反逆者編

第188話 新生ラース王国

天帝を討ち果たし、王国は帝国を滅ぼした。


ゲームであればここでエンドロールが流れ始め、エンドロールの後ろでは、英雄ランスと王女ミリューゼの結婚式が執り行われる。


ハーレムエンドを迎えたランスには。


隣国である獣人王国エルドール王国と同盟を結び、新たな王キングルドルフ・キングダムと協力関係となった。

さらに妹のティア・キングダムがランスの第二夫人として迎えら、獣人王国でも結婚式が行われる。

婚姻で協力関係は強固となり、ランスとキングルドルフは義理の兄弟の契りを交わす。


英雄ランスの第三夫人となったシェリルのために、ラース王国はエルフの里を新たに作り、その女王としてシェリル・シルフェネスが就任させる。

彼女の配下となる精霊族は民として認められ、精霊族はラース王国の傘下に入ることになる。


獣人や精霊はラース王国の目の届く範囲に自治が認められ、住民を表す番号が割り振られた。番号を持つ者はラースの民であり蔑まれることはない。

逆に番号を持たない獣人、精霊族、亜人種、魔族、魔物などは、民としてすら認められず、奴隷以下の扱いを受けることとなる。


これらの出来事を教会主体で行われ、ラース王国に逆らう者は断罪の対象とされた。


ランス王は自身は三人の妃と二人の側室を迎え、王としての歩みを始めた。

しかし、その歩みは順調と呼ぶには程遠いものであった。


「宰相、これはどういうことだ?」


新たな王を支えるために、これまでの仲間たちと相談しながら政策が行える場所としてラースは円卓を用意した。

円卓の上座にランスが座り、それぞれの代表者と話をしている。

代表者は、国を代表する文官や武官だけでなく、貴族のまとめ役や民の代表も参加することができる。

それはランスが民は等しく平等であると訴えるためだ。


「はっ、元ガルガンディア地方はジェルミー卿が引き継ぎ運営することを認める書類ですが?何か?」


新生ラース王国の宰相となったのはセリーヌだった。

彼女はミリューゼ王女の推薦もあり、王国の宰相として就任した。

他にも円卓に座るのは、妃のミリューゼ、宰相セリーヌ、国最高司令官カンナ、教会の使者としてアクアがいる。


それ以外のメンバーは獣人王国の外交官ローリー。精霊族の代表シルベスタ。

平民代表となる冒険者ギルド、ギルドマスターのフェスタ。

商人ギルドギルドマスターのダイコクの両ギルド長である。

 

また王都に住まう者は区間整理で分けられ、新たに作られた役職である自治会長たちに日々の出来事を報告されていく。 


「それはわかっている。ヨハン・ガルガンディアの捜索はどうなっている?」


ランスは苛立っていた。

自身の政策が上手くいかないこともあるが、王の就任と共に聞かされたヨハンの反逆、はっきり言って嘘だとすぐに気づいた。

しかし、外堀はすでに埋められていたのだ。

今更ミリューゼを裏切り、ヨハンにつけるほど自分の立場は軽くない。

ランスは全世界の英雄という重みが両肩にのしかかる。


「今だ消息不明です。ですが、元共和国領内に潜伏している恐れが一番高いようですね。あそこにはヨハン・ガルガンディアが作ったと言われるダンジョンが存在しますので」


ヨハンはセリーヌたちの網を潜り抜け、ジャイガントと共に行方を眩ませていた。

ドワーフ族やノーム族、エルフやコボルトなど。

ガルガンティアに居て自治を認められない者たちも同じように消息が分からなくなっていた。

 

ランスはすぐにでもヨハンを見つけ出し、無実を証明したいと思っていた。

時間が過ぎるとともに、世間的にも、ヨハンは反逆者であったと認知されてしまうからだ。


「引き続き捜索を頼む……ガルガンディア地方は大丈夫なんだな?」

「はい。ジェルミーは優秀な男であると我が妹マルゲリータが申しておりました」


セリーヌの返答にランスはそれ以上何かをいうことはなかった。

ランスの叫び声が収まったので、これまでの現状確認や、これからについてが話し合われ、会議の終盤に差し掛かったところで、アクアが報告を始める。


「昨日報告がありました。ガルガンディア地方に住んでいたゴブリン、オークの集落を断罪に成功。死者は姿を眩ました物を除いて二万ほどになっと思われます。

こちらにも多少被害が出ましたが、問題ありません」


アクアの報告にランスは奥歯を噛む。

教会が主導で行っている断罪は、ランスが就任するよりも前にアクアが提案したことであり、またミリューゼとセリーヌが認めたことだ。

 

主な標的はガルガンディア地方から東方に住む魔物の駆除ということになっているが、明らかにヨハンの戦力を削ぐための処置だ。


魔族や魔物に嫌悪感を持たないランスは、始まってしまった断罪に反対を唱えたが、神殿の意向に反することであると円卓を囲う者たちに多数決で敗北して、今は黙って聞くことしかできないでいた。


「以上ですね。では本日の会議を解散とします」


セリーヌの言葉で、円卓に座っていた者たちが席を立ち会議場を後にしていく。

ランスは戦いにおいては無類の強さを誇った。

だが、政治や国の運営に関して何も学んでこなかった。

 

だからこそセリーヌやミリューゼの動きに気付くことができず、今の現状に甘んじることしかできていない。


「ヨハン、お前がいれば」


会議場に残ったランスは窓から空を見る。


その心はどこかで生きているであろう、ただ一人の友のことを想いながら。

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