第222話 聖魔剣 後編
黒と白の光が混ざり合うようにヨハンと冥王を包み込む。
白黒の光は小爆発を生み出した。
死霊王も包み込んだ光のエネルギーは、辺り一面に撒き散らされて荒野と化した戦場を爆発させる。全てを飲み込むと輝きはゆっくりと収まっていった。
「いったい何が起きたんだ?」
死霊王が眩しい目を何度も擦りながら、ヨハンの姿を探す。
しかし、冥王とヨハンがいるはずの場所には誰も存在しなかった。
聖剣も魔剣も、ドレインチェーンも存在しなくなっていた。
ただあるのはジャイガントが開けたものよりも、さらに大きな穴だけだった。
巨大な穴は、二つの光の衝突の凄まじさを表すように深く広いものだった。
「ヨハン殿はどこだ!ヨハン殿を探すんだ」
死霊王は魔族たちに命令して、ヨハンの捜索を命じた。
ヨハンの捜索をしたが、ヨハンは荒野と化した戦場で見つけることはできなかった。
では、どこにいるのか、ヨハンは死霊王と共に別の次元へ飛ばされていた。
ヨハンが作り出す亜空間と同じような場所を、冥王も別の空間を支配している。
その空間の名前は冥界。
冥王が支配する世界であり、本来の冥王の体が存在する世界へヨハンは足を踏み入れていた。
「ようこそ、我が世界へ」
「ここが冥界?」
「そうだ。貴様は俺を通して、この世界にやってきた。
貴様はやってくるべきではなかったな。
貴様ほどの力があれば俺を除けば最強でいれたものを」
冥王の体は骸骨ではなく。黒騎士本来の鎧と体を持っていた。
その手には赤黒い魔剣が握られている。
「俺は最強なんていらないさ。ただ、リン生まれて、ランスが守ろうとして、シェーラや、フリードが暮らしている。サクが愛した世界を救えればそれでいい」
「貴様は他人のために最強になるというのか?」
「それが必要なら、なるさ」
ヨハンは拳を握り、冥王に突き出す。
「くくく、なんともムカつく奴だ」
「そうかい?俺からすれば最初から最後まで俺の前に立ちはだかるあんたの方がムカつくけどな」
黒騎士はヨハンの言葉に笑い、ヨハンは昔を思い出すように黒騎士と相見えた戦場を思い出す。二人が言葉を語り合う時間はもう終わりが近い。
本当の決着をつけるため、ヨハンは右手に聖剣を、左手に戦斧を構える。
使い慣れた斧を握ると、この構えが一番落ち着くと思えた。
「お前はやはり変わった戦い方をするみたいだな」
「俺は俺の戦い方をする。あんたが強いことは知っている。
だけど、俺は負けるわけにはいかないんだ」
先手はヨハンの方から動いた。斧を振り上げ、黒騎士へ振り下ろす。
黒騎士は魔剣で斧を受け止める。
火花が散り、斧を受け止めた黒騎士に聖剣で下から上へと切り上げる。
奇襲に奇策を巡らせる。剣と剣の勝負では黒騎士に勝てはしない。
だが、策や奇襲などを巡らせることは黒騎士よりも遙かに得意だ。
なら得意な戦術へ巻き込んでしまえばいい。
「おっと」
「それで避けたつもりか?」
黒騎士が紙一重で聖剣を躱すが、ヨハンはサイコキネシスを使って鎖を放つ。
ドレインチェーンのことを覚えている黒騎士は、鎖の動きに過分な反応を示した。
魔剣を使い鎖を斬り捨てたのだ。
「冥王だったときのことが恐怖として残ったか?」
「ぬかせ!そんな小細工が俺に通じるか」
「そうかい、なら守り切れよ」
ドレインチェーンではない鎖も、アイテムボックスから出現させて、サイコキネシスで操る。そうすることで黒騎士はどれがドレインチェーンか分からさせないない。全ての鎖とヨハン自身の攻撃を防がなければならない。
数はそれだけで武器になる。
もしもドレインチェーンで黒騎士を捕まえられたら、冥界であろうとただで済むはずがない。
「舐めるなよ。ここがどこか忘れたのか?」
ヨハンが鎖を操るように、黒騎士は魔剣を振り上げ、地面の中から死人たちを召還する。これは総力戦である。
互いの全てをかけて、ヨハンと黒騎士がぶつかる最後の戦いなのだ。
死人がヨハンに群がり、ヨハンの鎖が死人たちを無力化していく。
死人を無力化するためにドレインチェーンを使わなければならないため、どれが本物なのか隠しておくことができない。
何より出し惜しみしている余裕を与えてはくれない。
だから、ヨハンは一つだけ策を残しておいた。
「俺こそが冥界の王だ」
「お前が王なら、俺は侵略者でいい。お前を倒せるなら何にでもなってやる」
斧を振るい、鎖を操り、聖剣を突き刺す。
ヨハンが黒騎士に向けて歩みを続け、黒騎士はふりかかる鎖を払いのけ死人を使う。二人が持てる力を使って、互いの全てをさらけ出す。
全てのドレインチェーンが動かなくなり、全ての死人が地に戻った頃。
黒騎士の鎧はボロボロになり、ヨハンの斧は折れて使えなくなっていた。
「最後の時のようだな」
「悠久にも思えたよ」
もう力など残っていない。それでもやらなければならないことはわかってる。
「二度とお前の顔を見ることはない」
「お前の顔は見たくないよ」
魔剣を振り上げる黒騎士、聖剣を突き刺すヨハン。
全てを出し切った二人の刃は互いを貫く。
先に膝をついたのはヨハンの方だった。やはり剣の勝負は黒騎士に分がある。
「どうだ!これが貴様の最後だ」
黒騎士が振り返り、ヨハンを見たとき。
ヨハンの頭上には数千の武器が空中に浮いていた。
その中にはジャイガントが使っていた。ミョルニルの姿もある。
「最後はお前だ」
ヨハンは片手をあげて振り下ろす。
それだけで空中に浮いていた武器たちが黒騎士に向けて飛来する。
数本を魔剣で弾いても、全てを躱すことはできない。
黒騎士の体へと刺さっていく武器たち、実態を持つ今の黒騎士には十分なダメージを与えるが、それでも倒しきれない。
いつの日もラスボスを倒すのは勇者の役目であり、それにふさわしい武器の役目がある。ヨハンは最後の力を振り絞り、聖剣を黒騎士の額へと突き刺した。
「本当にこれで終わりだ」
ヨハンは全ての力を振り絞り、黒騎士の全てを否定する。
黒騎士は信じられないものを見るように驚いた顔をしていた。
すぐにヨハンの攻撃の意味を理解して目を閉じた。
それは自らの滅びを悟ったようだった。
聖剣は再び白い光を発生させる。
今度は黒騎士の抵抗する黒い光は存在せず、そのまま黒騎士の体だけを包み込み消滅させていく。
「俺の勝ちだ」
地に膝をついたヨハンは、冥界で意識を失った。
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