今どきハンドガンだけで異世界とか地味すぎる!!
ヤナギ・ハラ
プロローグ
第1話 世の中そんなに甘くない。
世の中そんなに甘くない。
そんなことわかりきっていたことだけど、実際自分の身にふりかかると結構辛いものがある。
そんなことベットと上でぼんやりと考えていた。
「……なんだかなぁ」
ぼそりと呟くと意外なほどに殺風景な部屋に木霊した。
白を基調とした清潔感のある室内、それもそのはずここは病院の室内であり必要最低限の物しか病室には置いていない。
開け放たれた窓から流れてくる風が緩やかにカーテンを揺らし、静かな音を奏でている。
静かな室内と同調するように心も意外なほど落ち着いている。
「これから、そうしようかなぁ… 」
今日から俺は障害者だ
ことの始まりはいつも何気ない事がきっかけだ。
小さいころ日曜の朝に観ていた五人戦隊物に夢中になっていた。
主人公たちが派手に飛んだり跳ねたりしていてとても格好良かったから自分も同じように飛び回っていた。でんぐり返しや側転なんかは簡単にできるがバク転や宙返りは一人ではどうしても無理だった。
なので日曜になると父親にせがんで手助けしてもらい宙返りを行うのがとても楽しかった。そのうち補助も必要なくなり自分ひとりで宙返りが出来るようになるとすごい楽しかった。
その日いつものように戦隊モノを観ていてのだが、あるシーンに物凄い衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。
登場人物のリーダーが自分よりも何倍も大きい怪人をぶん投げて空中に放り投げたのだ。
あまりの衝撃にその日観ていた戦隊モノの内容はほとんど頭に入っていなかった。投げのシーンがいつまでも頭の中を占拠していた。
その日から枕やクッションを相手に投げを永遠と繰り返すのが小さい自分のマイブームになっていた。
そして投げる相手はクッションだけでは物足らず父親にまで及んでいった。もちろん小さい子供が大の大人を投げ飛ばすなど出来るはずもないのだが父は投げられるふりをしてくれたりもした。小さい自分が大きな相手を投げ飛ばす。まさにヒーローそのものである。興奮冷めやらぬなか何度も何度も父親にせがんで投げごっこを繰り返していった。たまらなく楽しかった。父も笑顔で付き合ってくれていた。
そんなことを繰り返していったある日、父があることを提案してきた。
「そんなに投げるのが好きなら、柔道でもやってみるか?」
父親の弟、つまり叔父は警察官で機動隊員だった。そして警察署内で地域のこどもを対象に柔道を教えていた。
最初柔道というものがわからなかったが相手を投げたりするスポーツだよと教えてもらうと「やってみたい!!!」と一つ返事で父親に言って返した。
後日小学校が学校終わると母と一緒に警察署に行った。見学見学しに行くためだ。
そこでは自分と同じぐらいの子どもから年上の子までが一緒になって練習をしていた。白い柔道着を身に着け激しくぶつかり合う姿がすごい衝撃だった。
しばらく見学していると叔父さんが自分の方に近づいてきて話しかけてきた。
「どうだ、シュン。一緒にやってみないか?」
柔道着を借りておじさんを相手に色々と教わっりそこではじめて投げ技というものいを教えてもらった。投げにはきちんとした形がありそこが崩れてしまうとうまく投げられないということを初めて知った。おじさんは色々と丁寧に教えてくれてとても楽しかった。
練習が終わる頃にはすっかり柔道に魅了され、母にたのんでその日のうちに申込用紙を受付に提出してもらった。
申し込みをしてから数日、買った柔道着を背負って母と一緒に警察署に行き初めての柔道教室にとてもワクワクしていた。
はじめに道場内を円を回るように走り込みをし、その後受け身や絞り込み海老といった基本的な動作を他の子達といっしょにやっていった。これらは柔道にとても大切なことなのだと教えてもらった。
しばらくしたら打ち込みという練習が始まった。打ち込みとは柔道の投げ技の動作を投げる寸前まで何度も行い、10回ぐらい同じ動作をした後最後まで投げを行うという練習方法だ。そこで大外刈りや大内刈り、小内刈けや小外刈けといった基本技を何度も反復練習していった。
そしてそれらをしばらく行った後、乱取りというもの行うと言われた。乱取りとは試合のようにお互いに全力でぶつかり合うというものだ。
やっと投げられる。物凄く興奮しワクワクが止まらなかった。あの日観たヒーローのように相手を投げる自分が頭の中でかっこよくイメージされていく。
さあここから始まりた!
そこには畳の上に仰向けに寝転がっている自分がいた。
当たり前のことだった。自分は今日はじめて柔道というものに触れた初心者に対して教室にいる子たちはずっと練習を続けてきたのだ。
どんなに頑張っても相手を投げることはできず、自分よりも小さな子にすら投げられる始末。
結局練習が終わるまでに一度も投げることはできなかった。
家へ帰る道すがら周りの目も気にせずずっと泣いていた。
こんなにも悔しい気持ちは初めてだった。ただただ悔しくて、それでいて悲しくて、でもやっぱり悔しくて。
涙なのか鼻水なのかよだれなのか、それすらもわからなしゃがみ込んで自分を抱きしめてくてれた。
「これからいっぱい頑張ろう。ね?」
母親にぎゅっと抱きつき声にならない声をあげて大泣きした。
「次に流すのは涙じゃなくて青春の汗だぞ少年!さぁ共に歩もう!!」
そのまま母に抱っこされながら家に帰っていった。
そこからは柔道の人生だった。最初は投げられてばっかりだったが、たまに投げ返せるととても嬉しかった。
徐々に投げが決まる回数がどんどん増えていき、さらに楽しくなった。
もちろん練習はとても辛くて大変だった。けどそれよりも楽しさのほうが何倍も何十倍も上回っていた。
大会にもちょくちょく出るようになると、さらに柔道にのめり込むようになっていく。試合に負けると悔しいけど、その分勝てた時の嬉しさはすごかった。
寝ても覚めても柔道のことばかり考えている生活がずっと続いていて、気がついたら同年代の子には負けないようになっていた。
そうしていくうちに大会でも勝ち続けるようになり小学5年の時に初めて全国大会で優勝することができた。初めて勝ち取った全国優勝に家族総出で喜んだ。叔父さんも自分のことのように喜んでくれてその日は飲めや歌えで大変だった。
母がいい加減にしろと怒鳴るころには父と叔父はべれんべろんに酔って居間で寝入ってしまっていた。そんな二人を見て母と自分は大笑いしてしまった。
高校に入るとさらに柔道に力を入れるようになる。全国でも有数の柔道名門校に特待生として入学し、寮に入って柔道浸けの生活である。
部活の仲間は全国から集まった猛者ばかりでありそこではお互いを高め合いながらレギュラーの座をかけて死闘を繰り広げていった。
これまでにない環境にどんどん上達していくのが目に見えて感じ取り、さらに練習に打ち込むようになっていった。
そして二年生の夏、インターハイにて団体戦で準優勝、そして個人戦では優勝を勝ち取った。高校に入って初めての全国制覇であり、団体戦では初の準優勝。
その日の祝賀会では嬉し涙と悔し涙を流す部員が多数いた。準優勝できた嬉しさ、優勝できなかった悔しさ。特に今年で卒業の三年生はみな悔し涙を流していた。
そして上級生から下級生へバトンタッチ。来年は絶対に優勝してくれと激励された。
来年こそは個人、そして団体の完全制覇とを心に誓った。
今年のインターハイは終わったが、自分にはまだやるべき事が残っていた。
世界ジュニア柔道選手権大会だ。ジュニア選手権は15歳以上21歳以下という年齢の選手による大会であり、世界各国の強豪があいまみえるのである。
今年の開催国はフランスで行われるので海外遠征だ。
インターハイでは高校生だけであったが今回出場選手位の多くが歳上であり格上である。
だからといって負ける気はさらさらない。やるからには本気で優勝を狙いに行く。
結果は三位の銅メダルだった。
戦績だけみれば大健闘なのだろう。わずか16歳にして世界三位という偉業を成し遂げたのだから。
では納得できたかといえば、答えは否だ。
悔しくて悔しくて、とてもじゃないが笑顔はできない。両親に加え叔父さんも応援しにはるばる海外まで来てくれたのに。
母はすごい喜んでくれた。父はお疲れと労らってくれた。叔父さんは次はリベンジするぞと言ってくれた。
そのどの言葉も嬉しくもあり悲しくもあった。
このやり場のない気持ちをどうにかしたく叔父さんに練習に付き合ってくれるようにお願いした。
表彰式が始まるまでの時間、サブ会場で叔父さん相手に乱取りの稽古を行った。
叔父さんは身長187センチで体重も100キロ超えと重量級であり、そして未だに現役の選手である。
オリンピックでメダルを獲得したことこそ無いが、二度世界選手権を制覇している超強豪選手だ。
81キロ級の自分とは大きさがまるで違い、それでいて圧倒的なまでの技術特の差がある。そしてなにより世界と戦ってきたという経験による場数が違いすぎる。
そこには畳の上に仰向けに寝転がっている自分がいた。
自分はまだまだ未熟なんだと改めて思い知らされた。
どうしようもない悔しさが身体を支配していく。
天井を見つめる瞳から自然と涙がこぼれていた。
初めて柔道教室で負けて大泣きした、あの時以来の、悔し涙だった。
表彰式の時になると自分でも驚くぐらい落ち着いていた。おそらく叔父さんと行った乱取りで様々な感情をすべて吐き出したおかげだろう。
本当叔父さんにはお世話になりっぱなしだ。
インターハイ、そして世界ジュニア選手権が終わるとその次は来年の3月に行われる全国高等学校柔道選手権大会、通称春の武道館である。
来年の春高に向けて更に練習だと意気込むのであった。
日本に帰国したら猛特訓をしてもっともっと強くなろうと心に刻んだ。
数日ぶりに日本に帰国し成田空港で久しぶりに食べた日本食は身体に染みわたった。お米に味噌汁は最強だ。
そんな久しぶりの日本食で気分よくなりまったりした気持ちで帰りのバスに乗っていると反対側の席に小学生ぐらいの女の子が座っていた。
大きな赤いつば広ハットがとても可愛らしい女の子だ。手にキャラクターものの人形を抱えてた。
それはピーポくんだった。
ピーポくんとは警視庁のマスコットキャラクターである。自分も小さい頃からよく叔父にピーポくんグッツをもらっていたので慣れ親しんでいた。
思わず「あ、ピーポくん」と言ってしまった。すると女の子がこっちを向いてきた。
「お兄ちゃんピーポくん知ってるの?」
この歳でまさかピーポくんの話題をするとは思っていなくて少し恥ずかしくなってしまったが、ここで否定するのも女の子に失礼だと思い、知ってると答えた。
すると女の子がピーポくんについて色々と話しをしてきてくれた。嬉々として話してくれる子に思わずこちらも楽しい気持ちになってきた。
そこでふとあることに気がつくと、自分の鞄から家の鍵を取り出す。鍵にはあるストラップが付いていた。
ピーポくんストラップである。
そのピーポくんストラップを鍵から取り外すと女の子の前に持っていく。
「このピーポくんあげるよ。大切にしてあげてね」
女の子は驚いた顔をした後、隣りに座っている母親の方の顔を向けた。目は訴えかけていた。それを見ていた母親が優しく頷く。
するとぱぁっと満面の笑みを浮かべた女の子が、てこちらに向き直り「ありがとうお兄ちゃん!」とお礼を言ってきた。こちらも「どういたしまして」と笑顔で答えてあげた。
そいうしてしばらく話をしていて、それからどこに行ってたという話題になり、話を聞くと家族旅行の帰りだそうだ。
赤い帽子を両手で持ち上げ母親に買ってもらったのニコニコしながら話してくれた。よっぽど楽しい旅行だったのだろう。
しばらく話をしていると下車するバス停に到着した。少女の方を見ると偶然にも同じバス停で降りるという。
一緒に降りて一言二言話終え、お別れの挨拶をする
「バイバイお兄ちゃんっ!ピーポくんありがとうね! 」
両手をめいいっぱい大きく振ってお別れを言ってくれる彼女にこちらも手を振って答える。
そして手を下ろそうとした時ふと強い風が吹いてきた。
「あっ」
両手を上げていたことが災いしたのか、少女が被っていたつば広帽が風に流され道にふわりと音もなく落ちる。
どっかに飛んでいかないように、そばに駆けつけて拾おうとする女の子。
母親に買ってもらった大切な帽子である。飛んでいってしまっては大変である。
帽子を手に取り被ろうとしてふと顔を上げるとさっきまで遠くにいたお兄ちゃんが目の前にいた事にびっくりしていた。
驚く女の子に構うことなく飛びつき勢いそのままに抱きく。
次の瞬間、凄まじ衝撃が身体を襲った。
今まで感じたことのない感覚で痛みを感じる暇もない。それどころか意識もろともすべての感覚がどこかへ行ってしまったようでさえある。
消え入りそうな意識をなんとか手放さいようにし、動かない身体にムチを打って抱いていた女の子の顔を覗き込む。頭から血を流しているがなんとか息はしているようだ。
そのことに安心し女の子を抱きしめたところで意識を手放した。
不運にも帽子は道路へと飛んでいたのである。
そこにはトラックに跳ねられ、女の子を抱きかかえるようにして横たわっている自分がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます