夢楽土会 12
ケイの話で度々登場するカゲヒサが白糸・白鋏を隠して、ハザマが長年探し続ける羽目になったというのがあたしの解釈。
「そうなのかなぁ」
光弥もそれしか思い浮かばず、それでいてどこか納得いかない様子だった。
「なぁ、瑠璃の前世に話聞けない?」
身を何を乗り出してくるのかと思えばあたしの前世ですって?
「意味分かんないんだけど」
あたしは呆れて椅子から立ち上がるとグラスにアイスティーを注ぐ。
「だって、瑠璃の一部があの刀なんだぜ?瑠璃はどこかで魂の一部を切り取ってる」
そんな記憶はあるわけがなく、光弥もそれをわかりきっていた。
「身に覚えないだろ?だったらケイと白い刀は瑠璃の前世で何かしらの関わりがあったんだ」
「だったら何?」
「何って気になるだろ?」
光弥と違ってあたしは事実の探求に興味はない。それを知らなくても生活に支障は無いもの。
「そもそも、前世と会うなんて無茶振りじゃない」
「白糸ならできるって」
「なら、そのやり方教えてくれる?」
光弥は黙る。理論では可能だと主張してもやり方が不明なら不可能なのよ。
「ケイが何者でも、あたしの前世がどう関わっていたかも、それらは故人の話でしょ。現代にいるあたしには関係ないわ」
そんなことが6月にあった。
「気をつけてください」
さえりの一言であたしは回想から戻ると適当に遇らう。
あたしはさえりと別れてやっと涼しい自宅に帰れた。光弥に夢楽土会ついて聞きたかったのにあいつは不在だった。
「何考えてる?」
帰宅してすぐクーラーで室内を冷やし、アイスティーで身体を冷やす。そんな私にカンダタが不思議そうに尋ねてくる。
カンダタはスクールバックの中に成績表と補習授業のスケジュールがあるのを知っている。嘘を吐いてまでさえりに渡さなかった。あたしの目論みを聞き出そうとしていた。
「もし、夢楽土会と蝶男が何かしらの関わりがあるとしたら、カンダタの言う通りなのかもしれないって」
冷蔵庫にアイスティーを仕舞う。夏の熱で火照った身体がすっかり冷めて、快適な空間にあたしの苛立ちは少しだけ和らいだ。
「それで、どうするつもりなんだ?」
カンダタが問う。まるで自分が協力する前提の質問ね。そのつもりだったから、いいけれど。
「あとで話す」
あたしはそれだけ言うと自室に戻った。
日中の間、光弥が戻ってくるのを待っていた。どうやら、調査とやらを真面目にやっていらしい。
やることもなかったからスマホでマーマレードのメイキング動画を検索する。
叔母の味を再現してみようと何度も試みても、叔母の味にはならない。レシピも頼んで送ってもらったけれど、どこか違う。
日本とフランスのオレンジではやっぱり違うのかしら?
叔母のマーマレードを再現する為に様々な動画で勉強しているとバルコニーの窓を叩く者がいた。ケイだった。
ここ10階よね?
自分が住む部屋の階数を確認する。ケイは10階の部屋を登ってきたことになる。それが猫の潜在能力なのか、ケイが異常なのか。
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