第14話 言えなくて

 次の日、朝から陽悟ひごに話しかけようとするが、なかなか一人にならない。

 改めて思うけどあいつ人気すぎだろ………。


 一時間目も二時間目も誰かと話し続けていて、俺が割り込む余地がない。

 ……柊木ひいらぎさん?あなたが頼んだんですよね?

 なんで一緒になって話しちゃってんの?


 三時間目の休み時間、やっと一人になってくれた。

 次の時間まであと三分。

 手短に行こう。

「陽悟、話があるんだが」

「え?え!?おぉ!」

 陽悟は驚いている。

「………なんだよ」

「まさか笠真りゅうまから話しかけてくれるとは思わなくて!本当に嬉しいよ!」

「ただ話してるだけだろ……」

 これじゃさっきまで陽悟と話してる奴がかわいそうだ。

 お前らぼっちに負けてるぞ陽悟を喜ばせることに関して。


 …………まったく嬉しくねぇ………。


 でも感情の変化、か。

 これも柊木の依頼に役に立つかもしれない。

「なんでそんなに嬉しいんだよ」

「そうだなぁ………お昼ご飯どこで食べているんだ?」

 話逸らすの下手か。


「気になってたんだ。いつもどこで食べているのか。途中で教室から居なくなることが多いからな。D組ではないんだろうけど」

 こいつ答えないつもりだな?

 しょうがない………。

 話の流れでまた聞くしかないか。

「空いてる教室に入って食べてるよ、途中でいなくなるのはあれだな。中途半端な時間に行けば、その空いている教室に入るやつもいないし、使っている教室も見分けやすい」

 陽悟はへぇ、とどこか感心したようだ。

 はいはいもうしょうがないなぁ。

「今の誰にも教えるなよ?楽なんだから」

「教えない教えない。じゃあ今日俺もついていって良いか?」

 なんのじゃあだよ。

「………1人が良いんだけど」

 何のためにわざわざ教室出ていってると思ってんだ。

「そこで教えるから!」

 ……あえて聞こう、誤魔化される可能性があるからな。

「何を?」

「なんで嬉しいかってこと!」

 言質とったからな。

 しかしほんとに俺と話すとき嬉しそうだなこいつ。


「分かったよ………じゃあ昼休み始まったら廊下で待ってる」

「へっへ」

 ニコニコすんな。

 こっちまで嬉しくなっちゃうだろ。


 四時間目が終わり、昼休みが始まる。

 いつもより早くに教室を出て、少し離れた場所に立つ。

 この時間は購買に行く人や、校庭に行く人など出歩く人が多いので廊下は混んでいる。

 人が多いところは嫌なので、これも中途半端な時間に教室を出る理由の一つだ。


 陽悟も教材をしまい、教室を出ようとする。

 その時、

「あれ?蕉野しょうやどっか行くの?」

 と陽悟は声をかけられた。

「珍しいな。この時間に外に出るなんて」

 あいつは確か……東堂寿樹とうどうかずき…だったかな?

 陽悟と同じサッカー部で隣にいることが多い奴。

 話を受けて広げるタイプの人間。


 東堂の声は教室に広がり他の人も陽悟を見て、珍しい。とか行っちゃうの?とか呟いてる。

 人気者は辛いな。

 俺は人気者じゃなくて良かったぜ!

 ………自分で言ってて泣けてきた。

 高校だけで黒歴史の本ができそうだ。

 歴史の影にしまっとこう黒船の端っことか。


 陽悟はというと………返事に困ってるな、あれ。

 こうなることは予想できただろ……。

 言い訳くらい考えとけよ……。

 何か、すごく言えないまずいことを隠してるように第三者には見える。

 おいおい、どうすんだよこれ。

 ………何か出来ることは、と思ったけど

 ぼっちには何もできんな、これ。


 頑張れ!陽悟!と心の中で思ってると

「別に良いんじゃない?蕉野の自由でしょ?」

 と柊木の声。

 おぉ、一応依頼には協力してくれるんだな?

 その声は他の発言を許さないように教室中に響いた。

「まぁ、散歩だな」

 陽悟はようやくそう言って教室を出ることができそうだ。

 ごめんねイレギュラーな俺がいて。

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