第9話「神と人」

1「聖女のような人、再び」

 魔銃フライクーゲル、勝手ながらフレイと言う愛称を付けたが、

彼女の存在を知った日の夜の事。俺はその時、居間でくつろいでいたのだが

俺の視界に、妙なものが浮かび上がった。

それは、もやもやしてて、更に文字の様なものが浮かんでいた


「なんだこれ?」


それは、少しづつ、はっきりとした形になっていったものの、


「?」


最初の内は、やっぱり訳が分からなかった。


 更に一か月たった。光明教団や国が、未だ公式に暗黒神の復活を

認めてないせいか、騒ぎも落ち着きつつあった。

そして俺は、暗黒神であると分かり、更に雨宮にすべてを知られたものの

これまで通りの日常が続いていた。仕事も続けている。

ただ違いがあるとすれば、手紙を書くようになったくらい。


 その日も、いつもの様に鎧を着てギルドに行く途中、

手紙をポストにいれた後、ばったり雨宮と会った。


「今からギルドか?」

「ああ……って、それ」


雨宮の手には、封筒らしきものがあった


「手紙だよ。知り合いへの」

「へぇ……」


どんな奴か気にったので、聞いてみると


「同じ異界人で、名前は煌月達也、お前も見た事あるはずだ」

「俺が?」

「昔、公園で久美が、キーホルダーをあげた幼い男の子、覚えてるか?」


そう追われて思い返すが、思い当たらない


「覚えてないな……」

「そうか……」


すこし、残念そうな様子を見せつつも


「もう今は立派な大人で、この世界に来て活躍してる」


雨宮の話じゃ、結構な活躍していて、雨宮自身とも交流があり、

時々手紙のやり取りをしているそうだ。


 その後ギルドに行ったが、今日は、俺向けの仕事はなく

ようするに、難しい仕事ばかりだったので、

仕事を受けることなく、ギルドを出た。


 人気のない場所で、着替え、いつもの姿になったが、家に帰る気もならず

まだ食事にも、早かったので、適当に街をうろつき、

光明教団の教会の前を通りかかって、ふと足を止めた。


「光明教団」

光明神を主神として崇める教団で、ファンタテーラでの三大宗教の一つ。

その信徒は最も多いとされ、多くの国で国教として指定され

国によっては、政治的な力を持つこともある。

なお、三大宗教の残り二つは、教義こそ異なるものの、

どちらも光明神を主神としている。


 教会には以前、ミズキの件で出向いて以来であるが、その時は、

建物をじっくり見てはいなかった。

改めて見てみると、キリスト教の大聖堂の様な建物で、

なかなか立派なものであった。


 聖堂までなら中への立ち入りは自由なので、思い立って中に入ってみた。

外観同様、中も立派で、そして静寂に包まれていた。


「いいな、この感じ……」


俺は、宗教施設特有の静寂さが好きだ。心が癒されるというか、

信心深い人間ではない俺でも、神様の加護と言うべきものを感じてしまう。

こんな場所で、神の教えを説かれた時には、その言葉が心に響くだろう。

それは暗黒神となって、この場にそぐわない存在になってしまった

今でも、変わらない。


 さて、祭壇には、神に祈りを捧げている女性の像があった。


(この像は……)


その姿は、あのジャンヌさんにそっくりだった。

するとタイミングよく背後から


「久しぶりね。カズキ君」


振り返ると、ジャンヌ・クルセイド、その人がいた。

この人は、どういう訳だか、俺を暗黒神だと知っている。


「貴方でも、神に祈りをささげるの?」


と彼女は言ったが、俺には


「暗黒神のくせに」


と嘲っているように感じた。


 そして彼女は、俺の目の前にやって来て、仁王立ちすると嘲るように


「さあ、好きなだけ祈りなさい。でも神は何もしてくれないわよ」

「!」


その言葉に、思わず周りを見渡した。

彼女の言葉を信徒が聞いたら、危ない気がしたのと

それに俺も、巻き込まれそうな気がした

幸い聖堂には俺たち以外、誰もいなかったが


「ここで、そんな事を言うのは……」


と言ったが


「だって、本当だもの」


と言って、今度は祭壇の方に向かい、女性の像を指し示しながら


「この像、私に似てると思わない?」


実際にそう思っていたので


「ええ……」


と答えていた。


「似ているのは見た目だけじゃないのよ。この像は『聖女ジャンヌ』の像よ」


顏だけでなく、名前まで同じようだ。

さて聖女で、ジャンヌと聞くと思い当たる節があるが、

彼女はそれを察したように


「貴方のいた世界にも、同じ名の聖女がいるみたいね。

でもこっちは、戦争に行ってないし、火あぶりにもなってない」。


 更に彼女は続けた


「1000前に、世界は滅亡の淵に立たされていたわ。

度重なる天変地異によってね。

そんな時、信仰心があつい女性ジャンヌが、

山奥の洞窟に閉じこもり、何日も、不眠不休、飲まず食わずで神に祈りを捧げ

その果てに、衰弱して命を落とした。

すると、天変地異は収まり、世界は救われたの」。


 ここまで話を、落ち着いた静かな口調、話し方に感情のこもらない感じで話して


「自らの命を神にささげて、世界を救った彼女は、

聖女として人々崇められるようになったの」


この後、聞いた話では、聖女ジャンヌは、光明教団の信仰対象としては

光明神の次くらいの位置づけとの事。


 そしてジャンヌさんは、とんでもない事を口走った


「聖女だ、何だって言われても、私にとっては、

周りの人間の口車に乗せられた挙句、命まで捨てた、馬鹿よ、馬鹿!」


思わずまた、周りを見渡した。今の言葉は、流石にシャレにならないからだ

幸い、今回も周囲には誰もいない。


「ちょっと!今のは、酷すぎる!」


別に、俺は信者と言う訳じゃないけど、今の言葉は、酷すぎると思ったから

抗議をしたが


「馬鹿に、馬鹿って言って何が悪いの」


と悪びれる気配もない。更に


「でも、その馬鹿と私が同一人物だったら、どう思う?」


意味深に言った。


「えっ?それはどういう……」


しかし彼女は、俺の質問に答える事なく、懐中時計を取り出すと

時間を確認して


「そろそろ、汽車の時間ね。私、これから買い付けで遠出するから

じゃあ、また今度」


そう言うと、速足で立ち去った。


 そして彼女がいなくなった後


「しまった……」


せっかく会ったのに、肝心な事、すなわち暗黒神の事についての

話をしていなかったことに気づいた。

追いかければ間に合うような気もしたが


「まあ、いっか……」


そこまでして知りたいわけではなかったので、別に彼女を追おうとはせず

俺も教会を出ると、まだ時間があるので昼食まで街をうろつくことにした。


 そんな中、街の貴金属店に人だかりが出来ているのを見た。


(もしかして……)


建物の周りは、衛兵が取り囲み、立ち入りを制限していた。

そして建物の方からは、ものすごい音がする。

中で大立ち回りが起きている事は間違いない。


「「カズキさん?」」


聞き覚えのある男女の声、見事にハモっている。


「君らか……」


見知った男女、二人は、幼馴染で今は恋人同士。


 女性は、ジュリエット・アリシテラ、interwineの常連客で、

一時期、店で働いていて、今でも偶に手伝いに来るそうだ。

髪型は、ロングで髪の色はオレンジ。目の色はきれいな青である。

雨宮の話では父親が異界人との事で、

その影響か、顔立ち自体は日本人的である


 男性は、ロミオ・リマリート、雨宮の知り合いの息子で、

一時期、面倒を見ていたこともあるそうだ。

そしてinterwineの常連客でもある。髪型はショートカットで

彼も親が、正確には母親が異界人との事で、

その影響か髪や目の色も顔立ちは日本人的である。


「こっちに戻って来てたんだな」


ちなみにロミオは普段、行商やっていて、街にいない。


 二人とも、店で雨宮を通して知り合いとなったが、二人の名前の所為で

不穏な空気を感じてしまった。

ちなみに、「ロミオとジュリエット」は、異界人によって、

この世界に伝えられていて、二人も知っていた。

なお、二人には家族は居ないそうで、家の件で引き裂かれることは無いらしいが


 そして俺たちは一緒に店の様子を見ていた。


「何だか、凄い騒ぎですね」


とジュリエットが言うと


「ああ……」


と俺は軽く返事をした


「あの店、今の店主になってから評判悪いから、いつかこうなると思ってたよ……」


とロミオが言う


暫くして、見るからにガラの悪そうな奴らが出てきた。

奴らを連行している衛兵に混じって、ジェニファーとルイズの姿があった。


(やっぱりな)


と俺は思いつつ、ロミオが


「あの人達、審問官だ。じゃあ暗黒教団が……」


そう、これは暗黒教団関係の摘発だった。


 昼時、俺たちはinterwineにいた。混んでいたので二人と相席で座る事になり

二人は気にしてないようだったが俺は邪魔者になってるように感じて、

心苦しかった


 さて近くの席に座る冒険者らしき奴らが今朝の摘発を話題にしていた


「最近多くねえか、暗黒教団の摘発がよう」

「やっぱり、暗黒神が復活したんで、審問官やつら、必死なのかねえ」

「噂じゃ、内部に詳しい人間からの密告らしいぜ」

「それじゃ、暗黒教団内部に裏切り者がいるって事か」


裏切り者って言葉が出た時、ジュリエットの表情が曇ったような気がしたが

俺は特に気にならなかった。


 話を聞きながら俺は


(俺は、暗黒教団の人間じゃないから裏切り者じゃないよな)


実は、冒険者の言ってる密告をしているのは、この俺なのだ。

最近書くようになって、今朝も出した手紙は、審問官宛の密告の手紙だ。


 まさか自分たちの、信仰対象が、自分たちを告発してるなんて

夢にも思っていないだろう。

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