キッドさんの四国上陸 その5

第五話「参拝、泥酔、バチ当たり」の巻



突然ですが、四国です

香川県坂出市。自動車港やコンビナートなどが立ち並ぶ岸壁を見ながら、物思いにふける佐野

ああ、とうとう四国の土を(アスファルトだったが)踏むのだ

四国に入ってまず目指すのは、四国八十八箇所札所

「七十九番高照院天皇寺」

水曜どうでしょうファンにはお馴染みの、怪奇現象が起こったあの寺である


場所は抜かりなく地図担当の佐野が地図でしっかり当たりをつけていた…はずだった

坂出北インターで高速を降りて、一路天皇寺を目指すつもりが

佐野「ゴメン……もう一個前の信号だった」

朝倉「はあぁっ?(怒)」

佐野「いや、地図には確かにもう一つ信号交差点が」

朝倉どうすんだよ、戻れねえぞ!」

平松「一旦切り替えして戻ろっか。」

朝倉「あ~あもぉ~面倒くせえナ!」

佐野「ごめんて」


170センチ100キロの佐野がすっかり体を縮めて小さくなっている

かわいそうに。そんな怒ることないじゃんねー?

が、まあ仕方がないのでとりあえずそのまま進んで堤防に出る。少し進むと坂道を降りてゆくようになっていたが、そこはそれで切り替えすどころか擦れ違いもきわどい狭い砂利道。周囲は竹林である

朝倉、決死のバック走行で来た道を戻り、狭い十字路で何とか向きを変えると今度こそ正しい道を行くつもりが…お寺への案内看板とかも見当たらない

そしてまた揉める車内

朝倉「こんなトコ入れねえよっ!」

平松「いくらなんでも狭いらぁ~」

佐野「じゃあ、こっちか?」

目の前のY字路を左に折れると地図には書いてあるけど…なんだか寺がありそうな気配が無い

で、Y字路を左に進んでみるも案の定

平松「老人ホームの裏口だねこれは……」

朝倉「おい、道がねえぞ!」

道どころか、林の中の空き地へ入ってしまう有様

朝倉「もぉ~なんなんだよ、ったく!」

佐野「おっかしいなぁ~」

朝倉「おかしいのはオメェーだろ!(怒)」

佐野「うーん」


そこへ平松が助け舟

平松「さっきY字路に入った道を右行ってみれば?」

朝倉「そうするかあ」


すると相変わらず狭い住宅地の中に、アッサリと

「七十九番札所 天皇寺」

の文字が

感慨にふける間もなく車を停めて早速参拝

境内にはボチボチ人の姿が見えた

空いているように思えるが、よく考えれば全国各地にある「神社」や「お寺」に、少なからず日がな一日人がいるのって珍しいよね

出雲大社や伊勢神宮とか観光地化されているならまだしも…ここ天皇寺は見た感じ普通のお寺さんだ

どこの街にもある静かな、落ち着いた空間


そこへ騒がしいのが3名やってきた

いちばん太ってる奴がちょっと落ち込んで静かになってるが、それはさておき御参りだ…ここまで無事にたどり着けたことを感謝し、そして帰り道の安全も祈願する

さて、お参りを済ませた3名がやることはあと一つ

お寺の前でハイ、ポーズ!

「七十九番、天皇寺!」

水曜どうでしょうでお馴染みの、神様も仏様も弘法大師様も恐れないバチ当たりなポーズ。しかしコレが神仏の怒りに触れたか、3名はこの後更なる惨劇に見舞われることになるのだ


ところで、その昔「兼好法師」という人が書いた「徒然草」という物語をご存知だろうか

京都を走っているとき、仁和寺の案内看板を見て佐野が朝倉とその話をしていた。


仁和寺のお坊さんが長年、偉いお寺にお参りに行きたいと日頃から思っていて、ついに参拝する機会があったのだそうだ

よろこんでお参りを済ませて、兼好法師の元へやってきてこう言った

「私は先日ついに、長年の目標をかなえました。しかしなんですな。私と一緒に山を登ってきた人たちはみんな、お寺を見ずにさらに山へと登っていきましたよ。まったく、けしからん。フザケルナと言いたいですな」


もうお分かりかと思うが、この坊さんが寺だと思った建物は全くの別物で、みんなは本当のお寺を目指して、さらに山を登っていたのである。というお話

なぜそんな古典文学を持ち出したかという

早い話が佐野がポーズをとっているこのお寺は天皇寺ではないのであった

なんとなんと、「本当の」天皇寺は佐野がポーズっている建物の左にあったのだ!

…急いで再びお参り。どーりでみんな向こうへ行くわけだ

3名全員、何の疑いも無くお参りしてたもんなあ…さぞ熱心な若者に見えたか、大方「馬鹿な奴らだ」と弘法大師様にも笑われてしまったことだろう

21世紀のリアル徒然草でした


天皇寺を後にした3名は、次のお寺である八十番国分寺に向かう

本日はそこまでにして、早々に宿を目指そうと言う考えだ

え、予約とかしてないの?

うん

現在時刻は17時。急がなければ…


国分寺には天皇寺からスグ

ここも静かな、割と広めのお寺でした

入り口にて

「八十番・国分寺!!」

さて、ここでもシッカリお参りをして…あとはホテルと晩メシだ

気が付いたが、駐車場はいっぱいなのに境内には人がいない

近くの建物からお経が聞こえてくる。それも結構な人数で唱えているらしく夕暮れ黄昏な街に響き渡るお経の大合唱。なるほどみんなコッチに居たんだ

ココで聞かなかったらさぞかし不気味に思えただろうが…なんだか早くも殊勝になっている3名はそうも言わず、そそくさと車に乗り込んだのであった


高松の市街地に入る頃には、すっかり日が暮れてい

市役所や香川県庁などがある中心地を抜けて、よくある繁華街に入る

交差点を左折して、…ん?

佐野のナビが止まる

もう一度同じ場所を走る…やっぱり

佐野「ねえ、ココだよ」

ハンドルを握る朝倉の表情も止まる

朝倉「は?」

平松「うわー今日は狭いねー何かと。何かと狭いねー!」

自分は運転しないで済んでいる平松は楽しそうだ


豪華なホテルや小奇麗なビジネスホテルが立ち並ぶメインストリートから2ブロックほど離れた、寂れた飲み屋街

そこに我々3名が取った今夜の宿があった

ホテルの名前は忘れてしまったが、まあアパとか東横インがこれほど広がる前には全国各地にあったであろう感じのホテル……を、もっと狭くて暗くて古臭くした感じのホテルだった


一方通行で自転車が溢れかえる狭い道に隠然と立ち誇っている

暗い。駐車場も狭い。しかも狭い路地に大きな車が邪魔くさく止まっているので、朝倉再び必死のバック

平松は宿に電話して、そこしか駐車場が無いことを確認し皆に伝える

佐野は車を降りて誘導だ。オーライオーライ……なんとか駐車して、フロントに入る


するとフロントには小さな窓が一つ。前払いで、帰るときはフロントの箱に鍵を入れるようになっている

つくりといいシステムといい、なんだか連れ込み宿寸前だ

というか、まあ何年か前までは、まさにそうだったんじゃなかろうか

フロントの男は語尾がヤケに跳ね上がるわりには陰気な喋り方で、淡々と説明をした


部屋は3階

鍵を開けて、まず最初に部屋を見た佐野が…

絶句した

続いて朝倉と平松もお部屋拝見

絶句した


狭いっ!!なんて狭いのだ!

部屋の面積が殆ど全てベッドで占められている

ただでさえ狭い二人部屋を無理やり簡易ベッドで三人部屋にしたと見える

よって一つは硬くて、低くて、オマケにキャスターが一個取れちゃってガタガタ揺れる簡易ベッドで寝なければナラナイことが明らかになった


少し落ち着いて部屋を見回し、簡易ベッドでクローゼットまで塞がれた事と、トイレと風呂と洗面所が仮設トイレより少し広いぐらいの空間にあることを確認した3名は


必死の第3回ジャンケン大会を開催した。

全員の目が血走っている

…というか、もう下手したら絶交秒読みである

負けたらこの疲れた体を簡易ベッドに横たえることになるのだ。佐野は決意した、ここで万が一のことがあったらコイツら二人ともぶっ飛ばしてでもベッドで寝よう……と

恐らく残りの二人も同じことを考えていたはずだ

そのぐらい嫌だった



最初はグー、




じゃんけんぽいっ!!!!!!




数秒の沈黙を打ち破り、狭い部屋に悲痛な断末魔が響き渡った

そして膝から崩れ落ちる朝倉

「なんだよぉ~また簡易ベッドかよおぉ~」


ナレーター「説明しよう!」

…それは遡る事数ヶ月前。石川県・日本海タッチの旅でのこと

ホテルに着くなり朝倉は平と佐野よりも先に

クラ「オレ窓際~~!」

と、一番いい場所であろう「窓際のベッド」の獲得を宣言し、そこに荷物を放り出したのであった

この予想外の奇襲戦法にガックリくる平松と佐野はおとなしく窓際のベッドを明け渡し、佐野は一番壁際、平松は真ん中に陣取ったのである

しかし、そこで初めて3名は気が付いた。窓際のベッドだけ、…他より低い

なんと窓際のベッドだけは簡易ベッドだったのだ!

強欲の罪に天罰が下された瞬間であった。もちろん佐野と平松は大爆笑

あわれ朝倉は悲しみに暮れたのだ

これが「兼六荘・窓際事件」である


話は香川県高松市の監獄のようなホテルの一室に戻る

とりあえず窓際のベッドが平松、今回は中央に佐野が陣取った

ちなみに部屋の注意書きには

「お帰りの際は空調を切って、鍵をお返しください 地球環境を大切に」

とあった

佐野「エコロジカルなのは結構だが、お客の環境は?」

朝倉「オイ見てみろ、すぐ隣なんか普通に民家だぞ」

平松「今度からはさあ、みんなでちゃんと見て決めようよー」

この宿に決めようと思ったとき、みんな深く考えずに平松に任せていたのだ。

それが裏目に出た。今度からは全員で慎重に選ぼう……

当然だが平松に責任などあるわけがなく悪いのはホテルの狭さと…臭さ


佐野「あ、エアコンこれか…(ピッ)ううっ、くっせえ!」

平松「どうした……わっ!くせえ!!」

朝倉「ほんとだ!このエアコンくっせえ!」

佐野「目が!目があああ!目がゴミのようだ!」

朝倉「バカ言ってないで早く切れ!」


夏場でなくて本当に良かった

ココで読者の皆さんにも狭さの片鱗をお伝えしよう。大体こんな感じだ


この部屋には、コレと洗面所以外に空間は無い

ベッドわきの僅かな通路がすべてだ

以上

ホントにコレくらいのことしかないのに、書きたいことは山盛りあって2020年の今になって加筆修正がタイヘンなんだこれが

オイ2007年の佐野!オマエ文章ヘタ過ぎるぞ!バカ野郎、デブ!!

あっそれは今もか。2007年の佐野、ゴメン


さて、3名はホテルというよりは、窟とでもいうべき空間に荷物を置いて、食事に出ることにした

ホテルを出て繁華街を歩く…街の印象は、浜松と豊橋を足した感じ(どんなだ)

つまり華やかさやキレイな建物、整った交通や道路は浜松

それ以外の寂れ方や乱雑さは豊橋

色々当たりをつけるが、とうとう結局チェーン店の居酒屋に入る

そこそこの規模で店も混雑しているのに、ホールにはお姉さん二人しかいない

そのため料理が来るのは遅いし、お姉さんたちはバタバタしている

が、お店に入るとき素直にそう言われていたので、特になんとも思わない


話は旅のこと、今日の反省(佐野)、とそれをなだめ励ます朝倉

さらに反省する佐野、なだめる朝倉

謝る佐野。笑って許す朝倉

気が付くと中ジョッキ数杯で早くも出来上がっている平松


朝倉「珍しいな~お前そんな酔うっけ」

平松「違うよ~酔ってないだよ、酔ってないけどぉ~、顔が赤いじゃん」

朝倉「酔ってんじゃねえか!」

佐野「疲れてるしねえ~…そりゃ酔うよ」

朝倉「オレ、まだ平気だけど」

佐野「オレも」

朝倉「お前(佐野)はなんかカワイイもの飲んでるからだろ」

ご存知の通り、佐野は体格が良い(太っているとも言う)

しかしビールが苦手なのである

従ってビール2杯とカルーアミルク(佐野)などを注文すると、必ず佐野の元にビールが来るのである

しかし、2007年当時の佐野はビールが大の苦手だった

2020年現在の今は、多少は飲めるようになった

銘柄にもよるんだけど、メヒコやアジアなど暑い国のビールが合うということが分かったので、飲むときはもっぱらそっちを頼むようにしている


平松の3杯目ジョッキを手拍子で囃す佐野と朝倉

乗せられてぐいぐい飲んだ平松、あっさり撃沈

もう平松が立ってられるかどうかも不安になってきたし、腹もくちくなったので宿へ帰ることに

何とか立って歩いていた平松だが、部屋に入るなり寝てしまった

風呂にも入らないで、着の身着のまま木の実ナナ。である


これが木の実ナナさんと古谷一行さんの温泉モノの刑事ドラマなら、温泉宿で露天風呂があって女子大生の混浴シーンにでも出くわすのだろうが……現実は場末の安ホテルで熱湯に身悶えるデブが一頭


まず入った佐野

キュッ…ザーーーーあちちちちちちち!!

風呂場の外で爆笑する朝倉「あっはははは!!バカだあいつ!」

何しろ狭い安普請、全部筒抜けなのだ

お湯と水を両方同時にひねったにもかかわらず熱湯だけが出て、思わずトンコツスープの出汁になりかけた佐野

結局、両方とも蛇口を全開にして、はじめて丁度良い湯加減になるようだった

…ナーーーニが環境に優しく、だホント


なんとか入浴を終えてガビガビの髪の毛(シャンプーがまた最悪だった)で出てきた佐野

ガビガビとはいえ、さっきまでガッチリ固めたオールバックの男が素の髪型で出てきたので軽く笑う朝倉

佐野「本当はこんな髪型なのですねえ」

朝倉「誰だかわかんねえよホント」


昼間買ったお酒とツマミで飲みなおす佐野と朝倉

そのうちに佐野は明日の地図を確認して、朝倉はホテル備え付けの漫画雑誌を読みふける


そんな静かな夜に、平松の大イビキがこだまする

あんまりうるさいんで布団でもかぶせようと平松をみると、なんとこのクソ寒いのに上着とシャツを胸まではだけて寝ているではないか

軽く起こして、布団をかけてやる

佐野は2本目の酒瓶をあけ、24時間以上起き続けている事を朝倉に自慢するが、朝倉は漫画に夢中で生返事

こうして、長い一日が終わろうとしていた


そしてお気付きだろうか

3名はまだ、「うどんを食っていない」



つづく

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