ディストピアスターファイター

巡屋 明日奈

卒業試験トライアル編

「全てはここから始まりました」

第1話:待ち焦がれた日

宙暦5502年、都市惑星ルートリード。

この惑星にはいないはずの魔物・ダークマターが突如この都市惑星に大量発生した。

ダークマターたちは一目散に年で一番大きな建物、SFスターファイターズの本部基地へと向かっていく。

やがて本部基地の周りは真っ黒なダークマターに覆われ、そして——


『やれ、ダークマター』


一瞬、青年の声が聞こえた気がした。

本部基地に貼りついたダークマターたちが強く発光する。

次の瞬間、辺りは眩い光に包まれ、都市惑星ルートリードの中枢が大爆発した。


✳︎


宙暦5505年、都市惑星ルートリード士官学校。

「…………っは」

士官学校の暗い寮の二段ベッドから、一人の人影が飛び起きた。その人影、サティは顔にかかった長い黒髪を無造作にかき上げる。酷い汗が手と髪に絡み付いた。

またあの夢だ。

サティはその虹色の瞳を細める。頭が痛い。

自分はよくわからない暗いところに立っている。突如閃光が走り、足元が崩れる。近くで起きた爆発の爆風に吹き飛ばされ、細いサティの体は数メートル先に叩きつけられる。立ち上がろうとサティはもがくが、努力も虚しく目の前で再度起きた爆発に目が眩み態勢を崩す。

痛い。熱い。何が起こったのかわからない。訳が分からないまま、いつも突然目が覚める。

サティは深く息を吐くと窓の外を見つめた。

窓の外に広がっているのは見慣れた景色。というよりサティはこれ以外の景色を知らなかった。覚えている一番古い記憶が三年前。その時にはすでにこの都市惑星ルートリードにいた。

「サティ、夢見、悪かった?」

サティが振り向くと二段ベッドの下から小さな人影がこちらを見上げていた。

「…………ウェンティ」

ウェンティと呼ばれたその人影は梯子を登ってサティの隣に収まりに来る。

サティの弟だろうか、それとも妹なのだろうか。ウェンティには、そしてサティにも性別はない。そういう種族なんだ、と保護者代わりの人から聞いた。

サティは時計を見上げた。まだ日付は変わっていない。眠りはじめてからまだ一時間ほどしか経っていなかった。

「寝ましょう、明日は試験です」

ウェンティは寝息でそれに応えた。

明日はいよいよ士官学校の卒業試験トライアル。合格すれば、この三年間夢見ていた憧れの英雄スターファイターになれる。


✳︎


数時間前。

「あの事件からもう三年も経つのか。時が過ぎるのは早いな、サティ、ウェンティ」

SF本部艦にある小さな個室で赤髪の有翼族ハーピィの女性が呟く。恐らくこの部屋の主であるベルンハルト大佐だろう。片手に持ったデータパッドの電源を切り、ベルンハルトは椅子から立ち上がる。背後に控えていた人影二人が彼女の通るための道を開ける。

「サティ、ウェンティ、いよいよお前たちも明日で士官学校を卒業するんだな」

その声に後ろに立っていたサティとウェンティが顔を上げる。

「ベルンハルトさん、まだ私たちが試験に合格できると決まったわけではありません。試験に落ちれば卒業は……」

「もちろん、お前たちの実力なら問題なく卒業できるさ。お前はもちろん、ウェンティも素晴らしい実力じゃないか」

真面目な顔で言い返したサティにベルンハルトが笑って言う。別のデータパッドを取り上げ、表を空中に投影する。

事前試験結果、と書かれたその表の一番上にサティ、その下にウェンティの名前が書かれている。

一位サティ、300点満点中299点。二位ウェンティ、300点満点中297点。三位アックス、261点。四位テオ、258点。

「見ての通り、お前たちはとても優秀だ。お前たちが卒業できなくて誰が卒業するんだ?」

「というか、人の成績公表していいんですか?仮にも大佐であり教師ですよね」

咎めるようなサティの声にベルンハルトがさらに笑う。

「まあ、そこは教師権限というものだ。それにお前たちの保護者として、お前たちにはぜひ合格してもらいたいからな」

自信をつけろ、というベルンハルトに向かって呆れたようにウェンティがぼやく。

「それ、職権濫用」

「お前たちの実力ならこんなもの見ても見なくても変わらないとは思うがな」

決まりが悪そうに目を背けると、ベルンハルトはそのデータパッドを机の上に置く。

「明日の卒業試験トライアルは成績の近い四人一組で惑星デュナスのダークマターを討伐してもらう。つまりお前たちはこの二人と組む」

ベルンハルトの指が投影された表の三位と四位のところを指す。アックスとテオ、校内でも何度か見たことがある優秀な学生だ。

「この人たちなら、試験、問題ない」

ウェンティが二人の成績を覗いて呟く。そんなウェンティを見てベルンハルトが苦笑いをこぼす。

「二人とも、試験は明日だ。早めに寮に戻って寝ておけ」

ベルンハルトは手元のリモコンで部屋の扉を開ける。

「『卒業試験なんて対策のしようがないんだから思いっきり寝ちゃえばいい』、私の学友でもある、スターファイターの中でもさらに英雄と称されるファイター、エンデの言葉だ。まさにその通り、対策のしようがないなら寝るのが一番だ」

扉を指してベルンハルトが言う。

「おやすみなさい、ベルンハルトさん」

扉の前で一礼し、サティが部屋を出て行く。続いてウェンティも部屋を出て行った。

二人が出て行った部屋で、ベルンハルトが最初のデータパッドの電源をつける。さまざまな画面が辺りを覆う。

「あの子たちにとって、これから楽しい未来が待ってるといいが」

浮かぶ無数の画面に照らされ、ベルンハルトは小さく呟いた。

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