第058号室 水底団地 最後の攻防
”
「熱っ!気を付けろ、ハッチが茹で上がってやがる」
遠く背後で燃え上がる豪華客船の熱で沸き立った泥水により、熱せられていた潜水艇の扉に怯んだダヴィが後に続く小夜に注意を促す。
「あっつ!なにこれ?ハッチ茹で上がってんじゃないの??」
回避できたはずのダメージを受ける小夜を見て、ちょっとダヴィが混乱する。
「なんで触った………?」
「え………?………?………嫌な
真珠模様の団地建築に不気味を覚えつつ辺りを見回す小夜とダヴィが、同時に謎の飛翔体を見付けて、その場にしゃがみ込む。しばらく様子を伺うと、ダヴィが害意は無さそうだと立ち上がり、小夜は何かしら?とランドセルから、折り畳み式の双眼鏡を取り出して覗き喉を詰まらせて
「シスターが飛んでる………!」
断りもなく双眼鏡に伸びたダヴィの手を払い、小夜が駆け足で瓦礫に埋め尽くされた小道に踏み込み空飛ぶシスターを追いかけ、ダヴィもそれに続いた。
「おい、待て!何処へ行く気なんだ?あと、尼さんが飛んでるってなんだ?」
「何故飛んでるかは知らないけど、あの人はいい人よ?今から合流しましょう」
何をするでもなくパラシュートらしき物で空を漂っていたシスターが、突然降下を始めたのを見て、小夜が進路を変え小高く積もった瓦礫を伝い、真珠色に
「あらもう、皆集まってるじゃない。………余計なのも居るみたいだけれど」
小夜が遅れて登って来たダヴィを振り返り、困ったように、何か企んでいるかのように下唇を軽く噛んだのも一瞬の事で、フフンと鼻を鳴らし彫刻の施された柵へ鞭を二つ折りに掛けて、建物の壁を降り、ダヴィを上に残してそのまま走り去っていった。
「何だってんだ一体?あれは………?」
瓦礫の合間を流れる水の音に混じり、大口径の銃声が響く。触手を人の形に固めたような外見の異形が、重火器を撃つ人間に向かって、恐ろしい速度で迫るのを見て、ダヴィは建物から瓦礫伝いに飛び降りた。
ダヴィが全速力で走る、既に猶予はないように思えた。触手が身体の一部を剥ぎ取り、重火器を撃つ男へ投げ付け怯ませたのが見える。
まだ中程、我ながら瓦礫の上を、よくこの速度で走れるものだと感心する。男が殺られる寸前のところで空飛ぶ尼さんが割って入り、とにかく膝で蹴りまくったのも不意を突いた始めだけ、すぐ触手に組み伏せられた。
「ええい!戦い方を知らん奴らだ!!」
一手でのされた二人に悪態をつき、不意の突き方の手本を見せる。組み伏せた相手の首を折ろうと、身体を縮めた触手が力を加えた瞬間を見計らい、死角から飛び出し肩口へ一閃、腕を落とし加えた力の向きが狂い体勢を崩した相手へ更に一閃、脚を落とす。
人間相手ならば勝負ありだが、この相手は見た目通り手足の替えなら幾らでもあるらしい。すぐさま残りの触手を代替えに当て、紅白の透かしだらけのドレスを着込んだ、小夜曰く修道女なる痴女を押し付け、距離を取って仕切り直した。
『コザカシイ、ニンゲンドモメ!!』
「おうよ!……それより何だ〜?この痴女は………??」
言葉を話す
「その人にも、色々事情があるんです。初めまして、スティーブです!いいタイミングで来てくれましたね!ありがとう!!」
「ああ、ギリギリだったな!よろしく、ダヴィだ!!」
教授がシスターの頬を叩きながらダヴィに声を掛ける。
「こっちがシスターエルで、今、斬り掛かるのがボブです」
人魚の血の力によりダメージを回復したボブが追い付き、指揮触の背面へ
指揮触が犠牲覚悟で触手を絡め、穿たれながらもボブの槍を封じ、振りかぶった別の触手が、ダヴィの刀に斬り落とされる。
「人間だな!?助かる!!オレは「ボブだろ!?よろしく!ダヴィだ!!」ああ………OK!!」
『ヨロシク、ヤッテンジャ、ネェエエゾォオオオ!!!』
吼えた指揮触が鉈状に硬質化させた触手を圧し折り、二本の触手で持ってダヴィの刀と剣閃を交え、槍状に硬質化した触手を千切り、ボブの三叉槍と渡り合う。
挟み撃ちに持ち込むべく側面へ回り込むダヴィを、全身から
挟み撃ちが定石となり得ない相手の特性に気付いた教授が声を上げる。
「囲むのは悪手です!!全員で正面から掛かりましょう!!!」
『モウ、ソンナヒマハ、ネエ!!!』
ボブとダヴィの隙が重なり生まれた指揮触の余裕を潰すべく、教授が機関銃を単発で射ち込むも、指揮触は上半身を縦に割いて躱し、必殺の
『クソ、ガァアアアアアア!!!』
声を荒げる指揮触に、四人の人間が横並びになって詰め寄る。消耗し切った指揮触の躰は人と変わらないほどに縮み上がり、残った数少ない触手を広げて威嚇しながら、横合いへ移動し揺さぶりをかける。
指揮触の動きに合わせて、四人が横並びの陣形を維持すように立ち回り、お互いの間合いを保ち睨み合う。
身体を倒し、やがて腹ばいに、人の形を捨て、猫とも
『『『『『『『『最後の勝負だ』』』』』』』』
それまでの片言の言葉からはかけ離れた滑らかな活舌と、高音と低音の性質を同時に併せ持つ人外の言霊、
『『『『『『『『皆纏めて死ぬがよい』』』』』』』』
反射的に武器を振り上げた四人と、勝利を確信し微動だにしない指揮触の間に、完璧にタイミングを見計らった小夜が割って入って鼻を鳴らす。
「フフン、死ぬのはあんたよ?」
指揮触へ背を向けた小夜がツイストダガーを全力で投擲、訝しむボブと驚くシスターの間を縫って、背後の何もない空中で突然ダガーが静止する。
「そう何度も、同じ手に引っ掛かると思ってんのぉおおお????」
小夜が声を上げた時には一連の攻防が終わっていた。シスターの蜂の針より鋭いヒールの後ろ回し蹴りが空中にめり込み空間を歪め、ボブの三叉槍が弧を描き宙に切れ込みを入れる。半手遅れてダヴィが刀身に手を添え身体ごと押し込み虚空を削ぎ落すと、ようやく事を理解した教授が重機関銃を取り回し中空へ突き付け引き金を引く。
無にさえ擬態し景色透かして傍へと這い寄る人、化かす
『『『『『『『『このメスガキがぁああああ!!!』』』』』』』』
「黙れよな!!!」
触手を振り回し接近する指揮触の脳天目掛け、小夜が鞭を両手持ちで真上に振り上げ
『『『『『『『『イキってんじゃねぇええええ!!!』』』』』』』』
「を!?舐めてんだろ???」
鞭を渦巻かせ角度を付けて
『『『『『『『『死ね!!死ねぇえええ!!!』』』』』』』』
「死なないんだ☆」
がむしゃらに振り回される触手に鞭を合わせて
『『『『『『『『ああぁああぁああああ!!!』』』』』』』』
「ホント、むりだから」
極限下の集中力が今日
『『『『『『『『…………キュ!…………』』』』』』』』
「ザコ、ざぁ〜〜こ(笑)」
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