第20話 イベント1 エピローグ 前
ティア姫の体調が回復したことで、俺達は国境を目指して出発した。元々獣人王国に近い場所だったので、国境まではそれほど距離はない。
幼女であるメイを連れているので、疲れたメイを代わりながらおんぶする。寝心地がいいのか、俺におんぶされることをメイが望むので自然と俺の回数が増えていた。
ランスは女性と供に歩くと固まるので最初から論外にされている。今はフリードに変わって偵察を道作り担当。
ティア姫の世話はリンにして任せて、護衛はフリードに頼んだ。
森の中を警戒しながら歩くのは疲れる。先程のオーガほどではないが、キメラアントやジャイアントバットなど魔物が森にいる。奴らは数で襲い掛かってくることがあるのでモンスターでも危険な分類に入る。そういうやつらは早く見つけて対処しなければいけない。
「どうだ、フリード」
「フリーって呼んでほしいっす。今のところ魔物の気配はないっす」
フリードの探索を使いながら安全な道を確保していく。非戦闘員が二人もいるのだ。無理に戦わないで済むのなら戦わない方がいい。
「姉様、無事におうちに帰れたら、またお花摘みに行きたいの」
「そうですね。花の冠をメイに作ってあげなくては」
俺の背中に乗っているメイは、終始後ろを歩くティアに話しかけていた。ティアもニコニコしながらメイの話を聞いてやる。姉妹の中は良好なのだろう。横にいるリンもメイが元気になり嬉しそうだ。
姉属性を持つリンにはメイが可愛くて仕方ないことだろう。リンには魔女っ子属性と頑張る姉属性が付与された。さらには獣人の美人と可愛いの両方に挟まれる異世界。
我が生涯に一片の悔いなし。
「ヨハンさんどうしたんですか?急に手を突き上げて?」
リンの問いに応える答えを持ち合わせておらぬ。
「気にしなくていい。俺は今を謳歌しているだけだ」
「変なヨハンさんですね。あんなにも凄いのに」
「ヨハンは何が凄いのですか?」
「何が凄いの?」
リンの言葉にティアとメイが反応する。厄介な話になったものだ。どうして幼女であろうと女性が集まると姦しい。
「ヨハンさんは戦士なんですけど。様々な魔法も使うことができるんです」
「確かに先程は複合魔法の雷を使っていたわね」
「ええ、私もびっくりしちゃいましたよ。複合魔法なんて、見るの初めてです。二種類以上の属性持ちが何年も修行して身につけるものなのに、ヨハンさんの歳で使えるとか反則ですよ」
初めて会ったときにオドオドしていたリンを返してほしい。どうして女性が増えるとこんなにも強くなれるんだ。しかも相手は王族だぞ。一般市民のリンなど一生、話ができない相手かもしれないんだぞ。もっとビクビクして話そうなリン。
「何か特別な訓練でもなされているのですか?」
ほら、お姫さんまで興味をもっちゃったよ。
「別に何もしてないよ。ただ図書館で勉強しているぐらいかな?」
嘘はついてない。本で読んで勉強したことを実践で試しているだけだ。あとはステータスが見えるから、好きなスキルを取って楽はしているけどな。
「ウソですね。本を読んだだけで魔法が使えるならみんな天才じゃないですか」
リンが水を得た魚のように元気いっぱいである。デリケートな話まで踏み込んでくるよこの子。リンってこういう奴だったのか……めんどい。
「そうそう、俺は天才なの」
「もう~ちゃんと教えてくださいよ」
「ふふふ」
リンが俺に突っかかってくると、ティアが笑い出した。
「何が面白いんですか?」
リンがジト目でティアを見る。おいおい、王族相手にいいのかよ。
「いえ、二人は仲が良いのですね」
「そっ、そんなことないですよ。ヨハンさんは凄い人ですけど。この任務で初めて会った人ですし……」
チラチラとこっちを見ながら真っ赤な顔で否定する。その態度を見て、ますますティアが笑う。
「ヨハンは、モテますの」
幼女であるメイまでそんなことを言ってくる。うんざりしながら歩いていると、ランスから待てと合図が来る。
メイを下して臨戦態勢に入りながら、三人に身を隠すように手で合図する。
「どうした?」
「この先が獣人王国の国境なんだが、何かいる」
「またか、今度もオーガみたいなやつか?」
ランスの変な勘が当たることを知っている。
「いや、これは……アイツだ」
「アイツ?」
「黒騎士だよ。お前が戦って追い払った」
「なっ!どういうことだよ。どうしてアイツが!」
黒騎士と言われて俺の体が震える。正直ビビっていた。この世界で圧倒的な敗北を味合わせられた奴だ。出来るなら会いたくない。
「知るかよ。それよりも、どうするんだ?アイツの目的がわからないぞ」
「顔を合わせていいことはなさそうだ。迂回ルートはあるか?」
「いや、国境の門の前に立っているみたいだからな。違う国境を目指すなら数日はかかるぞ」
今から別の国境を目指せば、消耗の激しいメイやティアの体力が持たないだろう。どこかの村に立ち寄ってもいいが、そうするとランスの休暇が終ってしまう。
黒騎士がどこかに行くのを待つのもいいが、いつになるかわからない。
「なら、俺とお前で引き付けて、フリードとリンに国境まで連れて行ってもらおうか?」
黒騎士の出方を見てからだが、覚悟を決める必要がある。
「それしかないな」
ランスとの話し合いを終えて、俺はフリードを呼び寄せる。警戒するべき相手がいることを告げてフリードに三人を呼んでもらう。
「どうしたのですか?」
「ヤバい奴が国境にいる」
「どういうことです?」
「俺達は戦争でしか会ってないから詳しくはわからん奴だが。
共和国で傭兵をしている黒騎士だ。アイツがなぜか獣人王国との国境近くに立っているのかわからない」
「傭兵さん?」
黒騎士のヤバさは実際に敵にならなければわからない。何が危険なのか、伝わっていないのが分かる。
「あいつはとにかくヤバいんだ。俺とランスで奴を引きつける。
フリードがメイを背負ってくれ。ティアとリンはフリードと一緒に黒騎士がスキを見せたら、国境に走ってくれ」
「何が何やらわかりませんが、分かりました」
緊迫した状況だと分かってくれたらしい。ティアが頷いたので、メイも頷く。
リンやフリードには国境に送り届けたら逃げるか獣人に保護してもらうように言っておいた。新人冒険者を助けてやる余裕などありはしない。
「いくぞ」
合図と共に全員が動き出す。見つかるまでは固まって行動することにした。いきなり襲撃されてもその方が護りやすい。
どのみち国境門の前にいるのだ。見つからない訳にはいかない。俺達は覚悟を決めて国境へと近づいていく。
「うん?お前は確か」
黒騎士も俺のことを覚えていたらしい。俺の顔を見てニヤニヤと笑っている。
「戦場で殺し損ねた奴だな。どうしてここにいる?」
黒騎士から話しかけてくるのは想定外だが、下手なことを言って身を危険にさらすことはない。ティアとメイにはフードをかぶってもらっている。
「俺達は冒険者なんだ。ミッションの一環でここにきた」
「そうか、今回はパーティーを組んでいるのか」
黒騎士の目が怪しく光る。
「ガキばっかりだな。だが、そのお嬢ちゃんはなかなかだな」
フードを被っているティアの顔を覗き込んで、黒騎士がニヤニヤと笑い始める。
「どうだい?今晩俺と酒でも」
「結構です」
「つれねぇな。まぁこれから戦場が俺を待っているからな。今日は気分がいい」
黒騎士は獣人王国とエリクドリア王国の戦争に参加するつもりでここまできたようだ。
「お前達とも今回は仲間同士だ。見逃してやるよ」
そういって黒騎士は黒馬に乗ってその場を後にした。
「生きた心地がしねぇ」
俺は大きく息を吐いた。
もしも奴にティアのことがバレて、手柄欲しさに戦闘になったらどうしようかと警戒していた。どうやら杞憂に終わってくれたらしい。
黒騎士が求めている戦場を失くすことになるが、戦わないで済むならそれに越したことはない。
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