2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

とある生徒の独白 1

「4月は希望そのものだった。

晴天は私たちを祝福して桜吹雪は制服姿の背中を押す。春風に包まれながら私はすずちゃんと将来の夢について語り合いながら登校する。

高校入学の目的は演劇部だった。

そこの演劇部は強豪校で実績も多いから、学校側も演劇部に力を入れているみたいだった。

私は女優になるのが夢だった。本当は演劇のスクールに通いたかったけど、家からは遠くて、お金もかかる。オーディションにも挑んでいるけれど、毎回書類審査で落ちてしまう。スクールにも通っていないし、そこまで美人でもないからだと思う。

それなりに勉強はしている。自分の演技を録画したり、舞台やテレビの女優さんたちを参考にしたりして、研究をしていた。

それらは独学でしかない。それでは限界がある。先に進みたいのに進めない。そんなもどかしさがあった。

だから高校で演劇をしっかり学ぼうと思った。

演劇部の見学を終えて、はずむ気持ちで入部届けを出した。

その次の日に美術チームに配属された。

希望も聞かず、一方的に言われた。

その時私は顧問に訴えた。“私は役者希望なんです、演劇をやりたいんです、変えてもらえませんか”

顧問の答えは、“お前には向いていない。そんなにやりたかったら見て学べばいい。努力次第では配属させてやる”

その後に目上に対する態度を指摘された。私が思っていたよりも上下関係は厳しかった。別に反抗するつもりで言ったわけではなかったのに周りの人にはわからずやに見えたらしい。

次からは気をつけようと心に留めて、美術チームに入った。

役者チームには入れなかったけれど、演劇に関われないわけではない。傍で見ているだけでも学べる事はあるはずだし、台本だって一時的であれば貸してくれると、私は前向きに考えた。

美術チームの中でもやっていけると。そういった私の甘い考えが愚かだと後々に思い知らされることになる。

美術チームは小道具や衣装までも作っていて、舞台のレイアウトやコンセプトなどチーム内で話し合いを繰り返し、演劇の背景を作っていく。

作る人の中には私みたいな演劇を希望していた人も多くいた。私の教育係を受け持った先輩もその1人だった。その人がなかなかに厳しい人だった。

“華やかな役者とは違って美術チームは裏方になる。だからといって手を抜いて作業しないで”それが先輩の口癖だった。毎日言っていた。

入部初日、顧問に抗議したこともあって特に私には厳しく指導した。

先輩からしてみて私はとろいらしい。初めての美術工作だったのも先輩にそれを言わせた理由になるかもしれない。作業効率の悪い私に先輩は何度も怒鳴った。

1日に何度も。怒られた。穏やかな顔は持っていないんじゃないかと思う位に顔を赤くさせて、甲高い声を鳴らした。

怒られるたびに私は萎縮して、怯えて震えた手の先が次のミスを起こす。ペンキ缶を床に落としたり、配色を間違えたり。そのたびに先輩が大声で怒るから出来損ないの私が浮き彫りになっていって、愚図な私が周りに認識されていく。

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