エンドレス・シスターズ・ウォー②
『真実の剣。これは古よりアルタイル王国に伝わる呪いの剣さ・・・』
「呪い? 真実と名を冠しているわりには、物騒な」
デネブは剣をくまなく見ながら、水晶玉に返答した。特段、変わったところはない。磨けば武器として使えそうな、何の変哲もない立派な剣だ。
いつの間にか隣に移動したベガが脇から顔を出し、指先でツンツンと剣をつついた。
「そうどすなー。変わったところもありませんなー」
「どぅわっ!! ベガ!! 気配もなく移動するな!」
殺気など、気配を察する能力を鍛え上げあられたはずの自分に気づかれずに近づく妹に、デネブは恐れおののいた。
『そりゃあね、そのまんまじゃただの小汚い剣じゃ・・・。そいつはな、とあるタイミングでのみ、その真価を発揮するのじゃ』
「とあるタイミングだと?」
『そうじゃ。その剣は、その名の通り、本当の真実を見極める力を持っているのじゃ・・・』
「くどい話し方でんなー。『・・・』好きすぎるやろー」
『うるさいな小娘!!』
水晶玉は、すぐキャラ崩壊を起こす。
『・・・ごほん。人間てのは惨めなもんさ。すぐ建前を作りたがる』
「なるほどなるほど。お兄様もカッコつけて部下の前では冷めた顔して、ほんとは高いところ苦手どすもんなー」
「おいっ! こらベガ!! 根も葉もないことを言うな!!」
「いつもあの派手なだけで効率の悪い空に浮いてく演出した後に、トイレに籠って震えてますもんなー」
「デネブ様・・・」
「おいシリウス!! 信じるな! 信じるなよ!?」
『・・・まぁ、そういうことじゃ。とにかく、どんなに建前で格好をつけても、本心ではどこかで弱い部分を隠していたり、嘘をついていたりするものじゃ・・・』
つまり、建前を貫き通そうとする、または自分でも気づかないところで発言と逆の気持ちを抱えている者のみ、初めて剣としての力を発揮するという代物である。古来より、踏絵の形で使用されたきた、嘘をつくことができない処刑道具ということだった。
デネブは、剣をまじまじと見つめた。
「・・・なるほど、な」
『どう使うかは、あんた次第さ・・・。だが、そいつを使いきられなかった者はほとんどいない。真実ってのはときに残酷なものなのさ・・・』
デネブは、剣を床に突き立てると、一人窓際に立ち、見慣れない地球の月を見上げた。長年連れ添ったシリウスにも、何を考えているかわからない顔だった。
「お兄様」
「・・・なんだ? ベガ。お前が何と言おうと、俺様はやらねばならん」
「お兄様」
「だから、なんだというのに」
「あちらの妹はんのこと、本当はかわいいなー思とりますやろー?」
まったく脈絡のない質問に、思わずデネブは窓から突っ込んだ。
「ななななっ、何をわけのわからんことを言うんだお前はー!! そんなことこの俺様が思うわけないだろうがー!!!」
「ほんとですかー?」
なんだベガ、まさか嫉妬しているのか? 意外と可愛い奴だな・・・。
デネブは妹の新たな一面に恥ずかしくなりながら、ぶつけた頭をさすりベガに振り向いた。ベガは、か細い腕で真実の剣を握りしめ、振り上げた形で構えていた。
ためらいもなく、思い切り振り落した。重い剣を支えきれず、剣は思い切りよく振り落されると、デネブの前髪をかすり床に突き刺さった。
「・・・」
ハラハラと床に髪の束が落ちる。
「あかん、重たすぎて狙いがずれてしまいましたわー」
「・・・。・・・って、おい!! こら!! なにしてんだお前はー!!!」
「試してみましょと思いましてなー」
「どぅおーい!! 殺す気かおのれはー!!! 嘘じゃないよ!? 嘘じゃないけど、兄で試すな兄でー!!!」
「嘘じゃないなら大丈夫ですわお兄様ー。そーれ」
ベガはふらつきながら真実の剣を持ち上げ始めた。デネブは慌てて部屋の中を逃げ惑う。
「バカ! 待て!! 待てってベガ!!」
「待つのはお兄様ですー。お待ちになってー」
「くっ、来るなー!!!」
にぎやかに部屋からいなくなる。取り残されたシリウスを水晶玉は、顔を合わせると、やれやれと首を振った。
窓際には、剣に切り落とされたデネブの髪が悲しく落ちていた。
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