第190話 ランス王

ラース王国は、元々あったエリクドリア王国を主として活動しており、元共和国領、元帝国領に関しては手つかずのところが多い。

文官が足りていない現状では自国の地盤を固めるの先決となってしまっているのだ。

 

そのため他国に関しては、税を絞り取る以外の政策を実行できていなかった。

執政官を派遣し、他国を弾圧することで抑えている。

はっきり言って彼らの力量に余る仕事ばかりで納めているというには程遠い現状が目に見えている。

また戦争で被害を受けた王国領土を、補整することに重きが置かれているため。

他の政策が滞っていた。


「民の食事は足りているか?今年の収穫量は?」


ランスは元々田舎出身である。

父が辺境伯の下で兵士をしていたこともあり、剣を教えてもらうことができた。

本来は農業をして生活している平民である。

そのため自分にできる政策の一つとして食糧の確保と農家への支援金を増やさせた。

ランスが行った政策として代表的なものであり、また一番の良策であり、逆に一番何も変わらなかった政策ともいわれた。


「王様が言われました通り、農家に支援金を配り、食糧の確保はできております」


セリーヌが報告を済ませ、ランスの質問が終われば、いつも通りの会議が進行していく。帝国との戦いからすでに半年が経とうとしていた。

ヨハンの所在は未だわからず。

いつしか王国内でヨハン死亡説が流れだしていた。

それと同時にランスはヨハンを探すことをあきらめかけていた。

自分にできることの少なさを痛感し、またそれでも自分にできることはないかと模索する日々が続いていた。


「王様がこんなところで何してるんだ?」


夕方過ぎの訓練所で剣を振っていた、

ランスを見つけてルッツが話しかけてきた。

ルッツも今では軍務副総督、ナンバー2の地位にある。


「色々考え事をするのに疲れてな」

「王様も大変そうだな」

「副総督も大変だろ?」

「そうでもないさ。戦争の終わった軍人なんて、訓練か警備が主な仕事で大したこともないさ」


ルッツも、今の現状に飽き始めていた。


「俺たち、高いとこまで登っちまったな」

「ああ、こんなことになるとは思っていなかったけどな」


ルッツは元々名誉貴族の父を持ち。

自らも兵士となり名誉貴族になれればいいという思いで軍に入った。

今では大貴族の一員になってしまった。

最近は他の貴族から縁談の話ばかりだ。


「いっそ全部捨てて、二人で旅にでも出るか?その方が気楽で楽しいぞ」


ルッツの言葉は、甘美な響きに聞こえてきた。ランスの心を揺さぶる。

しかし、ランスにもランスなりにやらなければならないことがあると思えるようになってきていた。


「行きたいな。本当に自由に旅がしたい。

天帝を討つためのに王国を飛び出したときは、本当に楽しかったな。

自分のことは自分でして、敵がいないときはのんびりとした。

みんながいて楽しくて……」


ランスの様子に、ルッツなりに気を使ったつもりだった。

だが、ランスはルッツが思っている以上に追い込まれていた。


「だけど、俺にはやらないといけないことがあるんだ」


思い出に浸っていたランスが立ち上がり、剣を振り上げる。


「何をするつもりだ?」

「お前は俺の味方か?」


振り下ろした剣を、ルッツの目の前で止める。

ランスの目は真剣だった。真剣にルッツの瞳を見つめていた。


「もちろんだろ?俺たちは親友だ」


ルッツはランスの様子に、慌てながらも応えた。


「そうか……その言葉を今は信じるよ」

「今は?」

「ああ、なんでだろうな。俺は裏切りを知りすぎた。

一番信頼していたミリューゼに裏切られ、妃たちも政治のことばかりで、俺を好きだと言っていたのはウソだったようだ」


力無く項垂れる姿に英雄の面影はなかった。


「そんなことはないだろ?あのときシェリルはお前に助けられて惚れてたよ。

サクラだってそうだ。ミリューゼ王妃は立場ってもんがあるだろうし。

ティア王妃もそうだろ?みんなそれぞれの立場で動いているだけで、お前を裏切ったわけじゃない」


ルッツなりにランスを励まそうとかけた言葉だった。

しかし、ランスに響いた感じは受けなかった。

それでもルッツは言わずにおれなかった。


「変な気起こすなよ。俺はお前に期待してるんだ。お前ならこの国をよくしてくれるって」

「ああ、俺もそのつもりだった。俺なりのやり方でな……」

「そうか、俺はそれを聞いて安心したよ」


ランスのどこか思いつめた顔に、安心などできなかった。

それでもそういうことしかルッツにはできなかった。


ランスがルッツと親しく話したのはこれが最後となる。

ランスはこれより思い通りにいかない現状を打破するために動くのではなく、ある考えの下で動いていくことになる。


「誰も俺の言うことを聞かないのなら、俺の子に全てを託せばいい」


ハンスがそうしたように、ランスは自らの子に全てを託そうと誓った。

ルッツと語り合った以降のランスは政治には極力関与せず子作りに励んだ。

朝昼夜問わず、妻たちの誰かを抱き、子供を孕ませた。


その甲斐あって、ミリューゼには二人の子供ができ。ティアには五人。シェリルには一人、サクラにも二人の子ができた。

 

十人の子宝に恵まれたランスは、後世で色欲王として語られる。

英雄として旅をしている最中も、女性を侍らせ。

王となってすぐに五人の妻を娶り、さらに十人の子を成した色魔として世に名を知らしめることとなった。


ある歴史家が語る。


これはランス王の抵抗だったと……自分を取り巻く女性は自分をないがしろにした政治を行った。それに対する反抗だったという者もいた。

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