第12話【素材集め】

「ショーニン! レベル40達成おめでとうですわ! それにしてもいくら上がりやすいとはいえ、早すぎません?」


 メッセージを送ってほとんど経たずにヒミコが俺の元へ走ってきた。

 今日も白に統一されたゴスロリ姿が眩しい。


「おう。ほんとにすぐ来たな。でも、約束通りレベル上げたからな。この服のおかげで楽勝だったよ」

「まぁ。それは嬉しいですわ。生産職としては作品が役に立ったっていう声が一番嬉しいですから」


「防御面は全然問題なかったけど、状態異常の耐性を欲しいと思ったな」

「そうですわね……耐性は高レベルになればなるほど重要度が増してくる要素ですから。でも、これから作る防具にもカスタマイズで付けられますから」


 ヒミコは右手の肘を左腕に乗せ、その右手の上に顎を乗せた格好で頷く。

 実物がどうだか知らないが、アバターが美少女なのでとても様になる仕草だ。


「もし良かったら、私のアトリエに来ません? 色々詳しい話もしたいですし」

「アトリエなんてあるのか。レベル50越えはさすがに違うな」


「うふふ。褒めても何も出ませんわよ? えっと、イストワールへは訪れたことがありますの?」

「ああ。この前、一度だけな。だからポーターで飛べるぞ」


「良かった! じゃあ早速、イストワールへ行きましょう。私の自慢のアトリエを紹介しますわ!」


 そういうとヒミコは俺の左手をしっかり握って歩き出す。

 俺はドキッとしたが、このまま歩かないとヒミコがバランスを崩しそうなので、慌てて同じ方向に足を動かした。


 おいおい……そんな目で見るなよ……俺たちは決して恋人とかじゃないから。

 おいそこ、目から涙流しながらハンカチかじってるんじゃねぇよ。


 周りに目線を痛いほど感じながら、俺たちはイストワールへと向かった。

 歩いた時は結構な距離だったが、ポーターを使えばまさに一瞬だ。この辺りはゲームのいい所だな。


「ここですわ!」


 ヒミコに連れられてたどり着いたのは、そこそこ大きな洋風の建物だった。

 服装と同じく、壁は白で統一されている。


「さぁ! 中に入ってください」

「お、お邪魔します」


 中に入ると驚いた。

 なんというか、オシャレなカフェに来たみたいだ。しかもお高いやつ。


「今、お茶を入れますわね」

「あ、ありがとう……」


 家具も出てきた食器も高そうなものばかりだ。

 そういえば、今気付いたけど、プレイヤーでも建物と所有できるんだな。


 ヒミコが持ってきたのは白い陶磁のティーセットとお茶請けの美味しそうなクッキー。

 カップに容れられた紅茶を飲むと、本物みたいに香りと味が広がる。本物なんて飲んだことないけどな。


「うふふ。どうでしょう。私のアトリエ。こういう箱庭的なの要素も大好きですの」

「正直驚いたよ。こんなことも出来るんだな」


「ええ。製作で稼いだお金の半分はこちらにつぎ込んでいますわね。この紅茶のティーセットも、最近手に入れましたの。ちょうど300万ジル。ショーニンから頂いたお金でですわ」

「ぶーっ!! さ、300万!?」


 俺は驚きのあまり飲んでた紅茶を吹き出してしまった。

 さすがにそこはゲームらしく、吹き出した紅茶は周りを汚すことなく消えた。


「ええ。一度手に入れれば永久に使える物ですから。それに娯楽関連は大体高いんですよ? 贅沢品ですから」

「まぁ、確かにゲームの中ではサブ要素なのか」


「さて、自慢もできたことですし、そろそろショーニンの新しい装備について話を始めましょうか。何か要望はあります?」


 ティーセットを机の端に寄せ、ヒミコはにこやかな笑顔を見せる。


「そうだな。さっき言ったように状態異常の耐性が欲しいな。防御は今着ている装備みたいなのがいい」

「ええ。分かりました。見た目の希望とかはあります?」


「いや。そこは任せるよ。可愛い系の服装だちょっと困るけど……」

「分かりました! 任せてください! 素敵な服を用意すると約束しますわ。それで……今考えているものに必要なものなんですが」


 カスタマイズするには、色々と素材が必要らしい。

 しかも成功率が100%じゃないから、出来るだけ多く必要だとか。


 俺がお願いするフルカスタマイズは、その他に装備作製自体の素材も必要だ。

 売っているものは買えばいいが、数も数だし、物によっては自分で集めた方が早いらしい。


「何度もアトリエと狩場を往復させることになりますが、こればっかりは仕方ありませんわね。倉庫の方はかなり拡張してますから心配はいりませんわ」

「うん? なんで往復する必要があるんだ? 全部集めたら一度に持ってきたらダメなのか?」


「え? 失礼ですけど……ショーニンは力は全く上げてないんですよね? それだったら積載量がそれほど無いのでは?」

「積載量? 初めて聞いたな……もしかして持てる量って上限があるのか? 今までアイテムを持ちきれなくなったことなんてなかったけど」


 俺は今までの狩りのことを思い出してみる。

 1000個だろうが、持ちきれないなんて表示が出たことなんて一度もなかったな。


 そういえばアイテムの数で思い出したが、前に新しいスキル「大商人」と「巨商」を手に入れた。


【大商人】

売買数が10000個を超え、手に入れたことのあるアイテムの種類が100種類を超える。

効果:店売りの価格10%上昇。露店、オークションの手数料半減。「商人」専用スキル。


【巨商】

売買数が20000個を超え、手に入れたことのあるアイテムの種類が500種類を超える。

効果:店売りの価格が10%上昇。レアアイテムの獲得率上昇。「商人」専用スキル。


 「巨商」を取ったのはついさっきだから効果はあまり分からないが、レアアイテムを獲得しやすいってのは結構魅力的に見える。


「おかしいですわね……初期ステータスなら、100個もアイテムを持てば持てなくなるはずなのですが」

「そんなはずないな。まぁ。『商人』の隠れ特典なんじゃないのか?」


 検証するのは素材集めと一緒にやればいい。

 俺は必要なもののリストを受け取り、買った方が早いものを調べてから狩場へ向かう。


 その途中でレベル上限を解放するためにクエストも受け、サクッとボスを倒しておいた。

 今回のボスは巨大な一つ目の巨人だったが、攻撃を食らう前に「銭投げ」で一蹴した。


「さて。まずは、こいつか。なんだっけな、知識上げるためのカスタマイズに使うのか」


 俺は指定された素材が手に入るモンスターの一つ目の狩場へたどり着く。

 墓場に出てくるモンスターで脳が肥大化して剥き出しになってる不死系モンスターだった。


 名前はその名もヒュージブレイン。

 直訳するとでかい脳だ。


 正直きしょい。

 このゲームは見た目がリアルな分、攻撃時や討伐時のエフェクトを自由に変えられる。


 デフォルトはゲームっぽく、グロさなんて皆無でグロ苦手な俺でも問題がない。

 しかし、元々のモンスターの描写はそうはいかない。


 なるべく直視しないようにしながらひたすら狩っていく。

 不死系なのでHPは高めだが、そこはしょうがない。


「お? なんか拾ったな。おお! これは!」


 おそらくレアアイテムと思われる装飾品をゲットした。

 早速「巨商」の効果が出たようだ。


【ブレインシーカー】

脳に作用し、脳の機能を肥大化させる機能を持つイヤリング。

効果:知識100%上昇。力、器用さ20%減少。


 おいおい。これ付けた途端、機能だけじゃなく大きさまで肥大化して見た目がヒュージブレインみたいになるとかないだろうな?

 俺は恐る恐る手に入れたイヤリングを装備してみる。


 正直この装備は俺のためにあるような装備だな。

 知識極振り専用装備って感じだ。


 知識がいきなり480まで増えた。

 代わりに力と器用さが4になったが誤差だな。


「お? おお! こりゃあいい!」


 知識が増えたおかげで、討伐数の少ないモンスターでも表示されるステータスが増えた。

 一番嬉しいのはHPだ。これで使うジルを無駄にしなくて済む。


「さーて! これで初めて見るモンスターでも安心して狩れるな。どんどん狩るぞー!」


 俺は調子に乗ってどんどん狩りを進めた。

 必要な素材はどんどん溜まっていくが、一向に持ちきれなくなることは無い。


 確定だな。

 どうやら隠れ特典として「商人」に積載量の上限がないらしい。

 まぁ、今までと何が変わるわけでもないけどな。


 その後もひたすら狩りに狩って、それぞれの素材を言われた数の2倍くらいずつ集め終わった。

 残るのは、装備を作るための素材だ。


「こっちはボスとかがメインか。レアドロップとかもあるんだなぁ。まぁ、なんとかなるだろ。どんどん狩るぞー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る