青年は、気づいたらおじいさんと出会ったあの公園に立っていた。吸い込まれるように青年はこの間座ったベンチに腰掛けた。少し頭を冷やすために、立ち上がって水道の水で顔を洗った。青年はもう、泣いてはいなかった。

 気づけば空は夕焼け色に染まってきて、おじいさんと会った時のように淡い光が公園と青年を包み込んだ。青年は座り、出棺に立ち会えなかったのを少し悔やんだ。そして、おじいさんに自分なりの『解』を伝えることができなくて悲しんだ。

しかし何よりも恥ずかしかったのは、お焼香でのあの出来事である。青年はいまだに、人々の視線に耐えることができないのである。青年の大きな欠点は、いついかなる時であっても、怪物となり、襲ってくるのである。

 青年は、改めておじいさんのことを思った。何より感謝を伝えたかった。あの時、心がどうかしていたあの時に、おじいさんが親身になって話を聞いてくれたこと、僕の悩みを受け止めてくれたこと、『問い』を授けてくれたこと。

 そして、青年のもとに一つのハトが現れた。それはまるであの時のおじいさんのように静かに近づいてきた。青年は鳩に向かってこんなことを言った。    「なあ鳩よ、この間ここにな、それはそれは素晴らしいおじいさんが来てな、僕に話しかけてくれたんだよ。僕はおじいさんのおかげで正気を取り戻すことができたし、少し生きるのが楽になったんだ。その感謝を、一回でもいいから、伝えたかったなあ。」

 なぜか鳩は青年のことをじっと見ていた。青年と鳩はしばらくの間見つめあった。その鳩の目はとても穏やかな目で、やさしい眼差しを向けてきていた。青年がそれに気づき、ハッとしたころにはもう、鳩は飛び立ってしまった。

 青年は、立ち上がった。

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