三 建設現場

 市川は建設中のビルの中に立っていた。月明かりが剥き出しの地面や鉄柱を照らし出している。


  どこだ、ここは? オレは一体……


 混乱しつつも記憶を手繰る。確か自分は求道会の経理部長に取材をして、事務所でもある自宅へ帰る途中だった。


  そうだ、笈田から電話があって。


 だが、電話に出たのは別の人物で、それからの記憶が無い。


 市川が自分がどこにいるのか確かめようと周りを見回した。すると物陰から一人の男が姿を現した。


「どうやら正気に戻ったようだな?」


 月光が男の顔に当たった。市川はその男を知っていた。


えきかい?」


 求道会副会長の長男であり、笈田が異能を持つと言っていた人物の一人だ。


「さすが、私のことも調べているのか」


「何で……」


「自分がここにいるのか? それとも、私がここにいるのか? いや、両方か」


 海は小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「笈田さんはどうした?」


 悔しいのでわざと質問を変えた。


「安心しろ、我々に快く協力してくれることになった」


 つまり笈田を洗脳したということだ、異能を使ったのだろう。


「オレも洗脳するのか?」


 口の中がカラカラに乾く。


「いや、目障りな害獣は駆除する」


 市川は逃げようとしたが、金縛りにあったかのように身体が動かない。


  やめろ!


 叫ぼうとしたが声も出ない。


 眼の前に海が迫った。


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