第162話 戦場のプロポーズ

ヨハンの狙いはキル・クラウンに勝つことではなかった。

勝つのは当たり前で、その上で双高山を拠点にすることだったのだ。

ゴブリンやオーク、それ以外の魔獣たちもそうだが。

自然が多い場所を拠点にしたがる配下がヨハンたちの配下に増えてきていた。

だからこそ、自然に囲まれた地形を大事にしていかなければならない。

 

拠点を増やすと同時にヨハンにはやりたいことがあった。

それがダンジョン作りである。

今回ノームに頼んだ仕事は、ダンジョンの基礎となる洞窟作りを頼んだのだ。

いずれは地下にも掘り進め、何階層にも渡る巨大ダンジョンにしたいと思っている。


「ヨハン様、キル・クラウンがハロルド砦に入ったことがわかりました」

「まぁ、そうなるよね」


ヨハンはキル・クラウンが敵であることが分かってから様々な自分を見せてきた。

ジャイアントと戦う自分。裏切りに対して非情に振る舞う自分。

工房で新作のアイテムを作る自分。美味しい料理を作る自分。

様々な姿をキルに見せることで、キル自身にヨハンと言う人物を分析させた。

それはヨハンの策であり、キル・クラウンがヨハン・ガルガンディアの本質を見ることはなかった。


「ヨハン様はわかっていたのですか?」

「まぁね。多分キルは、俺の広範囲魔法を警戒したんだろうな。

そのため俺はジャイアントに何度も同じ技を使ったわけだしな」

「そこまで考えて?」

「途中からね。まぁジャイアントとの初戦は突然の事だったからね。

でも、二度目の戦いは亜空間で見せないようにしたからな」


ヨハンはジャイアントとの戦いをキルが観察していることに気づいていた。


「ヨハン様が嘘つきなのは知ってましたが、ここまでとは」

「嘘つきって!人聞きが悪いな。俺はキルと友達だと今でも思ってるよ。

でも、敵であることも理解しているからね」

「そうですけど……私も気を付けておきます」

「なんで、そういう話になるのか分からないぞ。それよりもハロルド砦だよね」


なんだか雲行きが怪しくなってきたので、話題を変えることにした。


「もういいです。ハロルド砦ですが、キル・クラウン軍が五万、さらに他方から兵が入ったと連絡がきています」

「他方から?」

「はい。西のランス砦方面から、ハロルド砦に援軍でしょうか?」

「援軍か……なんだか厄介な気はするな」


嫌な予感を感じていた。


「もう一つ、問題があります。魔獣たちは、どうされるおつもりですか?」


リンの言葉に、ヨハンは天幕の外へ思いを馳せる。

ボスが連れてきたのはゴブリンだけではなかった。

魔獣や他の種族の魔族も連れてきたのだ。


「ついてくるなら仲間として扱うつもりだよ」


魔物も、魔族も、ヨハンは受け入れるつもりだった。

この地をダンジョンにするつもりのヨハンとしては、ここに住まう者が仲間になってくれるのはありがたい。

留まるのならばノームとともにダンジョン作りに励んでもらう。

コボルト族がいたので、彼らもノーム族と同じく穴掘りが得意な上に種族としての繁殖力もあるので期待している。

他にもヘルハウンドや、ナーガ族など。

ガルガンディア地方にはいなかった種族が仲間になるように申し出てきてくれた。


「わかりました。では、ついてくるもの、残るものを選定しておきます」

「ああ、頼んだ」

「これからはどうされるおつもりですか?」

「この地である程度落ち着いてから、次に移るよ。

もちろん、ハロルド砦を取って、このあたり一帯を手に入れる」

「それが叶えば、かなり帝国に食い込むことになりますね」

「そうだね」


共和国領だった精霊の森と、ハロルド砦を手に入れる。

元共和国だった領土の三分の一を手に入れたことになる。

帝国側からはハロルド砦が防壁となり、ガルガンディア地方の安全が確定する。


「ここまで急いで手に入れたのはサクさんのためですか?」


サクのためと言うのは、ガルガンディアの安全を確保したからだろう。


「それは……関係ないさ。地図を見たとき、この辺は自然が多くて手に入れたい場所が多かったというだけだ」


森が多いということは、魔族や魔獣が多く住んでいる。

それは王国で得る兵とは違うヨハンだけの兵になってくれる可能性を秘めているのだ。


「ヨハン様が未来に何を見てらっしゃるのかわかりませんが。私は最後までお供します」


ヨハンはリンに何も告げてはいない。

それでもリンはどんな未来が待ち受けていようとヨハンの後をついていくと決意を込めた瞳で告げたのだ。


「ああ。リンを一番に信頼している。これからも隣に立って歩んでほしい」

「えっ!」


それはプロポーズともとれる発言だった。

ヨハンは立ち上がり、リンの前に立つ。


「リン、俺の横に並んでくれるか?」


今度はハッキリとリンの前に立って手を差し出す。

二人が出会ってから六年の月日が流れていた。


「……いきなりなんですね」

「ああ、ずっと言いたかったからな。本当はもっとロマンチックに言うつもりだったんだけどな。リンにお供しますって言われたら言いたくなった」

「言いたくなったって……もう、本当にムードもないですね」

「イヤか?」

「いえ、嬉しいです」


リンはヨハンが出した手を取る。


「これから先、何があろうとリンを離さない」

「私も何があろうとヨハン様に付いて行きます」


ヨハンはリンの手を引き寄せて抱きしめた。


戦場の合間に行われた告白は二人らしい。

仲睦まじい二人の様子に仲間の間ですぐに知れ渡った。

物陰に隠れて護衛していたフリードが、言いふらしたことは間違いない。

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