第30話【エピローグ】

「よお、ショーニン。久しぶり!」

「ああ。ほんとだな。お前休みの間何してたんだ?」


 久しぶりの登校。

 校門で悪友に出会う。


 俺とは正反対の金持ちで遊び慣れてるやつだが、何故か小さい頃からずっとの腐れ縁だ。

 性格も嫌いじゃない。


「外も出られないからゲーム三昧だったな。前話したろ? インフィニティ・オンライン。知らないと思うけど、今ゲームの中でお前のあだ名と同じプレイヤーが話題の的なんだよ」

「へぇ」


 俺はなんと答えていいのか分からず、聞き流すことにした。

 貧乏なことを知ってるこいつはまさか懸賞で当たってやってるなんて思いもしないだろう。


「この学校でも結構やってるやつ多いよ。おすすめだけどな。まぁ、昨日色々あったみたいだけど、もうすぐ大型アプデだし、期待値上がるよなー」

「そうか」


 アップデートがあるのか。

 また下方修正させるだろうか。


 ロキによると、もしかしたら他の職業の上方修正でバランスをとることにするかもしれないと言っていた。

 立て続けの特定プレイヤーに対する下方修正は、ゲーム離れを引き起こす可能性があるらしい。


 まぁ、そりゃそうか。

 苦労して強くなったのに、いきなり弱くさせられるんじゃあ、頑張る気力が削られるしやる気も失せるからな。


 俺は何が来てもまた方法を考えるだけだけどな。

 ヒミコとトンヌラっていう頼りになるやつらもいるし。


「まぁ、ショーニンがやってないゲームの話ばかりしててもしょうがないな。それより次の夏休みどうなるんだろーなー。無くなるって噂もあるし」

「どうだろうな。まぁ、これだけ休んだんだからしかた……」


 答える途中で俺は目の前に見えた二人の女性に目を奪われ、言葉が途切れた。

 春らしい明るめの洋服に身を包んだ、黒髪と茶髪の二人だ。


「おーい。ショーニン。戻ってこーい。ああ、あいつらか。可愛いよなぁ。何? まさかショーニン、一目惚れでもしたの? どっちだよ、そう言えばお前の好みなんて聞いたことなかったな」

「知ってるのか?」


「知ってるも何も。この学校で知らないやつの方が少ないんじゃねぇの? あいつらはガード固いぞ。でも、かなりのゲーマーだって噂だからな。俺もワンチャン狙って始めたのがハマったんだよね」

「悪い! 一生のお願いだ! 金、貸してくれ!! 必ず返すから!!」


 突然の俺の願いに悪友は驚きの表情を見せる。

 そりゃ、いきなりこんなことを言い出したら誰でも驚くか。


「おいおい。本気かよ? どうしたんだ? 今まで絶対金を借りるなんてしなかったのに。そこまでマジなの? いいよ。やるよ。俺からの応援の気持ち。ダチと貸し借りはしない主義なんだ。その代わり、上手くいったらちゃんと報告しろよ?」

「ありがとう!! ちょっと、行ってくる!」


 俺は前を歩く二人に駆け寄った。

 近付いてくる俺に気付いて、二人が振り向いた。間違いない。


「なに? ナンパなら間に合ってるから。わたしら昨日遅くまで起きてて眠いんだから、用があっても後にしてくんない?」

「ちょっと。ダメですよ。いきなりそんな態度をとっては。どうしました?」


 二人の声を聴き、さらに確信する。

 まさかこんな所で出会うとは。


 俺は黒髪の女性の方をしっかりと見つめる。

 見慣れた顔が少し困惑気味で見つめ返す。


 しかしすぐにその目が大きく見開き、口が少し開く。

 もしかしたら向こうも気づいたのかもしれない。


「ねぇ。約束したよね。良かったら、これから俺とケーキセットを食べに行かないか?」


 俺の声を聴き、向こうも確信したらしい。

 驚きのあまり声が出せずにいるようだ。


「は? 何お前。やっぱりナンパじゃん。間に合ってるって言ったでしょ? 行こうヒミコ。授業遅れちゃうよ」

「もう! 現実ではキャラ名で呼ばないでって何度も言っているでしょう? ごめんなさい。授業は一人で行って? 私これからデートなの」


 友人の返事に、今度は茶髪の女性が目を見開く。

 俺と友人を交互に見返し、何が起こったのか分からないと言った顔だ。


「うふふ。やはり私の方がショーニンのことをよく知っていますわね。彼はダメと言ったでしょう?」

「え? ショーニン? え?」


「俺の名前は秋山人志。親しい友人からはショーニンって呼ばれてる」

「さて、ショーニン。私をデートへ連れて行ってくださいね。残念ながらこちらにはあのカフェはありませんけど。何処へ行きますの?」


 俺は現実世界でもカフェなんて行ったことはないが、宛ならある。

 遊び慣れしてる悪友もおすすめの場所だ。


「いい場所を知っているんだ。そこへ行こう」

「ええ。私はショーニンと一緒なら、何処へでも行きますわ。今から楽しみですわね」


 俺たちは登校してくる学生の流れに逆らい校門へ向かう。

 ふと後ろを振り向くとびっくりしたまま立ち尽くす茶髪の女性と、満面の笑みを浮かべ手を振ってる悪友が見えた。


 そう言えば大型アプデがあるって言ってたな。

 今度は悪友やヒミコ、他のみんなも誘ってパーティプレイを楽しんでみるか。


 生産職も戦えないってことは無いらしいからな。

 また色々とやりたいことが増えそうだ。


 ああ。そうだった。

 目標は達成したが、結局ゲームを始めた目的の豪遊するっていうのはまだ楽しめてないな。


 しばらくはゆっくりと楽しむってのも手か。

 それはこれから考えよう。


 まずは目の前の現実に目を向けないとな。

 ああ、そう言えばまだ名前を聞いてなかったな。


「ねぇ。そう言えばヒミコ。君の名は?」

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