3「突入準備」

 地下ダンジョンに行く事は決めたが、受付嬢には伝えなかった。

ダンジョンマスター、略してDMとするが、

DMになっても、ランクを上げるつもりはなく、

ギルドに伝えるつもりはないからだ。

経験者の話では、DMが出たことは公表されるが。誰であるかは、公表はされない。

黙っておけば、誰かは分からないのだ。

 

 その経験者が、公表しなかったため有名人なのに

DMになった事は知られていない。なんで俺が知ってるかと言うと、

その経験者は、雨宮だから、

俺が、ダンジョン行く事を言うと、自分が、かつてDMになった事がある事をあかし


「今の俺は、一緒に行けないけど。経験者として、及ばずながら助言させてもらう」


と言ってくれた。

なお、ダンジョンに入れる人間には、限りがあって、

ランク外の冒険者と一般人のみとされている。現在過去問わずランク上位の冒険者や

大魔導士は、入ることは出来ない。

理由は、ダンジョンの宝を独占にされるからなのと、

この底辺の冒険者にチャンスを与えるもの趣旨があるかららしい。

あと暗黒教団の関係者もアウトである。


 あと雨宮が、及ばずながらと言ったのは


「ダンジョンは成長するからな、あれ以来一度も言ったことが無いから

当時の知識が通用するかどうか」


 雨宮がDMになったのは、大魔導士はおろか審問官になる前、

魔法修行の一環として参加したとの事。


 雨宮が先に述べたが、ダンジョンは成長していて、


「俺の時より、ずっと難しくなっていて、ここ数年、

ダンジョンマスターは出ていない」

「そういや、『今年こそ』とか言ってたな」


ラビュリントス刑務所は地下ダンジョン、直径1キロで深さは50メートル程なのだが

これは、外観的な大きさで、中は空間が歪み、計測したことが無いので

不明だが、かなり広大で、更に


「あと時間については聞いてるか?」

「いや」

「ダンジョンの中は時間の流れが違うんだ。

外の世界の一時間が中では一日になる。開放される時間は24時間だから24日」


なおこれは年に一度だけおこる現象だそうだ。その日を一般開放の日としている。


「ダンジョンマスターになるには、泊まりで、数日かかる事になる」

「マジかよ」


 DMになるには思いのほか大変そうであったが、

だからと言ってやめる気には、なれなかった。


「まあ、ダンジョンと言うのはゲームの様なものだ。ゲームでモンスターを

倒すと色々貰えるだろ。それが実際に起きるからな。

しかも倒せば倒すだけ、こっちも強くなる」


つまりRPGにおけるレベルアップの様な事が起こる。


 一般開放の日の、ダンジョンは雨宮の言う通りゲームみたいなものだ。

しかし、死んだらおしまいであるが。


「まあ、お前の場合は死なないだろうが、

だからと言ってダンジョンマスターになれるとは限らない」


 俺は、雨宮からダンジョンの概要とDMになるために必要な事を聞いた。

まあ、そんなに難しい事じゃない。これもゲームの様な内容だ。

だからと言って、侮るなかれと言うところか。

これは、ダンジョンがどれだけ成長しようとも不変な事らしい


 そして、一般開放日は来月である。俺は下準備にかかった。

その一環として


「私にも、参加しろと」


不機嫌そうにミズキは答える。ダンジョンには、

いつもの俺とイヴに加えミズキを誘ったのだ。

それは、雨宮からの勧めであり、DMになる為の条件を盤石にする為

3人くらいのパーティーがお奨めなのと、もう一つ理由がある。

もちろん、ダメもとで、断られたら、絶対命令のつもりであったが


 ミズキは、少し考え込むような仕草をしたものの、あっさりと


「分かりました。私も行きましょう」

「いいの!」


思わず声を上げてしまった。これは、予想外だったから


「どうせ、断ったところで絶対命令で従わせるのでしょう。それに……」


彼女は、意地の悪い笑みを浮かべながら


「あの娘を、奴隷にできるのなら協力しますよ」


との事である。リリアを奴隷として迎え、何かを企んでるようだが

まあたとえそうなっても、彼女の思い通りにはならないと思う。


 パーティーが、そろったところで、先ずは装備の準備。

イヴは、装備がそろっているけど、ミズキは、魔法の杖しか持っていない

他の装備と言うか、彼女が着ていた服なのだが暗黒教団の紋章が付いていたので

すべて処分したからだ。

 

 そんな訳で、装備の買い出しとなった。雨宮から勧められた

「エディフェル商会」と言う店で彼女の装備を買う事にしたのだが、


「えっ、魔法使いに全身甲冑ですか?」


俺は、一般開放には多くの人間が集まってくる。一応、暗黒教団の信者は

お断りとなっているが、完全にチェックが出来ているわけではない。

彼女の顔を知る奴と鉢合わせとなったら、大変なので

正体を隠すと言う意味で、全身甲冑を所望したのだが


「ウチじゃ取り扱ってないですね」


「魔法強化」が付与された甲冑は、かなりのレア装備で、入手困難だと言う。


(ないなら作るしかないな)


 俺の鎧と同じタイプの、アクセサリーに変形する鎧を購入した。

かなり高額だったが、お金には困ってないので、たいした事は無い。

それを持ちかえって、「書き換え」で「魔法強化」の他、

あと「通信」も付けた。実は俺の鎧にも「通信」は、ついていて

連絡を取り合えるようにだ。

更に俺の鎧や七魔装にもついている質量軽減のスキルも付与させた。


 ミズキの感想はと言うと


「悔しいですが、悪くないですね。デザインは厳ついですが、まあいいでしょう」


デザイン自体は、彼女の言う通りで、女性が着ているようには思えない

なお、このデザインを選んだのは、単純にこれしかなく、

変更もできたが、この後の作業に備えて、精神力を使いたくなかったから

でも、気に入ってはくれたようだ。


「しかし、『魔法強化』付きの鎧とは、まるで魔王の鎧ですね」


勇者がいるんだから、魔王がいてもおかしくない。

しかし、あまり彼女を喜ばしたくはないが、

それでも、気に入ってくれた事は、悪い気はしない。


 そして、今度は俺の鎧だ。俺は、DMになってもギルドに教えるつもりはないが

「漆黒騎士の鎧」の姿は、黒騎士として、そこそこ知られているし

DMになったら、公表しなくても噂になる可能性がある。


そこで俺も身分を隠すために、新しい鎧を必要としたが、

しかしいつも鎧がないと心もとない。そこで、俺は、「創造」で

「漆黒騎士の鎧」をもう一つ作り、書き換え、新しい鎧を作る事とした。

宝の補充と同じ要領であるが、能力調整下であるため

イヴのオプションパーツ同様、コピーだけで、二、三日かかった。

書き換えは、デザインを変えるだけだから、すぐ終わる。


 デザインは、男性的な「漆黒騎士の鎧」と対象にする為

ゲームや漫画で見た女騎士をモチーフとして、色もシルバーにした

ただ、頭部のデザインは、なかなか決まらず四苦八苦した結果、

普通の甲冑の兜っぽい感じで落ち着いた。

名前を付けるなら「白銀騎士の鎧」と言うべきかな。

まあ見た目が違うだけで、能力は「漆黒騎士の鎧」と全く同じであるが


 その後、アイテムの購入、食糧の確保など準備は進んだ。

そして雨宮がダンジョンに関する話がしたいと言う事で、家を訪ねてきた。


「昨日、知り合いの冒険者から気になる話を聞いてな」


と言う前置きから始まって


「ダンジョンは、今は五つの区画から、成り立っているのは知ってるな」

「ああ」

「区画の間には、魔獣がいない草原があって休憩には最適なんだが」


ただ、この区画間は、雨宮が攻略した頃は歩いて2,3時間ほどだったが

今は、一日二日は掛かるらしく、ここは移動系、飛行系の魔法およびスキル、

マジックアイテムで乗り切るとこなのだが、準備不足で時間をとられて

失敗すると言う話は聞いていた。


「最近、第三と第四区画の間に変化が起きて、どんなに急いでも、

二週間は掛かるそうだ」

「そんなに!」


しかも、この区画間は、先に述べた魔法およびスキル、マジックアイテムは

無効化されるらしく、歩かなければいけない。


「第三区画まで、もたつくと、ここで引っかかるから、

攻略計画は時間も考慮しなきゃいけない。そこで急ごしらえだが

攻略の時間配分を考えてみた」


と、それを記した紙を取り出してきた。


「ありがとう雨宮」


と俺の為に考えて来てくれた雨宮に礼を言い、紙を受け取る。


ここで雨宮は思いついたように


「そうだ!カーマキシ、魔法で動く車なんだが、宝物庫にあったりは?」


と言ったので、俺は直ぐに


「あるけど」


と答えた


「やっぱり……もしかしてスポーツカーか?」

「ああ、区画間の走破に使おうかなって、あと寝床にも、でもどうして?」

「マジックアイテムとか無力化されるけど、車とかなら大丈夫だから

有れば、区画間の移動を短縮できるなって、まあもう考えてたみたいだが」


 あと刃条がスポーツカーが好きだったから、もしかしたら作ってるんじゃないかと

雨宮は思いついたらしい。でも正確には、車じゃない。


「その車、本当はロボットが変形しているんだ」

「ロボット?魔機神マキシの事か」

「そうそう、確かそんな呼び方されてたな」


 これが、宝物庫に入っていた悪役っぽいロボットで、

例の洞窟から帰るときに使った乗り物。もちろんロボット形態ではなく

車形態に変形させて使った。ちなみに俺は自動車免許を持っている。

デモスゴードの時に、これのロボット形態を使えばよかったんだろうが

あいにく忘れていた。


「ただ変形と言うよりも、変身なんだよな、見た目も大きさも変わりすぎだし」

「変身……」


俺の変身と言う言葉に、何か引っかかったようであったが


「まあ魔機神でも、無力化はされないけどな」


と言った後


「あっ、でもスポーツカーで車中泊って、きつくないか三人で」


と聞いてきたが、問題はなかった。


「大丈夫、ロボットには『ボックスホーム』って居住空間あって」

「ボックスホーム!」


そこに食いつく雨宮


「ところで、その魔機神の名前は」

「カオスセイバーⅡって言うんだけど」

「!」


Ⅱと言う事はⅠというかオリジナルが存在するのだが、

これと、雨宮には縁がある。その辺は、割愛させてもらうとして

このカオスセイバーⅡはオリジナルを元、かつての暗黒神

つまり刃条が「創造」で作ったコピー商品との事。


 さて雨宮がカオスセイバーの話をした後


「まあ車があるなら、俺の時間配分表は無駄だったかな」

「そんなことは無い。攻略の参考するよ」


そして、この時間配分表が、後に俺達を救う事になるのである。


 開放日の三日前から俺たちは現地に乗り込んでいた。

ラビュリントス刑務所は、随分と立派で、刑務所とだけあって物々しい建物で

周囲は、森に囲まれていた


「結構来ているな」


周辺には、テントや、馬車が合ったり、野営の準備している冒険者たちがいた。


「雨宮の言う通りだな」


早めに行ったのは、雨宮からの助言である。当日は、冒険者で混んで

ダンジョンに入るまでで何時間もかかるから、

現地には早めに乗り込んでおいた方がいいのと、

他の冒険者たちも、それを分っていて、みんな刑務所のその近場で

野営するだろうから、場所取りも含めて、三日前である



 ここまでは車だと目立つので汽車と馬車を乗り継いできた。

そして周りにいる冒険者たちの目を盗んで、林の中で車を宝物庫から取り出し、

全員、ボックスホームに入った後、そこで三日間を過ごし、

当日の早朝に、装備を整え、外に出た後、車を宝物庫に仕舞い、

刑務所の方へ向かった。


 刑務所の周りは衛兵たちが囲んでいた。ダンジョン目当てで殺到するんで

その警備の為らしい。そして、その周りには俺も含めた冒険者たち。

受付開始まで列を作る事は許されていない。


「これより受付を開始します」


との呼びかけで、冒険者たちは、並びはじめ、俺達も並んだ。

そして、建物が近づくたびに、妙にワクワクしている。


(最初に、話を聞いた時は、興味は感じなかったのに、いざ現場に来ると

これだ。不思議なもんだな)


そんな事を考えている時だった。


「!」


 それは一瞬だったが何とも言えない巨大な力だった。そして一瞬の間に

とんでもない事をしでかしていった。


「どうしました?」


後ろに並ぶミズキが声を掛けてきた。


「とられた……」

「えっ?」

「食糧をとられた……」


本来はあり得ない事であった。なぜなら食糧は無限宝物庫に保管してたからだ。

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