理想の死に方

橘花やよい

踊り子、焼死

2020年4月11日

『踊り子、焼死』


「私は焼死がいいわ」


 彼女はそう言った。

 波打つ茶色の髪をした彼女は化粧が濃くて、唇の真っ赤なリップが一際目をひいた。

 それでも嫌味にはならなくて、薔薇のような華やかさだった。


「私、踊りが好きなの。燃え盛る炎の中で、死ぬ最後の瞬間まで踊り狂うことができたら、とても情熱的だと思わない?」


 白い机に頬杖をついて語る。

 彼女が動くと柑橘系のキリっとした香りが漂った。

 それにしても、踊りか。

 観客を挑発するように踊る彼女が容易に想像できてしまった。


「炎の中で揺れる私のシルエット。どう? 素敵じゃない?」


 想像してみた。

 真っ赤な炎。浮かび上がる黒い影。しなやかな四肢が動く。

 それは神秘的な光景かもしれない。


「火はね、全部を燃やし尽くすの。何もあとに残さない。死んだあとで自分の置いてけぼりになった体がみすぼらしくあるなんて嫌でしょう。全部全部燃やして、綺麗さっぱり無くしてしまう。やっぱり散り際は美しくないとね」


 だから私は焼死がいい。

 彼女はそう断言した。

 でも、と僕は言う。


「火の中なんて熱いでしょう。そんな熱い中ではとても踊れないよ」

「あら、それが情熱的でいいんじゃない。熱いのは大歓迎だわ」


 僕には絶対無理だ。


「それに、全部を燃やし尽くすなんて無理だと思うよ。だって、火葬したって骨が残るじゃないか。灰だって残る。結局そういう、自分の燃えカスが汚らしく残るんだ」


 骨すら焼いてしまうには、どれだけの火力がいるのだろうか。

 考えてみたけど、分からなかった。

 彼女はふふっと声をあげた。


「そうねえ、あなたに焼死は向いてないわね」


 じゃあね、と彼女は手を振って出ていった。

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