3「ダンジョン再び」


 酷い口喧嘩が続き、とにかく、二人を黙らせようと思ったら


《マスター、アンデッドの大群が、こっちに向かってます》




アンデッド

死体を元にした魔獣などの総称。魔法によって操られる人形か

寄生型、又は憑依型の魔獣によって操られているかのどちらか。

なお、共通して回復魔法が弱点。




《相手は、女性型のアンデッド。何だか変ですけど》


との事だが、取り敢えず


「おい!敵が近づいてるらしいぞ」

「「えっ!」」


と口喧嘩をやめ、声を上げる二人。そして俺は、ミズキの杖と、

ダンジョン攻略後、俺に返していた鎧を

宝物庫から取り出して彼女に渡した。


「俺たちは、ベルを倒しに行く。そっちはご自由に……」


まあ逃げるのは無理だろうが、後は、守りに入るなり、戦うなり、

彼女の自由にさせた。何かさせようという気持ちが特になかったからであるが。


 俺は、武器をフレイに切り替えた。アンデッド、俺的にはゾンビって感じだが、

こういうのとは戦ったことは無いが、ゾンビと言えは、拳銃と言う気がしたからだ。

そしてイヴには、戦闘モードに切り替えて、敵が入ってきたら

攻撃するように命令した

やがて扉が勢いよく開き、ゾンビ共が入って来た。俺は銃を構えたが


「!」


その顔を見て、俺は撃てなかった。


 入ってきたゾンビは、イヴの銃器による攻撃と

ワーウルフに変身したリリアの爪により斬撃、そして


「ヒーリング・エクスプロージョン!」


ミズキの広範囲回復魔法で、ゾンビはあっという間に全滅し、

倒されたゾンビは、消滅した


《やはり疑似魔獣でしたか、変だと思ったんですよね。

個体差が無いアンデッドなんて》


ゾンビは死体を元にする以上、必ず、個体差が出るそうだ。

そしてミズキが


「どうしました?武器を構えた割には、攻撃はしなかったようですが?」


リリアは、元の姿に戻っていて、


「アンデッドにビビって何もできないってか?」


と二人とも、揃って馬鹿にしたように言う。


「違う……」


怖くないと言ったら嘘になるが、撃てなかったのは別に理由がある。


《マスター、大丈夫ですか?》


心配そうに聞いてくるクラウ


(大丈夫だ)


と答えたが、あまりいい気分はしていなかった。

なぜならゾンビたちは、クラウの言う様に個体差が無く

顏も全員同じであるが、その顔は、大十字にそっくりだったからだ。


 ゾンビたちは、ベルが作ったもの、多分、大十字が、

彼女からすれば恋路を邪魔したようなものだから、

だから、その当てつけもあるだろうか。


(別人だと分かっていても、撃てないな……)


 俺たちは、部屋を出た。付いて来るイヴ、リリア、そしてミズキ、


「ミズキ、お前……」

「私は落とし前を付けたいだけです」


部屋の外に出ると、スケルトンの一団が襲って来た。

ゾンビより強いみたいだったが、気兼ねが無く攻撃で来たので、楽であった。


 その後、襲ってくる魔獣は、全て疑似魔獣でアンデットを主体に、

スライムやゴブリンと言った低級魔獣。

リザードマンやオーク、ワーウルフなど、中級魔獣、

広い部屋には、ドラゴンと言った上級魔獣もいたが、

鎧の力と、クラウ、イヴ、ミズキ、そして、リリア、特に彼女が、

敵に合わせて、様々な魔獣に、変身して戦うのだが、その活躍が目覚ましく、

そんなに苦戦はしなかった。


 ただダンジョンは広く、入り組んでると言う事もあり、周辺把握で

ベルと思われる人物は補足していて、そこまで、最短距離で進んでいるものの、

時間がかかり、


(もう日が暮れてるな……)


今日中に着くかどうかというところであった。

なお、食事は、持ってきた携行食をくばり、各自で食べた。


 そして障害は魔獣だけじゃない。罠があちこちに仕掛けらえている。

例えば、壁から飛び出る棘、または刃。


「!」


天井からの落下物、岩、鉄球、その他諸々。


「いっ!」


飛んで来る矢。


「ヒィ!」


噴き出す炎。


「アチッ!」


そして、定番落とし穴。


「きゃあああああああああああ!」


 落ちていくミズキを、第二区画の時と同じ様に

自然と、助けている俺、その後も、罠を潜り抜けつつ

進むが、途中、罠にかかったミズキを助けていると


「ヒャハハハハハハ」


と腹を抱えて笑い出すリリア。


「お前、引っかかりすぎ」


ミズキは棘、刃物と矢こそギリギリで避けたものの、

落下物は、どれも小さなものであったが、命中、火は大事には至らないが

身体をかすり、そして落とし穴にも何度か落ちかけ、

今も、罠から助け出したばかり。


 俺の場合は、周辺把握で罠の位置がわかるので、気を使わないといけないのは、

面倒であったが、罠には引っかからなかった。その事は伝え、


「俺についてくれば大丈夫だから」


と言っているにもかかわらず、何故かミズキだけが引っかかる。

リリアは、笑いながら


「お前、実はドジなのか?」


と言うと、ミズキは不機嫌な表情で


「世話になりたくないだけです!」


と言って俺を睨みつけてきた。


「それだけか?」


と言って笑うリリアに


「何ですか……」

「いやさぁ……暗黒神が、こんな事になってるわけじゃん」


と言って、俺を指し示した。


「無能のお前が、ドジ踏んだんじゃ、ないかってな」

「貴女ねえ!」


再び、口喧嘩が始まり、全く気が滅入る。しかし、ドジと言うのは

あながち間違いではない。


 そんな中


《マスター……》


とクラウが声を掛けてきた。なおこの時、武器はクラウに切り替えている。


「なんだ?」

《聞きそびれてたんですけど、気配が変わった理由って

分かります。マスターは彼女に詳しいみたいですが?》

「多分、化身だな。」




「化身」

ゲームにおける魔王にはキャラチェンジという

自身のキャラとは別に、キャラを作り変身する機能があり、

そのキャラを指す言葉。これによって、自身の身分を隠したり

また変身すると能力が制限されるので、

その事を利用したゲームプレイに使われる。




なおゲームの仕様では、魔王になると、再度キャラクターエディットを求められる。

その際は、専用のエディットパーツが有ったりするが、その辺は置いておいて

新しい姿を手に入れると、元のキャラクターは、仮の姿、化身となる

更に化身は元の姿以外にも複数作れる。


「普段と、路地裏で見たのとは、見た目は一緒だけど別の化身なんだろう。

だから気配が違う」


化身は、見た目は一緒でも、ゲーム内では、

表向けとは言え別人扱いになるから、それが現実だったら

気配の違いになるんだろう。ただ、そうだとしても、

何で彼女は、こっちが気配を知っている事が分かったのか、謎は残る。


 ここでいつの間にか口喧嘩をやめていたミズキが


「魔装と話してるんでしょうが、独り言みたいで、不気味なんで、

やめてもらえますか」


そう言われて、恥ずかしくなってしまった

クラウの声は他人には聞こえないのだから、第三者から見れば、

そう思われても仕方ない。ちなみにクラウ達は俺以外とも話せるのだが

同時に声を伝えられるのは一人までとの事。


「ところで、貴方、色々知ってるみたいですが、」

「それはな……」


説明し得忘れてたので、取り敢えず、化身の事も含め事情を説明した。

一応ミズキは、俺たちの世界の事に、詳しいから、苦労はしなかったが

ただ、転生石に関わる部分が、情報源が情報源だけに、

言うのを躊躇ったが、現場で話を聞いてたリリアが、横から口を滑らせたため

事情を説明する羽目に、ミズキは不機嫌な表情を浮かべた。


「そうなんですか……」

「人に言うなよ。事が事だけに」

「言えませんよ。そんな事」


ここで、リリアが


「無能の癖に、よくわかるな。アタシは、何の事だが、全然わかんねぇや」

「少しは、勉強されては、貴女、その無能に負けてるんですよ」


全くこの二人は一言多い。この後、魔獣にやって来たので、

口喧嘩どころではなくなった。


 そんな魔獣も、あっさり倒し、俺は、まだ少し早いと思ったが、

三人に、今後の作戦を伝えた。

作戦と言っても、フルパワーになるまでの間、

俺の代わりに戦って、尚且つ俺を守ってほしいと言う物であったが


「少し大げさじゃありませんか」


とミズキが言い、続けて


「確かに、彼女は強かったですよ。ですが、あの時は、部屋の中でしたし」

「やりづらかったよな。気使ってよお」


絶対命令の「手を出すな」と言うのは、俺に関わるものも含まれ、

そこには部屋も含まれる。だから、最初に襲われた時は、

部屋の事を気遣って、ミズキは強力な魔法は使えなかったし、

リリアも大型の魔獣に変身できなかったとの事。


「部屋の中じゃなかったら勝てたかと言うと、正直わかりませんが

それでもイヴさんと、悔しいですが、貴方が居れば十分ですよ」


リリアも、人を馬鹿にしたような言い方で


「あの女は強いけどさあ、暗黒神の力だっけ、

どんなもんかは知らねえけど、神の力を使うなんて大げさだろ」


と言った後、


「無能と同意見のは癪だけどな」


と余計一言。


 二人が口げんかになる前に、俺は言った。


「なあ、お前らを襲った時の彼女が、本気を出してたと思うか?」

「「えっ?」」


路地裏での様子から、ベルは二人を襲った時、

普段と同じ姿だったはずだ。


「あの姿も、化身だ。本気じゃない。」


俺は、プレイヤーじゃないから、実物は知らないが、

同人誌やファンアートでの魔王ベルの姿を知っているから、

普段から、その姿なら一発でわかる。


 そして、ネット由来の情報であるが、彼女の能力を話すと、

二人の表情からは、余裕が消えていく。


「貴方の話が本当なら、その方が得策の様ですね。

ただし貴方を守ると言うのは癪ですが」


一言多い。リリアも


「わかった、わかった、癪だけど、てめえの言う通りにするよ」


と俺の言う通りにしてくれるようだ。


 取り敢えず。彼女がいると思われる部屋に到達する前辺りから

スキルを解除して、到着した頃に、フルパワーならいいんだが、

そうなるまでの時間は、俺にも分からないので、

到着しても、まだで、そのまま戦闘と言う事は、大いにあり得るから

彼女達には、ああ言っておいた。


 だからと言って、早めにやって、到着までにダンジョンを壊しても大変だ。


(ほんと、到着時に、フルパワーになれれば、)


しかし、この直後、世の中、甘くない事を知った。

突如、足元から光、下を見ると魔法陣。


「これは!」

《転移の魔法陣です》

「皆、外にでろ。」


と叫びながら、魔法陣の外に出ようとしたが、

透明な壁の様なものがあり出れない。

リリアは転移を使ったみたいだが、魔法陣の外に出れないようだ。

次の瞬間、周りが真っ白になり、光が消えると広く何もなく空間。

よく見ると周囲には客席の様なもの。


「闘技場?」


 直後、


「ようこそ、我が城へ」


声の方には、ベルの姿。彼女も転移してきたようだった。


「さすがは、暗黒神。捕捉するのに、手間取りました」


俺の専用魔法が、破られて俺たちの位置が捕捉され、転移が使われたのだろうか。


「本来なら、私のしもべが相手をするのですが、あいにく今は居ないので

私、自らが、お相手しましょう。出し惜しみなしで」


彼女の体、光に包まれる。同時に、強力な圧迫感を感じた。

二人も感じてるのか、真顔で余裕が無いようだった。


 俺は、先ず転移除けの魔法を使った。


「なんでだよ!」


とリリアが不機嫌そうな声を上げ、


「ベルの転移が厄介だからだ」


とだけ言った。範囲はこの闘技場のみ、これが限界。

その後、「能力調整」を切りつつも、直ぐに、イヴに「切り札」の準備を命じた。


「お前らも準備しとけ、ヤツの変身が終わると同時に攻撃できるように

でも、変身中は攻撃するな」

「なんで?」


とリリアが言うと


「ヤツは、変身中に受けた攻撃を吸収して、強くなるんだ」


これは、彼女に限らず、魔王全般の特性である。


「あと出し惜しみなしでな」


 とにかく、準備を進める。ミズキは、鎧を纏った。

リリアは、デモスゴードに変身する。

やがて、向こうは変身を終え、光の中から現れたのは

黒い綺麗な長髪に、鬼のような角、顔立ちがより大人びて美しい。

体格は背も高く、体つきもいい、そして黒いラバースーツの上に

革製のセクシーな衣装、更に上から、黒いビキニアーマーのような物を纏う

ラバースーツの所為で露出度は抑え気味だが、色気を感じる

顏には、左半分だけ、白い仮面、背中には表が黒で裏地が赤いマント。


「魔王ベル……いや木之瀬鈴子……」


ファンアートや同人誌で見た魔王ベルは、当然、漫画調だったが

実写にしてみるとその姿は、木之瀬鈴子によく似ていた。

彼女が、魔王ベルの、コスプレをしているようにも見える。


 向こうの準備は終わったみたいだが、こっちも終わったようだった。

俺を除いては。なおジャンヌさんの見立てでは、

フルパワーで、良くてパンチ一撃、最悪でも二撃。

それ以外、クラウを使ったりした場合は、ダンジョンを壊しかねない。


 そして彼女とは、短期決戦に持ち込まなきゃいけない。

魔王としての力以前に、その向こう側の力を引き出す前に倒さねば。

だが、一番の問題は、魔王とは言え、見た目的には人間の女性である。

女性に手を上げられるほど、俺は、残酷では無いと言う事だ。

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