第056号室 水底団地 触手甲冑
決壊したダムの底より現れた”
ボブが鉄柱を外へ
《ダムの崩壊は余計だった。苦労して整えた環境が元の
ボブが半身に片手を伸ばし三叉槍の
《瓦礫と
がらくたを得物にした触手による飽和攻撃、懐中電灯の光が目を潰し、ポリバケツから砂利が放られ、捻じ切れた鉄柱がしなり、底の割れた酒瓶が風を切り、跳ねたタイヤが横合いから迫り、フライ返しが襲い掛かる。
《だが、無駄である》
ボブが腕を突き出し懐中電灯の光と砂利から目を守り、三叉槍で鉄柱を叩くが束ねられた触手の力に押し切られる。酒瓶を腹筋で止めるも
《手数が違う、
指揮触が四つん這いに突っ伏した相手の頭へ、スプレー洗剤を吹き掛けフライ返しで返して煽ると同時に、半数の触手を束ねて編み込み、重ねて固め、鉄柱絡めて大合掌、大上段に捻りもす。
《曲がりなりにも数合、打ち合えただけマシと心得え、散るがいい!!》
お辞儀をするように振り下ろされた
《………厄介な奴がいるな?》
鉄柱を握る触手の束が円状に裂けている。一拍置いて響いた銃声を聞いて、自身が狙撃された事を悟った指揮触は、素早く伏せて追撃を躱し、首を一回転、全方位を見渡す八つの瞳を造り、狙撃手の位置を探す。その中でもボブへの警戒は怠らず、三叉槍を捌きつつ、狙撃地点に当たりを付けて遮蔽物へ身を隠した。
「いや~ギリギリでした。上に跳ねたけど当たりましたね。十分通用しています」
甘い調整のスコープが取り付けられた重機関銃から教授が顔を離す。立ち上がった客船を目指していた教授は、行きがけに上がったロケット弾の爆発を見てボブと合流する為、爆発の痕跡を追う内に闘うボブと指揮触の姿を見付けていた。
「人魚の血、効くぅ………!」
腹筋に刺さったガラスを払い、痛みは引かなくても傷が治癒している事を確認してボブが呟き、響いた銃声から使われた銃器の種類を、教授に預けた狙撃用に組み替えた重機関銃と同定した。
狙撃手の技量を測る為、遮蔽物から頭に似せた触手を這わし、影から現わすと数秒おいて撃ち抜かれたのを見、指揮触が攻めあぐねて苛立ち、皮一枚で繋がり機能を失った触手を噛みちぎる。
(いい腕だ、教授は狩猟経験があると言っていたし、如何にも上流階級って感じするな)
ボブは息を整えながら指揮触を分析する。相手の好む間合いで使われる触手、一本一本の力は自分の腕力と同等に思える。懐に潜り込めば太く縮めた触手に圧殺され、遠間では攻撃が届かない。お座なりな技術を補って余りある手数の多さ、一人ではとても捌き切れる量ではなかった。教授の参戦は有り難い、銃弾が通用するのも有り難い、教授が狙撃し易い立ち回りを取るべきだろう。
指揮触が触手の外套を翻し、身体の内に隠していた錆び付いたナイフを投擲する。軍事基地で催された野球イベントで、本気のメジャーリーガーからホームランを量産したボブにとっては、何の変哲も無い甘く入った球であり、三叉槍でピッチャー返し、指揮触が逆に刺さったナイフを地面に叩き付ける。
指揮触が全身から粘液を噴き出し、泡立ち、泥と瓦礫とゴミを取り込んで細動、猛烈な振動で弾けた水分子が気化すると、その表皮が乾燥してヒビ割れ、黒く変色し油の染みた鉄鍋のように硬質化する。
指揮触が遮蔽物から姿を表し、空かさず教授の狙撃を側頭部に受けるも、反動により首を傾げた程度で意に返さず、銃弾の飛んで来た方向へ触手を真っ直ぐ指し示した。
「ああ、位置がバレたかも………?それより何ですか?色が変わったと思ったら、途端に銃が通用しなくなりましたね?人間だったら掠っただけで霧になるんですよ??」
教授が指揮触の
「第二形態ってヤツか?」
姿を変え重機関銃の狙撃を攻略して見せた相手に、ボブが独り言のつもりで言葉を漏らしたが、それを聞き指揮触が唐突に人語を返した。
『ナメテンジャネエ!!』
人外の技巧から繰り出された触手の鉄拳は、全くの油断も
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