VOL.6
新型〇〇ウィルス感染拡大のため、当病院は不要不急の患者様の診察並びに・・・・”
東京都下、H市の郊外にあるその大学病院の玄関には、馬鹿でかい看板が掲げられてあり、普段は三か所設けられてある出入り口も、救急を除いて一か所だけしか開放されていない。
しかもその入り口にも白衣姿の看護師が二人、さながらバッキンガム宮殿の近衛兵の如く立っていて、来訪者に『受信目的』を訊ねた後、アルコールでの指頭消毒をさせ、さらに体温計で体温まで測らせるという念の入りようだ。
俺は『初診だが、咳が止まらず、喉に違和感を覚えたので来た』と、わざとらしくマスク越しに咳を何度かしてみる。
熱もなかったので(当たり前だ。病気じゃないんだからな)、ひょっとして断られるかと思ったが、割とすんなり中に入れてくれた。
ホールに入ると、意外なことに割と大勢の患者が行き来していた。
しかも、外国人が多いのには少し驚いた。
振り返ってみると、俺のすぐ後には夫婦者と思われる男女が、小さな女の子を連れて入って来たが、やはり職員に止められ、何やら早口でまくしたてているのが見えた。
一見した限りでは、どうやらラテン系らしい。
女の子は顔を真っ赤にしていて呼吸も荒く、二人はかなり焦っているようだが、職員の一人は極めて丁寧かつ冷静に対処をしているところから、どうやら言葉が分かるんだろう。
"馬さんの情報は伊達じゃないな。大金を払う価値はあった”
俺は腹の中で呟いた。
何でもこのC医科大学病院は、以前から在日外国人の患者を多く受け入れるので知られている。
患者ばかりではない。
職員にも在日外国人が少なからずいるようで、ホールの中を白衣を着て行き来する中にもそれらしい顔立ちを多く見かけた。
先ず俺は正面の総合受付で書類を書かされ・・・・と、ここら辺りの煩雑な手続きについてはどの病院も同じだから省こう。
なんだかんだあって、診察券を作り、内科へ受診をするように言われた。
総合病院はどこでもそうだが、何故こう迷路のように入り組んでいるのだろう。
ミノス王の迷宮の如き廊下をあっちこっちと歩き、ようやく内科へたどり着いた。
そこでまた体温と血圧を測らされる。
こんな時期だというのに、内科の待合は七分ほどの混みようだった。
30分かかって、診察の順番になった。
俺はありもしない症状を並べ立てて、20分ほどで『風邪だろう』ということに落ち着き、
”一週間分の解熱剤と咳止めを出しますから、それでまだ具合が悪ければもう一度来てください”と、若い、まだ研修医を終了したばかりみたいな医者は、もっともらしい顔をして俺に言った。
(医者なんていい加減なもんだな)
そう思ったが、ウソをつくのには少しばかり気が咎めた。
それから内科のコーナーを出て、道に迷った振りをしながら、病院の中を歩き回っていると、妙な場所に行き着いた。
さ
どうやら渡り廊下になっているらしいが、そこから先は鉄扉で阻まれており、
(keep out 許可のない方の立ち入りを禁止します)
と、真っ赤な字で貼り紙があって、ご丁寧なことに、制服姿の警備員が一人、足を開いて立っていた。
『ここは?』試しに訊ねてみる。
警備員は少しも表情を変えず、
『御覧の通りですよ。許可のない方はお通し出来ないんです。』
そう言って、俺を胡散臭そうな目で見た。
『なるほど、すみません。道に迷ったもんでね。薬局はどう行けば?』
警備員は相変わらず表情を崩さず、それでいて丁寧な口調で教えてくれた。
礼を言って離れようとした時だ。
俺の後から数名の男がやって来た。
先頭の一人が書類を見せると、警備員は敬礼をして、鉄扉の一部を開けると、彼等は中へと入っていった。
その中の一人は白衣姿で、しかも外国人だった。
(なるほど、ね)
俺は頭の中で、マイヤー・ハンツマンのことを思い浮かべていた。
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