第37話

シェンリアからハイフロアへと行く方法を聞いたメイユウたちは、データで送ってもらった地図を頼りに、誰も寄り付かないローフロアの奥へと来ていた。


この地下であるローフロアはかなり広く、実際に人が住む居住区や商店街以外は、廃墟となった建物ばかりだ。


当然人が寄り付かない場所であるから灯りはなく、真っ暗なため奥の奥へと進むと帰って来れないと言われている。


「なんか……幽霊でもでそうだね……」


暗いところが苦手なランレイは、メイユウの足にピッタリとくっ付きながらブルブルと震えていた。


機械猫の両目から出る光と、シェンリアから借りた小型のプロジェクターを照明代わりに進んでいくメイユウたち。


ずっと怖がっているランレイだったが、これも機械猫を飼い主に会わせるためだと、恐怖に震える体を奮い立たせていた。


頼りない照明で進んでいくと、道や周りには壊れているアンドロイドや機械ペットの姿が見える。


「なんかここ……墓場みたいだ。いや~な感じ……」


「わたしは墓場よりも酒場のほうがいいなぁ。あッ、でもハイフロアで飲酒は法律で禁止されているんだった。ちッ、帰って来るまで飲めないか」


「こんな薄気味悪いところで、よくそんな冗談が出てくるよ……」


そんな会話をしながら進んでいくと、目の前に窓のある大きな箱のようなものが見えてきた。


「あッ! ねえメイユウ。シェンリアが言っていたゴンドラリフトってあれじゃないの?」


「どうやらデマじゃなかったみたいね。まあ、あいつは仕事に関しては信用できるから、心配してなかったワケだけど」


メイユウたちはその窓の付いた大きな箱もとい、ゴンドラリフトへと近づいて行くと、その近くに制御室のようなところを発見した。


制御室に入ると埃を被ったコンソールがあり、メイユウは早速シェンリアに教えてもらっていたゴンドラリフトの起動方法を試した。


まず電源を入れてパスワードを入力し、それからコンソールにある起動キーを押す。


「動き始めたよメイユウ!」


「埃まみれだったからダメかと思ったけど。どうやらまだ制御装置は生きていたみたいね。これで安心してハイフロアへ行けるわ」


ゴンドラリフトに照明が灯り、空中に渡したロープやそれを繋ぐ柱の姿が映し出された。


メイユウたちはゴンドラリフトの中に入ると、その操作盤のボタンを押した。


すると、ゴンドラリフトの扉が閉まり、ガクンガクンと不安定ながら動き始める。


「ところでメイユウって運転できるの?」


「こういうのはね。だいたい誰でもできるようになってのよ。ほら、ボタンも青と赤と開と閉の四つしかないし」


「うん? 開と閉はわかるけど。青と赤ってなんのボタンなのさ?」


「……あんたは物書きになりたいのなら、そういうむ~かしのことも知っておいたほうがいいよ」


そして、メイユウが青いボタンを押すと、ゴンドラリフトは前進し始めた。


途中で何度もギギィという金切り声のような音を鳴らしながらも、なんの問題なく上がっていく。


「なんか話で聞いた遊園地の乗り物みたいだね。スゴイや」


ランレイは初めて乗ったゴンドラリフトに少しはしゃぎ気味だった。


窓の外から前後に左右と、外を見るためにゴンドラ内を走り回っている。


そんな中、機械猫はメイユウの傍で動かずにじっとしていた。


「ねえ、メイユウ」


「うん? なに? まさか今度遊園地へ連れていけとか言わないよね? クーロンシティに遊園地はないぞ。夢の国はホントに夢の国になっちゃったんだから」


「ゴメン、メイユウが何を言っているかわからない……」


ランレイはメイユウの返事が理解できなかったが、気にせずに言葉を続けた。


せっかくだからこの機械猫に名前をつけよう。


もうすでに飼い主がつけた名前はあるだろうが、自分たちの間だけで呼ぶものがあったほうがわかりやすくていい。


――と、メイユウへと伝える。


「ずっと機械猫じゃかわいそうだよ。あたしたちの間だけで呼ぶ、ニックネームみたいのでいいからつけよう」


「そういうってことは、もうすでに考えてるんでしょ? その機械猫のニックネーム」


「ありゃりゃ、バレてたか」


照れながらいうランレイは、その後に機械猫につけようとしていた名前を言った。


メタリックな猫だから“メタル”というのはどうか? と。


「安易だとは思うけど、いいんじゃないの。それにしてもあんた、朝起きて右手が意思を持って喋り出したら絶対にミギ―ってつけそうだね」


「……ゴメン。メイユウがなにを言っているか、ちょっとわからないよ……」


メイユウの返事に呆れているランレイだったが。


気を取り直して機械猫へメタルと呼びかけると、機械猫は嬉しそうに鳴き返した。


「やった! 反応してくれたよ!」


「どうやら気に入ってもらえたみたいだね。よかったじゃん。じゃあ、わたしたちの間では、この子はメタルでいきましょう」


メイユウは、そう言いながら傍にいたメタルを撫でるのであった。

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