第18話 山賊討伐 4

盗賊のアジトを確認したメンバーは作戦を実行するために配置につく。

リンにはメイと共に隠れてもらっている。

フリードがアジトから出てくる山賊を見張れる木の上に移動を完了した。

逃亡した山賊はフリードに任せる。

アジトの出入り口は一つだ。 


「見張りは二人か」


フリードに合図を送って見張りの意識を反らしてもらう。

放たれた石礫に見張りが意識を向けた瞬間に一気に距離を詰める。


「いくぞ!」


ランスの声に体が動いた。ランスが右の見張りの首を斬り落とす。

俺も斧を投げて見張りの頭を割った。

すぐに見張り二人を入り口から隠して中に入っていく。

中は洞窟というよりも広い迷路のようだった。


「二手に分かれているな」

「どうするんだ?」

「そうだな。別れて行動して危険をとるか、一緒に行って確実性を取るか」


ランスの問いに俺は考える。山賊が何人いるのかわからない。

迷路がどこまで続いているのかもわからない。簡単に分れていいとは思えない。


「一緒に行動しよう。すでに時間をかけている。ここで別れて時間を稼いでも意味はないだろう」

「そうだな。それでどっちにいくんだ?」

「俺は右だな」

「そうか、なら右でいい」

「本当にいいのか?」


俺が言うとランスは反対しなかった。


「ああ、どっちに行っても同じだと俺は思ってるからな」


ランスの言葉に不思議な違和感を覚えた。


「どっちでも一緒?」

「ああ、まぁ勘みたいなもんだけどな」

「勘か……」


俺はそれ以上追及しなかった。

進むと決めた右の道に進むと、すぐに行き止まりになった。

ただの行き止まりではなく、牢獄があり一人の少女がいた。


「ビンゴみたいだな」

「そうだな」


青髪に獣耳、獣鼻をした少女が牢屋の中で座っていた。


「君がメイちゃんのお姉さんですか?」


横顔でも十分な美人だと分かるが、こちらを見た彼女は絶世の美女だった。

頭を抑えて溜息を吐く。ランスがダメになる。


「メイを知っているのですか!」

「ええ、僕たちが保護しています。僕たちはエリクドリア王国で冒険者をしている者です。山賊討伐でここに来たところ、メイさんを保護しました」


ランスには見張りを頼んで俺が説明を変わる。


「よかった……」


美女は心から安堵した顔で呟いた。


「次はあなたです。一緒に逃げましょう」


斧でカギを壊して牢屋の扉を開ける。


「さぁ、こちらへ」

「待て、ヨハン」


見張りをしていたヨハンの声で、美女と俺は動きを止める。


「相手さんのお出ましだ」


美女を背に庇って前に出ないように手で制して斧に手をかける。

ランスの向こうには暗闇の中で、山賊らしき大男が立っていた。


「おマエダチは誰ダ!オラの縄張りだぞ」


話し方が明らかにおかしい大男。両手に剣を持って仁王立ちしている。

狭い迷宮の中では大男が立っているだけで道が塞がれてしまっている。


「お前……本当に人間か?」


ランスがおかしなことを言い始めた。


「何言ってだよ、ランス」

「なんか、こいつが纏っている雰囲気が違うんだよ」

「ぐふぐふ、ぐふふふふ」


ランスの言葉を聞いたからか、大男は不気味な笑う声を上げだした。


「オバエ、スルドイ」


大男の声が先ほどよりも聞き取りにくくなり、まともな言葉を話せていない。


「お前はなんだ!」


ランスの問いに大男の姿が変貌していく。

太ってデカいだけだった体は引き締まり、先ほどまでよりもさらに身長が伸びて二メートルを超える。

肌は真っ赤に染まり、纏う雰囲気が二割増しになったように威圧が増した。

額から伸びた大きな角は禍々しい雰囲気を放ち、大男の姿はオーガへと変貌を遂げた。


「オーガだと」


俺は驚きのあまり言葉が続かない。確かにこの世界にモンスターは存在する。

しかし、あくまで獣のようなモンスターであり、魔人族や鬼人族などは人間と敵対する行動はとらない。

ゴブリンやオークなどの例外はあるが、ほとんどの人型モンスターは人族と共存しているのだ。


「本当にオーガか?こんな禍々しい雰囲気を纏った奴みたことないぞ」


ランスも額に汗をかいている。目の前にいるオーガの纏う雰囲気がヤバい。

オーガをもし討伐する場合は冒険者ランクAが必要だ。

Cランクだった俺達では到底勝てる相手ではない。


「どうするんだ?」

「どうするも何も……やるしかないだろ」


俺の言葉にランスは剣を握り直す。


「おい、お前。ここにいるのはお前だけか?山賊がいただろう?」


ランスはオーガに向かって質問を投げかけた。


「喰っタ。ぐふふふ、ココニイタ人間ハ喰っテヤッタ」

「外に居たのは人間じゃないのか?」

「アイツらはゴブリン、アノカタにスガタヲカエテモラッタ」


オーガは素直に受け答えしてくれる。

どうせ証拠など残らない。俺達を殺して食べると思っていることだろう。

オーガに知性はある、だが俺達を殺そうとしていることに変わりはない。


「作戦はあるか?」

「ここじゃあ、狭いな。できればもう少し広いところに出たい」


ランスに作戦を聞かれて魔法を使おうにも、ここでは狭くては威力のある魔法は使えない。


「なら、外に連れ出す」


ランスは、俺の言葉を聞くと雰囲気が二割増しになった。

無意識でしているのだろうが、魔力で肉体を強化したのだ。


「いくぞ」


ランスは剣を両手で持ち、オーガに迫る。

オーガもランスを敵と認めたのか、剣を受け止めた。

激しくぶつかり合う両者の剣が火花を散らす。


「アイツがスキを作ります。その間に逃げますよ」


獣人の美女に再度言葉をかける。


「あなたは一緒に戦わなくていいのですか?」


獣人の美女もオーガの異常性を感じている。

ランスと俺が共同で戦わなければ倒せない。


「一緒に戦いますよ。ですが、あなたが気になってアイツが力を発揮できないんです」

「……足手まといということです。申し訳ありません。わかりました。行きます」


俺の言葉に納得してくれたのか、美女は立ち上がり走るタイミングを計る。


「今だ」


ランスがオーガの剣を弾き、オーガが大勢を崩した。

ストーンで石の壁を作り出し、美女が通れる道を作り出す。

間違っても彼女に触れさせるわけにはいかない。

俺は美女の手を引いてオーガの横を通り抜けた。


「ランス!」

「おうよ!」


ランスとオーガが身体を入れ変え、俺たちを庇うように殿を勤めてくれる。


「とりあえず、外に出る。話はそれからだ」


追ってくるオーガの速度は、その巨体からは想像できないほど速い。

俺は目くらましとなる魔法を放ってオーガをけん制する。

オーガは身体を反転させて魔法を除けて、物凄い速度で迫ってくるのだ。


「俺が時間を稼ぐ、行け」


ランスが立ち止まる。

いくらランスの肉体が強化されていようと狭い場所で、勢いに乗ったオーガの腕力を止められない。


「ランス、ここは俺が足止めする。お前が彼女といけ」


彼女を押し付け、固まったランスの背中を押す。

命令に従う機械のように走り出したランスを見送って、俺は右手に水を左手に風を生みだす。

風によって冷やされた水は固まって氷になる。


「これでどうだ!」


氷の壁を作り出せば、オーガは急に止まれずに氷の壁に激突する。

オーガとぶつかり氷の壁が砕け散り、破片がオーガの太腿に突き刺さる。

鈍くなった勢いをさらに止めるために水と風で刃を作って太腿を切り裂いた。

オーガは転び、勢いが完全に止まる。


「とりあえず時間は稼いだ」


 

これだけやってもオーガを倒すには至らない。

俺は急いで外へと駆け出す。

外に出れば、ランスが美女と手を繋ぎ固まっていた。


「フリード!彼女を護れ」


木の上にいたフリードを呼び美女を連れて逃げさせる。

洞窟から出てくるオーガを狙うために、俺は右手に炎、左手に風を作り出した。

氷が作り出すことができたのだ。

今度は合わせることで雷を作り出すことができた。


「ランス、タイミングを合わせろよ」

「ああ」


美女の呪縛から解放されたランスも剣を構えた。

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