第24話 駆除作戦

 王都を出発して三日ほど経つ。

 近衛第2師団と冒険者たちは北部の地域へとやってくる。

 しばらくはこの場所で野営をしながら、シーゴブリンの動向を確認しようというのだ。

 この間にクリスたちは、ティナの道具を使った特訓を行うことにした。

 すでにティナにあった武器は召喚している。

 手をすっぽり覆いかぶせるほどの大型のナックルダスターだ。

 スキルの説明に寄れば、かつてブリトン島にて13番目の騎士の素質を持つものが使うことが許された聖なる武器の一つとされる。現在はその神聖さは失われているものの、武器使用時に攻撃力が跳ね上がるなどの補助的な機能は残っているようだ。

 そんなナックルダスターをティナは装着し、エレナやペトラと共に特訓をしている。


「でりゃー!」


 ティナが拳を振りかざし、エレナに襲い掛かる。

 エレナは障壁を展開し、ティナの攻撃を防いだ。

 その後ろからペトラが剣を振りかざす。

 ティナはそれに合わせるように、拳でガードする。

 ペトラの剣を払いのけると、ティナは連続で拳を繰り出す。

 それをペトラは、剣を使って払いのけるようにいなしていく。

 その光景をクリスは遠目から終始見届けていた。


「ティナのやつ、だいぶ様になってんなー」


 そう、ティナは特に武術を習っていたわけではない。

 それなのにナックルダスターを器用に使いこなしているのは、彼女が持つ本来の身体能力の賜物だろう。

 そんなクリスは、今回の駆除作戦においてどのように立ち回るかを考えていた。

 現状では、作戦のほとんどは近衛第2師団が担当することになっている。


「俺はどちらかというと防衛に近いほうがいいかな」


 クリスの持つ戦力は、ほかの冒険者と比べて高いほうだ。

 そのため、シーゴブリンとの戦闘で手薄になる部分をカバーしに行くという戦法をとることにした。

 もちろん、近衛師団の参謀の指揮があれば、指示に従うことも考えてはいるが。

 そのような感じで、1日ほど時間を過ごす。

 そして作戦決行の時がやってくる。

 クリスたち冒険者は、近衛師団に混じって戦闘を行う前衛と、後方で待機する後衛に分かれることになった。

 ほとんどの冒険者は前衛を選んだが、クリスたちは後衛を選んだ。

 それは先に考えたようにクリスの持つ戦力を考えてのことだった。

 そんな後方にいる冒険者たちは、直接戦闘にかかわらないからか、比較的リラックスしているようである。

 中には談笑しているものもいた。


「ねー、クリスー」

「何?」

「私たち本当に後衛でよかったの?」

「さっきクリスも言ったでしょう?私たちは前線で穴の開いたところをカバーするって」

「でも、せっかく武器が手に入ったのに、何もしないのはもったいないじゃーん」


 ティナはそういってふてくされる。

 そんなことを話していると、水平線の向こうから爆発する音が聞こえてきた。


「始まったか」


 海の向こうにあるヤーピン皇国の水軍が、水中にいるシーゴブリンに対して追い込み漁を開始する。

 これに合わせ、近衛第2師団と冒険者は海岸線を左右に移動し、シーゴブリンを迎撃するという作戦だ。

 小一時間もすれば、海岸の浅瀬には大量の魚影が見えてくるだろう。

 そしてシーゴブリンの群れが続々と海から上がってくる。

 シーゴブリンは海洋生息に適応したゴブリンの亜種で、青黒い肌と首元にエラがついているのが特徴だ。

 そんなシーゴブリンの群れがどんどん海から出てくる。

 その数はおおよそ5000を超えるくらいか。

 それに対処するため、前衛は前進する。


「おぉー!」


 野太い雄叫びが聞こえ、近衛師団は槍を、冒険者たちは各々の武器を持って対処にあたる。

 クリスは持っていた双眼鏡を覗いて、前線の様子を見た。

 すると、偶然にもステファンの姿を捕らえる。


「来い!ゲテモノどもめ!」


 ステファンは最前線に立ち、その剣を振るう。

 斬っては走り、蹴っては突き刺し、刺した剣を離して下がったかと思えば、彼のスキル「万物の創造」で新たな剣を生成して、また斬りにかかる。


「へぇ、ステファンのスキル成長してるんだなぁ」


 クリスはそんなことをつぶやいた。

 しばらくすると、双方に損害は出るものの、シーゴブリンは次第に劣勢となっていく。


「押せー!」


 近衛師団の司令官が叫ぶ。

 それと同時にシーゴブリンは、海岸線に沿って逃げていく。

 前衛は、これを逃すまいと全力で追いかけていった。


「そろそろ後衛の出番だ」


 後衛に指示を送る近衛師団の兵士が声をかける。

 クリスを含む後衛にいた冒険者たちは、戦闘に加わるべく準備を始める。

 そんな中、エレナが異変に気づいた。


「海の様子がおかしい」

「え?」


 エレナの言葉に、クリスは双眼鏡を覗く。

 すると、海岸線に多数の魚影が確認できる。

 そして海からは重武装されたシーゴブリンの群れが出てきた。

 その数、1000といったところだろう。


「おいおいおい、まじか」


 重武装のシーゴブリンは海岸線の上陸すると、前衛のいるほうを向いて前進を始める。

 その行動に、クリスは気づく。


「やばい!奴ら前衛を挟み込むつもりだ!」


 そう、今の前衛は普通のシーゴブリンの群れを追いかけて海岸線を移動している。

 その背後から重武装のシーゴブリンの群れが来れば挟み撃ちの状態になってしまう。

 クリスはそれを阻止するべく、SUS-8を高次元空間小型格納コンテナから取り出し、着装する。


「みんな、行くぞ!」

「うん」

「分かりました!」

「やったー!実戦だー!」


 クリスたちのパーティーメンバーは、ほかの冒険者よりも素早く動く。

 そして重武装のシーゴブリンの前に躍り出た。

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