孤独な家の中 2
立ち止まっているわけにもいかず、足だけでも動かす。水面は溜まっているわけではなく、水流となっていた。その流れに従えばどこかに着くだろうと浅い考えから目的もなく歩く。闇と水面しかない空間をひたすら歩く。瑠璃も
探すが、人影すらない。
地獄ならば囚人か鬼かそれ以外の何かがいてもおかしくはないのに気配も感じない。そのせいか、カンダタにあった緊張も歩いていくうちに次第に薄れていった。
誰もいない。何もない。あるのは水面の一本線だ。歩いても歩いてもそうした風景がどこまでも続いている。まだ夢の中にいるのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
もしかしたら瑠璃は流れに逆らって行ったのかもしれない。
それとも水面の流れに従ったままでいいのだろうか、引き返したほうがいいのだろうか。
進路を変え戻ったとしても二度手間になるだけだとわかっていても一度でた選択肢はそれが正しいと思い違いをし、なかなか頭から離れない。
迷いながらも進み続けていると暗闇の水面に三角屋根が現れた。空虚な水平線の空間に浮かぶ一軒家は異様な存在だった。
姓が刻まれた門の前で立ち止まる。自然とその家に向かってみたものの、中に入ろうとは思えなかった。
家の中には瑠璃が入る可能性もある。だが、カンダタの臆病虫がその可能性を潰す。
門の前で立ち止まっていると足首に優しく衝突したものがあった。目線を下ろせばブラウン管テレビが緩やかな水に流れ、脚に引っかかりその場に留まっている。
電流をつなげる線はない。だというのに、画面は白く点滅している。
奇妙なテレビから脚をどかす。自由にのんびりと流れてゆくテレビを見送ればまた足に引っかかるテレビがあった。今度は3つだ。
水平線からいくつものブラウン管テレビが流れてきいるようで、それはいつの間にか瞬く間に水面を埋め尽くそうとしていた。
水面を隠し、テレビが重なり山となり、カンダタの進行方向を塞ぐ。
こうなればカンダタの行く先は決まったようなものだ。表札のある門を抜け、一軒家に侵入する。
敷地内に水面はなく、硬い石畳の道が玄関入り口まで続いている。正面扉の右隣には窓が3つほどあるようだが、植木に隠れてしまい中の様子が見えない。
振り返ってみれば、すでに門はブラウン管テレビで埋もれ、足場の踏み場もなくなっていた。
選択肢は決められていたのだ。腹を括るしかない。
少しだけ年季がついたドアノブを回す。扉から流れ込んできたのは人間が溜めて放つ油の臭いであり、思わず鼻を塞ぐ。汗を洗い落としていない酸味の臭いだ。
嫌厭しつつも足を踏み入れる。刹那に背後の扉が勢いよく閉ざされた。
閉じ込められた。確認の為、扉を開けようとしてみるが、やはり開かない。鍵のつまみも硬くなって回せない。
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