3「フォグタートル(1)」

 森の中央には、開けた場所があって、そこにボスであるフォグタートルが居た。

狙い撃った時とは違い、根は無くて代わりに、前足後ろ足、

そしてワニガメの様な頭を出していた。甲羅はゴツゴツしていないものの、

全体的に巨大なワニガメの様に見えた。

後に知るが、自然界にいる奴よりも一回り大きいとの事。

それとさっき撃った場所は、見当たらない。ここに来るまでに治ったのだろうか。


 フォグタートルが


「プオォォォォォォォォォォォォ」


と咆哮を上げると同時、ミズキが動いた。


「ファイヤ・シュート!」


彼女の杖から、火炎弾が飛ぶ。俺も、銃を撃ち、イヴも銃器で攻撃した。狙うは口。


 火炎弾は、口に入ったが、俺とイヴの攻撃は、直前で口が閉じてしまい

入らなかった。そうフォグタートルの弱点は、口というか、

強靭な防御力、しかも、頭部以外、防御スキルを使っていないのだから

恐れ入るが、ともかく、表層からダメージを与える事は、容易ではない。

だから、口を開けた瞬間に、攻撃を仕掛け、身体の中に直接ダメージを

与える必要がある。その為には、ミノタウロス以上に、飛び道具必須なので

フレイを使わざるを得ない。


 ちなみに、フォグタートルを目覚めさせるには、毒の他、

表層にある程度の攻撃を与えればいいそうだが、

それでも魔獣にとって、ダメージの内に入らないとの事


 フォグタートルへの攻撃方法は、ここに来る途中でクラウから聞いたし、

直後、ミズキからも聞いた。ミズキはクラウの声が聞こえないから

俺が、もう聞いている事を知らず、嫌味な口調で言ってきた。

しかし、さっきの事が有ったので、一発だけ、試しに甲羅に撃った。

結果として、まったく効果が無かった。


「あの~~~話、聞いてました~?」


と嫌味な口調で言うミズキ


「試してみたかっただけだ」


やっぱりさっきのは、特別で、あの光が関わってるのかもしれない。


 次の瞬間、敵の周囲に火球が出現する


《来ます!》


俺たちに向けて、火球が飛んできた。当然、避ける俺たち、

スキル「習得」は基本的に武器ごとに独立はしているものの

回避行動など、一部は共有されている。

火炎弾を避けつつも、途中でクラウに切り替え、氷結を使用しておく

それは、避けきれない分を、破壊するためであり、実際、幾つかは破壊した。


 口を開けてないときは、攻撃しても無駄なので、回避に専念するのが、

定石であるが


「貴方は避ける必要はないのでは」


と同じく回避行動を取っているミズキから、嫌味のような口調で言われた。


「だとしても、怖いものは、怖いんだよ」


彼女の言う通り、当たっても大丈夫なのは、分かってはいる

だけど怖いものは仕方ない。


 暫く、火炎弾が次々と生成されては、こっちに飛んでくる。

スキルによる攻撃だからか、ダンジョンであるからか、分からないが、

周囲に炎をまき散らしているのに、

周りの木々は一切燃えてない。そして、攻撃が一旦止むと、


「今度は、氷か!」


今度、大量の氷柱が出現し、降り注ぐように襲ってくる。

避ける俺たち、そして地面に刺さっていく氷柱。

これも、次々生成され、降り注ぎ、周りは氷柱だらけになるが

しかし攻撃が止むと消えていく。


 次と言っていいのか、突如、空に黒い雲が出現し、ゴロゴロと言う音がし始める


「まさか……」


そして、地面の何か所か光ったかと思うと、そこに雷が落ちた。

こうなるとは思っていたが


「落ちる場所が分かるんだな……」


と俺が口にすると、横でミズキが


「こんなの初めてですよ」


と言ったので、かなり珍しい事らしい。


 事前に、落ちる場所が分かるから、回避も容易そうだが、光ってから

落ちるまで、直ぐなので、油断は出来ないし、実際に、


「イデッ!」


雷に打たれた。自動調整が働いているので、俺自身は、静電気思いっきり溜めて

放電したような、あるいは軽い感電、小さいころ不注意にも濡れた手で、

プラグをコンセントに刺そうとして、大事には至らなかったが

軽く体が痺れた事が有る。それに近いものを感じた。


 「修復」が働いたこともあって、俺の体には影響はないが、突如、鎧やクラウが

重くなって、動けなくなった。


《スキルが麻痺しています》


どうもさっきの雷で、クラウや鎧のスキルが麻痺したようだった。


(これじゃ身動きが……)


と思った次の瞬間、


「パラライズ・キュア……」


とミズキが呟くと、クラウや鎧が再び軽くなった。


「麻痺を直す、魔法です。」


とミズキは言ったのち、癪に障る言い方で


「感謝してくださいね~~」


と言った。確かに、助けてもらったのは感謝だが、

最後の一言が余計、感謝の気持ちよりも腹立たしさが上回った。


 この後は、竜巻が出現し、それが襲い掛かってきた後、口を開け


「プオォォォォォォォォォォォォ」


咆哮をあげたので、直ぐに、フレイに切り替え、スキルで強化された

弾丸を撃った。なお誘導用のスキルが、弱まってるとは言っても、

さっきの様な長距離ではなく短距離なら、問題ないとの事で、

俺は、真横から撃ち、フレイの誘導で、口の中に入れている。

今回は数発ほど入った。

あとイヴの銃器系の攻撃や先に引き続きミズキの火炎弾もだ。


 再び、口が閉じると、宙に無数の大きな岩が出現し

俺たちの方へと、飛んできた。そう攻撃が再開されたのだ。

なので、再び回避を続ける事に、


 やがて岩が出現しなくなると、再び氷、たださっきとは違って

氷柱ではなく、氷塊。雹の如く降り注ぎ、それが終わると

レックスドラゴンや、デモスゴードが使ってきた空気弾が

風と共に魔獣の周囲に出現し、襲ってきて、

その次は、火柱。雷と同じ様に、地面の一部が光ったのち、

そこから、火が噴き出す、火が収まると何事もなかったように

地面は元通り。


 火柱が出なくなると、魔獣は咆哮と共に口を開け、そこを攻撃する。

フォグタートルが、口を開けるタイミングは、分からないとの事だったが

どうも、4種類の属性攻撃をした後で、口を開けるようだ。

ただ、その攻撃が熾烈なのが辛いところであるが、


 こっちが、攻撃を仕掛けた後、口が締まり、攻撃が再開され、

回避行動の繰り返し、そして、再び雷による攻撃が始まり


「キャッ!」


ミズキが、雷に打たれた。大丈夫どころ話じゃないが、

俺が声を掛ける前に、回避行動を始めたので、大丈夫の様だ。

しかし、思わずと言っていいのか、心配してはいないけど


「大丈夫か?」


と彼女に声を掛けていた。彼女は


「大丈夫です。補助魔法をかけていましたから」


と答えた後、「絶対命令」の影響で、

俺には、何事も正直に話さなければいけないので


「ただ、暫く魔法が使えません」


魔獣の攻撃を避けながら聞いた話では、補助魔法のお陰で、

多少のダメージはあったものの大事には至らず、

あと鎧や武器のスキルも影響はないが、暫く魔法が使えなくなったとの事。


 ふと俺は、ここで昨日のサイクロプス戦以降、使えるようになった

専用魔法の事を思い出し、攻撃が止み、次の攻撃が来るまでに

それをミズキに使った。


「これは?」

「暗黒神専用魔法の一つ、あらゆる状態異常を直す」


名称は、長いので割愛、というか、専用魔法は、

どれも名称が、長々としている。まあそれが刃条のセンスなんだろうが


「何故、さきほどは使わなかったのですか?」

「悪かったな、今思い出したんだよ」


その通り、早く思い出していれば良かったのであるが、


「とにかく、これで貸し借りなしだ。感謝する必要はなくなったよな?」


どちらかと言うと、彼女を助けたと言うより、

さっきの事に対する、意趣返しの方が大きい

俺の一言に、ミズキは特に何も返してこなかった。

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