そんな青年に、ピンチが訪れた。ついに青年の体力や気力は、限界を迎えていた。今回は1年生最後だったこともあり、テストは信じられない程に難しく、まだ学年1位をとれていない劣等感や部活をしてないことによる体力の低下の危惧、それにより顧問に怒られてしまうのではないかという恐怖。

 まだ16年しか生きていない青年にとっては、それは大きすぎる荷物だった。

「ここで、ニュースをお伝えします、今夜はおよそ~~年ぶりの皆既月食が見られる予定であり、ここX県でもきれいな月食が見られるでしょう。」

いつもは無視していたテレビのニュースがなぜか耳に強く残り、五月蠅いと感じたので、青年はすぐにテレビを消して学校へ向かった。

 青年は徐々に勉強中にも苛立ちを覚え、独り言も発するようになっていった。


「あーもう…わかるわけねーよこんなの…はぁ…きつい」


 テスト期間の授業は午前で終わってしまうのだが、青年はそこからいつも、母が作った握り飯を食べながら、7時まで勉強する。だが或る日、青年は自習室のドアに手をかけたときに、ものすごい吐き気に見舞われて、トイレに駆け込んだ。トリガーとしては寝不足や過度なストレスがあげられるが、青年は、もう自分はここに入ってはいけない人種なのだと考えてしまい、静かに、校門を出た。       まだ午後1時の外の空気は冬の香りを残しつつ、どっしりと青年を包みこんだ。青年は、久しぶりに昼の空を見上げて、「よどんでんな」と言葉を残した。

 青年はいつもの駅にたどり着いた。ここから電車に乗り、家に帰るのだが、今日は昼の駅の人の少なさを見て、何やら少し変な気分になった。青年は、人がほとんどいないホームに立ったのだが、いやな視線をたくさん感じ、いたたまれなくなったので自販機へと向かった。

 青年は寒さから少し逃げたいのと、少しの余裕が欲しかったため、温かいブラックの缶コーヒーを買った。初めて飲む味は信じられないくらい不味く、また少し、落ち込んでしまった。

 その後、青年は駅から降り、家へと向かったのだが、こんな早くに家に帰るのはあまりにもイレギュラーで後ろめたさがあったので、公園が目に入るとそこに吸い寄せられるように入っていき、ベンチに座った。青年は、ふと過去のことを思い出し始めた。


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