なんか、姉ちゃんが趣味をする
「あー、それにしてもいいよなー。お前のねーちゃん」
下校中、クラスメートの有川が何の前触れもなく言い出した。
姉ちゃんが叫びながら体育館から飛び降りた日の帰り道だ。
「いいなー、お前は。あんな美人のねーちゃんと一緒に暮らせてよー」
雲に向かって千回目のセリフを吐く有川。
「別にいいことばっかじゃないけどな」
悪いことだってもちろんある。多分5-5だ。きっちりプラマイ0だと思う。
「いや、絶対いいじゃん。だってさあ、パンチラ見放題だったりするんだろ?」
いきなり何を言い出すんだ、お前は。
「でさあー、アクシデントで風呂の着替え中にバッタリ遭遇したりさー、なんかにシャツが引っかかってめくれ上がっておっぱい見れたりさー! するんだろ?」
往来で言うことか。場所か音量のどっちかを考えろ。
「………お前さっきから全然否定しないけど、もしかして、マジであんの?」
あるよ、全部。
想像力イカついな、お前。
「言っとくけど、そういうのって弟からしたらマジ不快だから。丸一日やる気なくすから」
「うっせぇ、死ね」
辛辣すぎるって。
「ねーちゃんを迷惑をかけずに死ね」
愛がすごいな。
「あー、そんなん聞いたらマジでねーちゃんと付き合いたくなってきたわー。告っていい?」
「いいけど、絶対フラれるぞ」
「だろうなー。接点0だからなー。どうしたら近づけんだろ。ねーちゃんの趣味ってなんなん? 俺もそっから始めるわ」
「趣味………読書かな?」
「それは無理だなー」
頑張れや。
「他にないん?」
「他に趣味ねえ…………」
まあ、あるっちゃあるかなぁ………。
「ただいまー」
玄関に僕の声が響いた。
返事はないが靴はあるから姉ちゃんはもう帰っているのだろう。そのまま居間に入ると、
「…………………」
姉ちゃんが天井を触っていた。
ああ、趣味の最中でしたか…………。
部屋の隅。姉ちゃんは制服も着替えないままガスストーブの上に乗り、天井の角に当たる部分に掌を添えていた。
やっぱり、体育館から飛び降りるということはヘタレな姉ちゃんにとって相当なストレスになっていたらしい。
そういう時、姉ちゃんは様々な方法で心を整える。その一つが、これ。
『誰も触ったことのない箇所触り』だ。
家の壁の高い所や天井など、十年以上住んでいながら家族の誰も触ったことのない箇所を見つけ出して手を添える。
「はぁー………、ふぅー…………」
そうすると得も言われぬ優越感が得られるのだそうな。
もう意味不明なんですけど。
「ああ……久しぶりにいい箇所見つけた……ここは、いい……」
「……そうか」
よかったな、姉ちゃん。落ちるなよ。
「お前も触るか?」
「いや、いいわ」
これが姉ちゃん趣味である。
とても口では説明できそうにないので、有川には教えない。
うちの姉ちゃんはやっぱり、変だと思う。
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