第27話【ダンジョン攻略-4-2】

 魔人カルラは人型のモンスターで、これまでのボスと比較するとサイズはかなり小さい。

 青い肌に黒一色の大きな瞳、頭には大小の角が三本生えている。


 ヒミコが見たら喜びそうなきらびやかなドレスに身を包んでいる所を見ると、もし性別があるとすれば女性だろうか。

 動きは「浮遊」でもしているのか、滑るように地面を移動する以外は人間の動作に似ている。


 確認できるステータスは、さすが最難関のボスに相応しい。

 そんな魔人も前に、ジェシーたちのパーティはすでに窮地に陥っていた。


「ばかやろう! それじゃ避けられるっていい加減分かれよ! さっきから全然当たってないぞ!」

「分かってるわよ! うっさいわね! 言うのとやるのじゃ違うんだから! こいつ動きは速いしそのくせ的は小さいし!」


「うわ! ヘイト管理はちゃんとしてよ! 僕にヘイト持たせてどうすんのさ! 僕を守るのが一番大事なんだからね!」

「うっせぇ! そんなに回復使いまくったらヘイト寄るの当たり前だろ! もっと考えて使え!!」


 的が小さく、素早く変則的な動きをする魔人カルラに攻撃はなかなか当たらず、逆に向こうの攻撃は確実にHPを削っていった。

 その度に「神官」の文彦が回復スキルを繰り返すため、ヘイトは文彦に向かう。


 他のメンバーは文彦を守らねばならず、連携が崩される。

 そのため余計な攻撃を食らい、さらに回復が必要になる。


 このままだと全滅も時間の問題だな。

 さっき全快させてやってからそんなに時間が経ってない。


 それでも初見でこれだけ粘ったのはさすがと言うべきか。

 このパーティは実力だけは確かなのは間違いない。


 あ、文彦が死んだ。

 と思ったら生き返った。


 今回も「秘薬アムリタ」を飲んでたのか。

 様子見じゃなく、攻略する気満々だったってわけか。


 でも無理だな。

 ほら、また死んだ。


 あと何回か挑戦して、きちんと対策を取れば行けそうだが、思った通り初見で倒せるほど甘くはない。

 前にジェシーたちがクリアしたダンジョンも、ネットの書き込みによると10回目の挑戦だったらしいしな。


 なんでそんなことを俺が知っているかと言うと、ロキに教えてもらったからだ。

 文彦は自分のブログでインフィニティ・オンラインの攻略記事や動画を投稿している。


 最前線を行くパーティのブログとあって、かなりのフォロワーがいる。

 そんな方法があるなんて知らなかったが、誰かが見に来る度に広告収入が入って、結構な稼ぎになっているんじゃないかってことだ。


 さて、残りはジェシー一人になった。

 そろそろ、出番だな。


「くっそ! まぁ、今回の挑戦でかなりパターンが分かったからな! 次はもっと耐えるぞ!!」


 叫びながら魔人カルラの出現させた鎌に貫かれてジェシーはその場に倒れる。

 このダンジョンは脱出アイテムやスキルは使えない。


 出るには入口に戻るか、ボスを倒すか、死に戻りしかない。

 こいつらはこれで戻って、今回得た情報を元に対策を練ってまた挑戦するつもりだろう。


 俺はすかさず倒れている文彦に向かって「蘇生薬」を使う。

 他のメンバーは予定通り死に戻りしたようだが、復活したおかげで戻れなかったこいつは驚いてキョロキョロしている。


 さてと。まずはこれはやっておかないとな。

 俺はロキに目配せの合図をすると、10万ジルの「金を食う」を文彦に使う。


 HPが満たんになったのを確認してから、「銭投げ」を使い、文彦を攻撃する。

 さすがに回復の要に相応しいHPをしているせいで、一回の攻撃で倒すことはできない。


 無理やり復活させられ、回復してもらったのに、攻撃を食らってる文彦はわけが分からないという顔をしている。

 しかし俺は攻撃を止めない。数回の攻撃でHPが0になり再び地面に倒れる。


 すかさずロキが事前に渡しておいた「蘇生薬」を使い復活させる。

 倒れてから街に戻るための選択肢選択には若干のタイムラグがあるから、戻ることができずに再び体を起こす。


 さっきのは関係のないヒミコにまで危害を加えたことに対する報復だ。

 死んで復活することになんのペナルティもないが、かなり低減されているとはいえ、痛覚処理は行われる。


 せいぜい衝撃を感じる程度だが、俺が直接できることはこれくらいだからしょうがない。

 それでもいくらかは気分が晴れた。


「なんなんだよ! 何する気だ? 僕をどうする気だよ!」

「お前にはもう何もしないさ。色々としてくれたお礼に、特等席を用意してやろうと思ってな」


「どういうことだ?」

「えーっと、一回パーティを抜けてもらわないといけないんだったな。これからパーティ申請を送る。俺がこのボスモンスターを倒すところをじっくりと見せてやるよ」


 俺の言っている意味がよく分からなかったのか、文彦は目をぱちぱちとさせる。

 そういえばベータ版からのプレイヤーのアバターは現実世界の姿に近いって言ってたな。


 文彦は声も男の割には高いし、背も低く顔も幼い。

 見たところ俺よりも年下だろうな。


「プレイヤーの知識が高いと見える情報が増える。ってのはお前も知ってるよな? 逆に相手の知識が高すぎるとスキルのエフェクトすら表示されない。知ってたか?」

「当たり前だろ! 僕を誰だと思ってるんだ! 僕のブログにも書いてある。僕よりこのゲームに詳しいやつはいないんだからね!」


「そうか。それは悪かったな。それでだ。お前には俺のスキルが全く見えてないだろう? だから、パーティに入れてやると言ったんだ」

「だから、なんで僕がお前なんかのパーティに入らなきゃならないんだよ! 回復役がいないからって誘っても無駄……あ!」


 俺が言いたいことが分かったらしく、文彦は少し考える素振りをする。

 ちなみにこのやり取りの間、魔人カルラは俺を攻撃してきてるが、食らったそばから「金を食う」で回復して凌いでいる。


 パーティメンバー募集の欄に、今まで表示されていなかった文彦の名前が現れた。

 つまりジェシーのパーティを抜けたってことだ。


「あっちのパーティを抜けたってことは入るってことでいいんだな? 今送った。よし、これでお前にも俺が何をしているか見えるってわけだ」

「ふん! 言っとくけど、僕は何もしないからね。君が無惨に殺られる所を見届けたらさっさとこんなパーティ抜けてやるから」


 それから思い出したように手を叩き、こちらに嫌な笑みを向ける。


「もちろん、チートなんてしたらまた動画を僕のブログに載せてやるから気を付けるんだね。あ、でも、僕的にはそっちの方が嬉しいかな。前の記事はビューがすごくついて儲かったから」

「残念ながら、どっちの要求にも答えられないな。お前は黙ってそこで指をくわえて俺のダンジョン攻略達成を見届けろ」


 ロキと一緒に文彦を部屋の隅に移動させると、ようやく俺は魔人カルラの方を向く。

 さきほどから受けている多彩な攻撃も、どこか優雅さを感じさせる。


「さて、待たせて悪かったな。ようやくお前の相手をしてやれる」


 俺は魔人カルラに向かって、「」を使う。

 もちろん金額は10万ジル、さっきの戦闘と俺の反射が与えたダメージが全て回復する。


「え!? 何やってるんだよ! 敵のHP回復させてどうするのさ!」

「お前らが与えたダメージをそのままにしてたら、俺一人で倒したことにならないだろ? やるならきちんと、万全の相手を倒さないとな」


 俺はミーシャから買い取った「滋養強壮薬」を飲み干し、攻撃の準備を整えた。


 さぁ。これが俺の最後の戦いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る