遊園地 4

水を用意して、ケイと光弥にサプリを渡してあたしは自室に入る。

あたしはベッドで横になった。快眠を促すサプリだから服用すれば次第に眠くなってくる。

「文句がある顔ね」

カンダタの顔は陰りがあって、あたしの選択に不安があるようだった。横で見守るハクも同じ顔をしている。

「文句はない。そうしたいのならそうすればいい。ただ、瑠璃は生きているから」

目を瞑っていると身体が沈んでいく感覚がするも眠気まだ来ない。

「まずは自分の心配をしたら? 今にも爆発しそうよ」

あたしからの指摘にカンダタは項を擦る。

カンダタと一体化している黒蝶はコントロールできないと蝶男は話していた。カンダタも自身が抱えている爆弾を持て余している状態だ。

「俺は、別に。いつでも切り捨てればいい」

「言われなくてもそうするわ。ご心配なく」

唇が重くなってきた。思考が鈍くなる。

「あたしは勝手に捨てる。だからカンダタも」

鈍間な思考回路。それでも言葉を話す。

「勝手に決めなさいよ。偽善やあたしに任せずに」

思考が沼に沈もうとしていた。

「道標がないのに」

夢に落ちる間際、カンダタは呟く。

「何を決めて歩けばいいんだ」

あたしは微睡む夢の中へと落ちていった。




目覚める瞬間の感覚に似ている。夢と現実の間に立ち、境界線が曖昧になった感覚。

足が地につかない。宙に浮いた足で歩行の動作を繰り返す。そうしているうちにアーチ状のゲートが空間に浮かぶ。

あたしは光を放つゲートを潜った。

「ようこそ!お越し下さいました!」

機嫌の良い金楽器の音楽と軽快な声が聴覚を刺激して、脳に伝達する。

夏に近い晴天が全身に降り注ぎ、心地よい風が肌を撫でる。あたしが潜ったゲートの前ではウェルカムボードを持った若い女性がいた。

「なんだ、ここは?」

カンダタが困惑した声を発する。あたしの後ろにはカンダタもハクもいた。

2人と一匹が見上げていたのは白亜の城。自信に満ちた態度で建っている。その威風はまさに夢の象徴とも言える佇まいだ。

機嫌の良い音楽、大きな城、あたしたちを歓迎するスタッフ。西洋風の街並みが広がり、その奥では高く昇ったジェットコースターがレーンの上を走り去る。

まるでそこは遊園地だった。

「初めてのご来園ですか?」

目前に立つ若い女性が接客スマイルであたしたちを見つめている。あたしは困惑していた。

「こちらはキャストから放浪者様へのプレゼントです!」

そういって差し出してきたのはポップコーンと端末。

「放浪者様?」

頭が混乱していてもこの状況を飲み込もうと質問する。

「夢園では現世で彷徨う哀れな魂をそう呼んでおります!放浪者の傷を癒し、居場所となるのがこの夢園です!」

放浪者、哀れな魂、夢園、居場所。この並びが不吉な響きに聞こえてくる。

「夢園は5つのエリアに分かれております」

その後はキャストがエリアや施設とかの案内を話す。何度も復唱し、暗記したような台詞。どうでもいいので聞き流した。

「なんだかおかしなとこに来たなぁ」

ひょっこり現れたのは光弥だった。足元にはケイがいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る