第204話 神槌と魔剣

人智を超えた戦いが繰り広げられようとしていた。

先に動いたのはジャイガントの方である。

ジャイガントはミョルニルを振り、雷を発生させる。

傍にいたゾンビは雷に打たれ灰と化していった。


「神の力はどうだ」


冥王ハーデスにも雷は直撃したはずだった。

しかし、冥王は魔剣を天に突き上げ、直撃した雷を地面へと逃がしていく。


「この程度か?大したことはないな」


冥王がホーンホースに飛び乗り、ジャイガント目指して走り始める。

ジャイガントはヨハンとの戦いを教訓に強者と戦う際は、傷は自動的に癒えるものではないと考えるようになった。

そのため冥王が振るう魔剣をただ受けるのではなく。

ミョルニルによって、攻撃を受けるか流すことを選択した。


「巨人が防御をするか、どうやら随分と貴様も変わったようだな」


冥王は知っていたのだ。

ジャイガントが防御をせずに攻撃一辺倒な戦闘を繰り広げることを。

しかし、ジャイガントはヨハンによって敗北を経験した。

そして戦闘狂である彼は考えた。どうすればヨハンに負けないか。

ヨハンが使うシールチェーンに対抗し、ヨハンの攻撃を受けずに勝つためにはどうすればいいかを考えた。

ジャイガントの結論は初歩の格闘術を覚えるというものだった。

それも防御を重点としたものだ。

彼に足りなかったもの、それは自身をかえり見るということだった。


「我は敗北を知った。その敗北は心地良く、そして悔しいものであった。

もしも、再戦が叶うのあれば、次は必ず負けたくないのでな」

「最強と言われる巨人にそこまで思われる戦闘か。俺もしたいみたいものだ」

「貴様にはやらせてやらんよ。貴様は我が倒すのだからな」

「それはどうかな?貴様こそ再戦は二度とできぬと思え」


二人は不敵な笑みを作り、互いの武器を振り上げた。

ジャイガントの体は大気中の魔力を吸収してさらに大きく巨大になっていく。

まるで天から降り注ぐ雷のように、冥王めがけてミョルニルが振り下ろされる。


冥王はホーンホースに乗り、人馬一体となり地を駆ける。

ホーンホースは死馬となったことで、生き物としての限界を持たない速度で主を目的の場所へと運んでいく。

二人が衝突を選んだ場所で、巨人が振るう神の一撃と、冥界の王が放つ地獄の一撃は、戦場に静寂をもたらす。


「とんでもない一撃を放ちやがって、ジャイガントの奴め」


軍を指揮していた死霊王は恨み言をジャイガントに向けて放った。

それは死霊王にとって、ジャイガントの勝利を疑わないからこそ出る言葉であり、冥王を仕留めたであろうジャイガントの体は地面に一撃を放ったまま固まっている。


「冥王も終わりか?」


死霊王が動きを止めた死人たちを見て、安堵の言葉を口にした瞬間。

ジャイガントの体が傾き、地面へと落ちていく。


「なっ!」


ズドーン!!!


ジャイガントの体が地面へ倒れた衝撃で、砂煙と衝撃波が戦場を包み込む。


「どうなってる?」


死霊王は砂煙を払うように魔法を発動させる。

発動させた竜巻が砂煙を他へと運んでいく。


「なっ!」


そして、死霊王はもう一度驚くことになる。

そこにはヒシャげてつぶれたホーンホースがおり、その横に黒い鎧に身を包んだ冥王が立っていた。

目の前にはどこに外傷があるのかわからないが、完全に意識を失ったジャイガントが倒れていた。


「トドメだ」


さらに追い打ちをかけるため、冥王が魔剣を振り上げる。


「させん」


死霊王はとっさに動いていた。

自らが向かうには時間がないため、部下だった死霊を操り、冥王の前に盾とする。


「邪魔だ」


冥王は振り上げた魔剣を使わず、手だけで死霊たちを払いのけた。


「うおおおおぉぉっぉぉぉ!!!」


その一瞬でよかった。

その一瞬で死霊王が、冥王とジャイガントの間に割って入る時間を稼げた。


キンッ!


魔剣を受け止める。冥王の圧倒的な筋力に死霊王の剣がギシギシと震えていた。


「死霊王か、貴様も俺の邪魔をするのか?」

「ジャイガントを殺させるわけにはいかない」

「すでに勝敗は決した。俺が手を出さなくても、巨人は死ぬぞ」

「なにっ!ジャイガントには不死身の肉体があるのだぞ」

「それも魔力を取り込んで自動で回復するというものだろう。

ならば、取り込む機能を斬ればいい」


冥王が言っている言葉が死霊王には理解できなかった。

それもそのはずだろう、冥王が言っていることは、常人にできることではない。

取り込む機能というが、それは目に見えるものではないのだ。

ジャイガントに生まれつき備わっていたスキルであり、それはステータスにすら現れるかわからない固有スキルでもあるのだ。


「バカな!」


死霊王も信じられないと叫ぶが、冥王は死霊に向けていた魔剣を下した。


「自らの目で確かめればいいだろう。我々は一旦兵を退く」


冥王はそういうとフラフラとした足取りで歩き出した。

仮面の女性に肩を借りて退いていく。

巨人に与えられた傷は浅いモノではなかったことが冥王の姿で伺える。

連れてきていた死人たちも冥王に従うように去っていった。

死霊王は、冥王が去っていく後ろ姿をしばし見つめていたが、冥王の姿が消えるとジャイガントに駆け寄り傷を見る。

どうやってつけたのか、胸に深々と刻まれた魔剣の傷がそこに刻まれている。


「とりあえずは治療だ。皆の者、簡易テントを作るぞ。

それと治療師が必要だ。ヨハン殿に連絡せよ」


死霊王はジャイガントの命を救うため、この国一番の治療師を呼んだ。

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