ライバル関係” なんですが、そう思っているのはお嬢様と蒼真様だけです。
そう言いたかったが、言ったところで信じてもらえないことは火を見るより明らかだったので口を噤んで蒼真様の言葉を待つ。
『それ相応のお仕置は必要だろうね』
学校でも黒い噂が絶えなかった(というか事実を芽衣から聞いていた)蒼真様だったが、まさかここまで厳しいとはな。
蒼真様のその言葉に、芽衣はやっとの事で「……はい」と答えた。その声は、震えていた。
『そうだな……一週間の謹慎というのはどうだろう。あぁ、速水家に滞在することは許可しないからそのつもりでいてくれ』
…………ん?
……………………んん?
一見厳しい罰のように思えるが、よく考えるとこれってただ休暇を与えただけでは? あれか? 蒼真様が休めって言っても聞かないから罰という形で休暇を与えたとか、そういう感じなのか?
だが芽衣はそんなこと考えようとも思わないのか、沈んだ声で「…………承知致しました」と答えてた。うん、根が真面目だから仕方ないんだろうけど、さすがにこれは気づこう。
そんなことを考えていると、お嬢様から声をかけられた。
「──っと、ちょっと」
「あ、はい。何でしょう」
「何でしょうじゃないわよ。他人事みたいにしてるけど、アンタにも罰は受けてもらうからね?」
「まぁそうでしょうね」
「軽い! 軽すぎるわよ!」
いや、だって……何となく予想はできるし。そこまで怖がらなくてもいいだろうな、と。
「ま、まぁいいわ。それじゃあ、栄吾」
「はい」
「貴方もそこの東坂さんと同様に一週間の追放かつ謹慎。その間、如月本家・分家全ての立ち入りを禁止とします」
「あ、了解です。ちなみにそう決定した理由を聞いても?」
「蒼真より甘くする訳にもいかないし、かと言って厳しすぎてもいけないし……」
「お嬢様らしいですね」
そう答えると、お嬢様は何とも言えない不思議な表情を見せた。これ以上何かを言うと罰が追加されそうなので黙っておく。
すると、蒼真様が尋ねてきた。
『ところで二人とも、住む場所は決まっているのかい?』
「俺は実家に帰ろうかと。……気は進まないんですけどね」
あの両親に再会するとか、考えただけで恐ろしい。だったらまだお嬢様に監禁されている方がマシなんだが……仕方ないだろう。
芽衣も同じようで、「私も実家に帰るつもりです」と答えていた。
そんな俺たちに、お二人が声をかける。
「それなら東坂さん、家に来なさいよ」
『西辻君、君を速水家に招きたいんだが……』
その提案に対する俺たちの反応は、全く同じものだった。お互いに状況が理解できていなかったのかもしれない。
「「………………はい!?」」
------------------------------------------------------------------------
はい、そんなわけで二人には申し訳ないんですがデートが中断されました。次回から新章……なのかな?
一応区切りがいいのでここで暫く更新をストップしたいと思っています。以前も言った通り、受験勉強に集中したいので(昨日の模試が散々だったんです……)。
そんな訳で、2~3週に1度の更新になるかと思いますが、今後とも応援をよろしくお願い致します。
高評価していただけると更新したくなるかもしれません(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます