第137話 救出作戦

ライスによって語られた第二軍壊滅はかなり深刻なものであった。

話を聞いたヨハンは、迅速な対応が求められすぐに軍を動かす手配に入った。


「ハッキリと状況は分からない。ただ、かなりの劣勢であることは変わりない。

それでも第二軍の正確な状況が知りたい。第三軍の生き残り及び、第二軍の救援も合わせて一万を連れて出陣する」


残された幹部たちは戸惑った。

今までヨハンは入念な準備と理性的な策によって敵を倒してきた。

だが、相手の情報もわからない。なんの準備もない状態で救援に向かうという。

ヨハンは感情に任せ、幹部の意見をねじ伏せ出陣を速めた。


「アイスに帰還してもらってガルガンディアの防衛をしてもらってくれ。

残り兵は全てアイスに預ける。補佐としてゴルドナ殿、頼んだ」


ヨハンに命令されたゴブリン伝令は、すぐに部屋を出ていく。

留守を預かったゴルドナがうなずく。


「トン、チン、カンはそれぞれの拠点を守りつつ、出せる人員は全て出してくれ」

「「「はい」」」

「バイド、ギン、グーゴ、お前たちも同じだ。オークもゴブリンと同じように出せる人員は全て頼む」

「「「はっ!」」」


一万の兵はほとんど人間ではなく亜人種で固めるつもりだ。


「リンは俺の副官として出撃してもらう。シェーラも同様だ」

「「はい」」

「ジェルミーは内政を頼む。俺もリンもいなくなったガルガンディアを託せるのはジェルミーだけだ」

「やるしかないですな」


幹部に指示を出し終えた。

この場にいないシーラには国境の街の防衛をするように伝令を頼んだ。

またジャイアントには継続して侵入してくる敵の撃退をしてもらう。

自由に暴れていてもらった方が、こちらとしても都合がいい。


「さぁ、やることは山のようにある。仲間を救いに行くぞ」


ヨハンの号令で全員が動き始めた。

国境の街に向かう伝令に、ライスの義足と義手を頼んでおいた。

作り方の設計図も添えているので、なかなか良い物ができるだろう。


出撃は編成ができ次第すぐにガルガンディアを立つ。

アイテムボックスには一万人が一か月は食べてられる食料を収納した。

他にも荷馬車や毛布、服などの救助に必要な物を詰め込んでいく。

武器を入れると容量オーバーになりそうだったので、武器は各自で持参してもらった。


「出撃」


深緑に染められたヨハン専用の鎧に身を包み。ワイバーンに跨ってヨハンはガルガンディアを立った。亜人種で構成された一万の兵と共に。

一万の兵はほとんどがボスが指揮するゴブリンや、ギーグが指揮するオークで構成されている。


ワイバーンに跨るヨハンを不思議な目で見るゴブリンたち。

深刻な事態が起きたことで、質問する者はいないが主がドラゴンを従えていることに心強い思いがゴブリンやオークの気持ちを支える。 

出撃してすぐにシェーラが率いるエルフに偵察隊を任せた。

先行して、敵の動きや味方の居場所探ってもらうためだ。


「サクさんは無事でしょうか?」

「それは大丈夫だろう。あいつは元々セリーヌの部下で策に長けている。命の危険があれば何とか逃げ出すさ。策には忍びも従っているしな。本人も技術を心得ているはずだ」

「それならば良いのですが」


リンの心配を否定した。ヨハンも内心ではわからないと思っていた。

忠義に厚いサクならば、セリーヌのピンチとなれば自分の命を優先するかもしれない。自分の命を顧みる余裕などないのではないかと思えてしまう。


「伝令!先行しておりますシェーラ様から報告です」

「何かあったのか?」

「この先で、味方と思われる王国兵が敵と交戦していると連絡がありました」

「わかった。シェーラには援護だけで、本体が行くまで深追いするなと伝えろ」

「畏まりました」


伝令が走り去ると、ゴブリンの大将ボスとオークの大将ギーグに隊をまとめて迅速に進軍することを命じる。リンを乗せてワイバーンで飛び上がる。


「ダルダ頼んだ」

「主よ。我に任せよ」


ワイバーンのことはダルダリアンが長かったので、ダルダと略称させてもらった。

ダルダはヨハンを主と呼ぶ。一代限りのドラゴンマスターとして契約を結んでくれている。個人契約なので、種族としての契約ではない。

ただ、ドラゴンマスターが現れたとしても、ダルダがヨハンを裏切ることはない。


「頼む。一人でも多く王国の人々を救いたい」


ランスが生存している限り負けではない。

それでも兵がいなくては戦いにすらならない。

ダルダはヨハンの意図をくみ取り、全力で戦場へと飛び立った。


「これは……」


そこには地獄絵図が広がっていた。

少数の王国軍に大群で迫る帝国兵。

固まっているが一人でも脱落すれば、すぐに無数の槍によって貫かれ死体が完成していく。

残された王国兵もあと僅かなところにシェーラ率いる偵察隊が弓を打ち込んだ。


シェーラが選抜した狩人は隠密行動も、弓の扱いも長けている。

ただ、100人ほどの彼らの攻撃では敵の攻撃を止めることはできない。

自分の居場所をさらけ出すだけで、危険の方が高い。

それでもシェーラは黙って見ていることができなかったのだろう。


「ダルダ。ブレスで一気に帝国兵を焼いてくれ」

「承知」


ダルダがブレスを発動すると同時に、ヨハンは風を巻き起こす。


協力技 暴風竜のブレス


久しぶりの閃きで、ヨハンとダルダの攻撃は協力技として発動した。

協力技は普通の技よりも威力が大きく広範囲で攻撃で敵に降り注いだ。


「なんだ!どうしてドラゴンがこんなところ!」


帝国兵はダルダの存在に気付いて、弓や投げ槍を構える。

空高くに飛び上がったダルダに攻撃は届かない。

何度も協力技を繰り出して帝国兵を上空から攻撃する。

そのうちにボスたちの部隊も到着して地上と上空からの強襲に成功した。

残された王国兵は巻き込まれる前にシェーラによって救出されたようだ。


数にして3000ほどの帝国兵がいたが、終わってみれば楽勝で殲滅することができた。

ただ、救出できた王国兵は200名と随分と少なかった。

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