第38話
男子の衣装やらで一同盛り上がった後、担任から改めて話が入った。
「じゃあ、そろそろ体育館に行きましょうか。女子のみんながやることについては、私がさっき準備しておいたから安心してくださいねー」
そういえば女子の出し物は結局、学校内の話し合いではまとまらなかったので俺は何も知らずに今を迎えている。
とはいえ、何かするものは決まって担任に準備をしてもらっていたようだ。
「古山、このヘアピンいつ返せばいいんだ?」
「うーん、別にいつでもいいよ。私は今の髪なら無くても問題ないし」
「そ、そうか……」
男の俺からすると、何かで髪を留めておくということを初めてした、というよりされた。
割としっかりと違和感を感じることが出来るので、普通に落ち着かないのだが。
体育館に着くと、俺たちを見て他のクラスの生徒達がさまざまな反応をする。
こういう場面で、自分のことを隠すように動くか特に隠しもしないかの差が陽キャと陰キャなのではないかと感じていたが、どうも違うような気がしてきた。
人は嫌なことでも、慣れてしまう。
何か言われても、その前にある程度のことを経験すると何も感じない。
「お前、マジで無いわそれは!!」
でも、陽キャは気にしないどころか仲のいいやつなどに見せびらかしに行くから、その差なのかもしれん。
「あのー、写真撮ってもいいですか!?」
「あ、ああ……。どうぞ」
「やったー!」
顔も知らない他のクラスの女子がカメラを持っていて、撮らしてくれないかと頼み込んできた。
正直気は進まないが、ここで断ることだけはいけないと感じたのでとりあえず承諾した。
レクリエーションがスタートすると、各クラスが代表でくじを引いてその決定した順番に披露していく。
うちのクラスは最後から二番目。
最後は目立つし、最初は厳しいので個人的にはいいタイミングだとは思った。
だが、こんな目立つことをしていたら順番もくそもない。
「あの女子、お○さんといっしょ!のワン○ンの役やるってどうなんだ……?」
「自分で顔がでかいって開き直ってるから気にしてないらしいよ」
「自分で勝手にもう解釈してんのか……。というか、それでいいのか……?」
他のクラスの出し物としては、誰もが知ってるテレビ番組の場面を再現したものや、純粋に簡単な劇や個人での出し物などもあった。
「割と個人任せなクラスもあるんだな」
トークや歌が出来るやつ一人と、ルービックキューブが得意なやつ一人。
一分以内にルービックキューブを揃える、というパフォーマンスでその間トークなどで場を繋ぐというもの。
言葉だけで聞くと、何も面白くなくて盛り上がらなさそうに感じるが、これが意外と盛り上がった。
話をする人がうまいのと、実際にルービックキューブをそこそこな早さで揃えられるやつが実際には思ったよりいないのもある。
やり方次第で、盛り上げ方はいくらでもあるととても勉強になる。
こういうことは苦手で基本的にしたくないが、このような場面で自分の強みを活かせる人を見るのはとても楽しいものである。
「では、次のクラスの出し物に行きましょうか。次は……もうすでにみんなの注目を集めている三組ですね! では、おねがいしまーす!」
合図とともに最近?というか少し前から有名な何とか4○の音楽が流れるので、準備していた俺たちがみんなの前に出て本物のアイドルと同じような動きを頑張って行う。
見慣れてきたとは思うのだが、それでも回りの反応は悪くなかった。
俺自身は、こういう時にバリバリにキレ良く踊れるような人ではないので、回りから浮かない程度に立ち振る舞った。
というか、葵の制服が小さすぎてまともに動くことすら難しい。
「私のことを嫌いになってもうちのクラスのことは?>'¥※~…/㏍∮№!!」
躍り終えると、発案者のイケイケ派のリーダーがアイドルがかつて残した名言をネタに締める。
終始、みんな面白がっていたので何だかんだ決めるときから一悶着はあったものの、何とか成功に終わったような気がする。
みんなの前から退いて落ち着くと、やっと終わったと全身の力が抜ける。
「ふ、普通にまともにやるときつい……。アイドルってやっぱり体力あるんだな」
「それもあるけど、お前がそんなピッチピチの服着てるからしんどいだけやろ」
正論を友人にぶつけられてしまった。
「女子、結局何するんだろ……」
男子は女子が何をやるかは、誰一人知っている様子がない。
ステージに注目していると、ある人物達が颯爽と登場した。
「ふっふっふ!!お前達、待たせな!」
「……は?」
出てきたのは段ボールで作った安っぽい黒い羽やら角やら色々と装着して悪魔?のような格好をした古山だった。
俺は単純に目の前の光景が理解できずに、すっとんきょうな声を出したが、会場は盛り上がる。
「由奈、めっちゃ可愛い!!」
「ありがと~! ってそうじゃないっ! お前達、ちょっとこの宿泊学習で気が緩んでおるようだな!」
どんなに安っぽい即席衣装でも、人気者が着けるだけで様になっている。
見ている者達からの反応がとても良い。
「そんな弛みきったお前達に、ちょっとしたゲームをさせてやる! だらしないお前達できっちり当てられるかな~?」
そんな古山の言葉一つ一つに回りの生徒達からしっかりと大きな反応が返ってくる。
「では、今から出てくる五人に今日の食堂にあったスイーツを別にとって貰ってあるので、食べてもらう。ただ、誰か一人は辛いものが含まれてある。それが誰か見抜けるかな~?」
女子の考えた出し物の全貌が見えてきた。
これなら練習の必要もない。担任に準備を依頼さえしておけば、後は古山のように誰か進行する人と演技してもらう人だけで良い。
出てきたのは、吉澤を始めとする五人。
何となく、もうどうなるか個人的に予想が付きはじめている。
「ではでは、先生。辛いものが当たる人を間違えないように五人に配ってくださーい!」
古山の合図に合わせて、担任が吉澤達に今日の食堂のバイキングにあった小さなシュークリームを一個ずつ渡していく。
「ふむ、全員に渡ったようだな。ではお前達、しっかりと目を凝らして見るのだぞ。では実食!!」
その古山の言葉とともに五人が、シュークリームを口にする。
みんな一定のペースで食べ終えはしたのだが。
「絶対に莉乃だー!」
「吉澤さん、涙目じゃん!」
古山が主体ならこうなることは用意に想像が出来るが、まさにその通り。
吉澤が涙目で全然ごまかせていない。
辛いものとして何をいれたのかは分からないが、遠目からでもはっきりと分かるくらい涙目である。
「な、なんと! お前達、見抜くのが早いな!って……ちょっと入れすぎたかな」
「入れすぎですよ! 口の中感覚がおかしいんですけど!?」
そんな古山と吉澤のやり取りでさらに会場はどっと盛り上がった。
直前まで何の協力も得られず、意見すらまとまらなかった。
その中でこれだけ盛り上げた古山達の努力にただただ感心してしまった。
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