第24話 斯くして少年はAと会う①
「アイナ様おはようございます!!」
「はい、おはようございます。それで今日はこの学園で間違いないのですよね?」
私は横にいる部下に尋ねた。
今私たちがいるのはとある高等学校の門の前。
あと一歩踏み出せば敷地に入ると言った場所だ。
そして私の周りには10人ほどの騎士。
私が指揮している人間の部下たちだ。
「はい! 今日はこちらで特別授業となっております」
「わかりました。ではいきましょうか」
今日で一体何回目だろう。
もしフィセル様が人間に転生していたら、と考え王国中の高等学校を回るのは。
これは私が王国の騎士団長を務め始めたと同時に始めたことだからもう50年近く続けているに違いない。
全く成果はないけど。
それでも何も行動しないよりかはましだと思っている。
やらない後悔よりもやって後悔だ。
最初は下心丸出しで始めたこの活動も気づけば
「若者の才能の芽を育てる」
という大義名分が後からついてきて気づけば卒業シーズンの一大イベントになっているが目的は変わらない。
・・・私が一番最初にフィセル様を見つけるため、ただそれだけ。
だから私は今日も金色の刀を片手にフィセル様を探す。
何度も我が主のためにふるったこの刀を。
「アイナ様、準備ができました。今日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
門をくぐり少し歩くとそこには学校の校長と先生だと思われる男性がおり、私に頭を下げる。
額に脂汗を浮かべながら差し出してきた人間の手を私は優しくつかんで握手をした。
いつ見てもこの光景はおかしくして仕方がない。
だって人間がエルフの私に向かって頭を下げているのだもの。
200年前ではありえない光景。
「・・・という形で今日はよろしくお願いいたします」
「はい、わかりました。その前にお手洗いを借りても?」
「え、えぇ! すぐに案内します」
「いえ、もう何度も来て覚えてますので大丈夫です。あなたたちは先に向かっていてください」
「はい!!」
部下に命令した後私は一人でお手洗いに向かい、いつものルーティーンで自分の髪を両手でわしゃわしゃしてそれからまたちゃんとセットする。
こうしないとスイッチが入らないのだ。
思い浮かべるのはもちろん、あの人。
眼を瞑ればいつだって温かい声と体温が近くにある。
こんなことを想うのはおかしいと思ってはいるけど抜けない癖。
「よし、今日も頑張りましょう。待っていてくださいね、フィセル様」
鏡に映る自分に向かってそう呟く。
こうして私はわずかな希望を胸に、今日もあなたを探す。
********
「えー、みなさんこんにちは。王国軍騎士団長のアイナと申します。今日は短い時間ですがよろしくお願いします」
いよいよ特別授業が始まりアイナが初めて目に入る。
今日は三年生全員が集められて合同で行われる授業だからいつもより人数が多い。
それ以上にみんなの熱気が凄いけど。
・・・みんな目が血走ってないか?
そんな同級生たちから目線を外して前で立って話す一人の女性エルフを見る。
あのころと変わらず金色の髪を背中まで伸ばし碧色の目は以前よりも鋭くなった気がするが美人には変わりない。
スタイルはあの時からあまり変わっていないのがなぜか安心するが。
「それではまずは素振りをしましょうか。それから私の後ろには騎士団の団員たちがいるので打ち合いをしましょう。もし自信がある方がいたら私のところへ来てください。お相手しますよ」
笑顔からこぼれたその声を聴き特に男子どものやる気が爆上がりする。
そりゃ美人で強いなんてあこがれの的だしな。
・・・だが俺は何とかしてこのチャンスをものにするしかない。
俺はそう意気込んで剣を強く握った。
軽い素振りを終え、アイナの言った通り団員たちとの打ち合いが始まる。
団員一人につき学生が5人ほどついて一人ずつ打ち合う形なのだが、誰一人として一向に一本も取れない。
それはどこの班でもだ。
やはり学生と団員との間には途轍もない差があるらしく、もはや遊ばれている気がしてならない。
いや、もう少し手加減してよ・・・。
俺らまだ子供だよ一応。
また、俺らの班の団員はややプライドが高いらしく
「なんでお前らの相手なんかしなくちゃなんねえんだよ。おらっ、次!! 早く来い!!! 座ってんじゃねえ立てよ!! 」
という感じで打ち合いを進めていく。
正直印象は最悪だ。
めんどくさいのにあたってしまったと自分の運の無さを恨む。
そんなこんなで剣技が始まってある程度の時間が経つと、アイナが
「それでは腕に自信のある人は私のところへ来てください」
と宣言したが正直俺にはいくほどの体力は残っていない。
当初の予定では適当にやるつもりだったのだがどうやら俺の体力を過信していたようだ。
汗はだらだら流れるし、わき腹にさっきから鋭い痛みが走っている。
正直もう動けない・・・。
だがそんな俺とは違い、みんなどこにそんな体力が残っているのかと思うくらい元気に飛び出していき、ものの数秒で瞬殺されていき班での打ち合いに戻っていく。
負けたのにみんな嬉しそうな顔しやがって・・・。
そんな皆を見つつも別に俺はいいやと思い、目の前の団員と打ち合いをしているときだった。
「ちっ、お前みたいな才能無いやつが剣握るんじゃねえよ。なんでお前らがアイナ様とやりあえる機会が与えられるんだ・・・。ちょっと痛い目見て現実を知っとくか? お前らには夢も希望もないってことをな」
「えっ、は?」
その団員は突然俺に加減をせずに剣を振り下ろしてきた。
何か彼の癇に障るようなことをしたのかもしれない。
素振りで疲れ切っていたのに加えてもともと剣技のセンスが一切なかった俺は彼の振りを一切いなすことができず、その剣は俺の脳天に直撃した。
多分彼もこれくらいなら俺でも受け止められると思ったのだろう。
ちょっとビビらせてやろう位だったはずだ。
だが残念、相手は俺だった。
「ぐはぁ!!!!?」
「っておい!! なんで避けねえ!?」
ズドムという音が聞こえ、遠のく意識の中にその団員の声が聞こえた気がしたけどもうわからない。
次に目が覚めた時は薬品の匂いがツンとする保健室のベッドの上で寝かされていた。
まるで記憶を取り戻した時と同じで、長い夢から覚めたようだった。
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