第四章 合唱祭編
第17話 心配で
授業を受け、放課後になる。
そんなのをもう毎日繰り返している。
変わりない日常。
安定、安泰な毎日。
今日も扶助部には一番に来た。
ふっ、これで部長の権威は守られた。
今週も俺の完勝だな。
他の二人が競ってるか知らんけど。
今日は金曜日。
ほんと君たち仕事少なくて良いよな。
仕事ないのがほとんどだけど。
学校行事ではもうすぐ合唱祭がある。
すでに伴奏者や指揮者を決め始めているクラスもあり、D組も他と変わらず同じ感じだ。
この合唱祭という行事、主観だが一人一人の温度差がかなりある。
ぶっちゃけ学校行事だと、やる気がない人が一番多い気がする。
その最たる原因は中学校の方針だろう。
そして周りの者の影響で、そのやる気が変わると思う。
クラスで聞こえてくる会話から考えると
『うちの中学まじ厳しかったわ』
と言っている人ほど真面目に歌い、
『うちの中学やる気ない人多かったからなぁ』
と言っている人はそいつもやる気ない。
育ってきた環境、まじ大事。
その人の人格形成に大きく作用する。
高校の段階でこのことに気付けたのはでかい。
え?普通はもっと早く気づいてる?
全く、これだから近頃の若い奴は………。
D組はやる気がある人が多いらしく、授業中もその話で盛り上がっていた。
うるさくて怒られるくらい。
いやあいつは授業中に絵を描いてたから怒られたんだっけ。
ほんと教師の沸点ってわかんないよね。
コンコンコン。
そんなどうでもいいことを考えていたらまるで空気でも読んだのかのように扉がノックされた。
やはり来たか。
こういう行事になると誰かしら来ると覚悟していた。
「どうぞ」
扉を開けるよう言う、仕事の時間だ。
…………はぁ……仕事かぁ………。
「失礼します」
入ってきたのは
去年から同じクラスの女子だ。
それ以外に特に情報はない。
悪い?
「
「櫛芭に用なのか?」
「いや、今のはいないのを確認しただけ。まぁ、分かってたけどね」
「……ここにきたってことは何か頼みたいことがあるんだろう?……なんだ?」
話を進めるために先を促す。
「
「………どういうこと?」
話が見えない。
とりあえず詳しく聞くことにする。
「私ね、未白と同じピアノの教室に通っててね、みんなに未白がピアノが上手いこと、知って欲しくて」
「相沢が直接頼めば良いんじゃないか?」
言ってから思った。
言えないから来たんだなって。
「うん。でも、それ一年の時もうやったんだ」
相沢は言いづらそうに下を向く。
「でも、なんか、すごく辛そうだったから………学校でピアノの話はしなくなっちゃった」
「櫛芭はピアノを弾きたくないんじゃないか?」
今の話だとそう感じてしまう。
そんな俺の言葉を、相沢は即座に否定する。
「それは違うの!……未白はピアノ、好きだよ。教室で会う時とか、コンクールの時とか、すごく楽しそうだし!」
相沢の言葉には、相沢しか知らない櫛芭の姿が次々に映り、
「……最近は、全然笑わなくなったから。きっと何かに悩んでるんだと思う」
彼女なりの、彼女を助けられない苦悩や悩みが詰まっていた。
「私じゃ解決できなかった。せめて、その悩みを解決してほしい………!」
………。
『ここに、使われていない一つの多目的教室の鍵がある。君にはそこで人を助ける活動をしてもらう』
二年生になって少しした頃、この部室で活動することになった理由である菊瀬先生の言葉が脳裏によみがえる。
「……分かった。……努力はする」
医療の最善を尽くすと同じイントネーション。
櫛芭の友人である相沢が解決できなかった問題だ。
俺がどこまでやれるかわからない。
その言葉を受けて相沢は帰った。
金曜日部活を早く帰るのはピアノのため、か。
相沢はそれを分かっていて扶助部に来たんだろう。
……来週から頑張りますか。
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