第2話 2017/12/25 クリスマス閑話

 冬に入って冒険者としての活動もいくらか抑え気味にしつつ、寒さを避けて室内での作業を行っていた時のことだった。

 突然パーラが俺の部屋を訪ねてきて、何か冬に関するイベントの話を聞かせてほしいと言ってきた。


 この世界での冬の過ごし方は基本的に家に籠って寒さが過ぎるのを耐えるぐらいで、何か冬特有のイベントがあるということもない。

 近年では凍った溜池をスケートリンクにして滑ることも娯楽としてヘスニルの人間には周知となっているが、生憎今年の冬は溜池の氷は厚さが足りず、スケートリンクとしては使えないため、街の住民は冬の過ごし方に物足りなさを感じているのだそうだ。


 そんなわけで、パーラがマースやミルタなどと話し合い、何か身内だけでも楽しめる催しを考えようということになり、こうして俺の元を訪ねてきたわけだ。

 ちなみにマースとミルタはそれぞれ店の営業があるため、情報収集はもっぱらパーラの仕事だと言う。


「アンディの故郷ってなんか色々と変なところあるじゃない?冬に何かやれることもあるんじゃないかなーって」


「変とはなんだ。…まぁ無い事も無いが、どれも準備に時間か手間がかかるぞ」



 考え付くのはスキーやかまくら作りなどだが、今年は降雪量が少なく、雪そのものを使ったイベントは難しい。


「なるべくお金と手間がかかんないやつでお願い」


 これからイベントを計画しようとする人間の言葉とは思えないな。

 とはいえ、俺も思いつくのは一つしかない。


「そうなるとクリスマスぐらいか?」


「くりすます?」


 オウム返しで応えたパーラにクリスマスのことを教えていく。


「俺の故郷じゃ12月24日をクリスマスイブ、翌日の25日をクリスマスって呼んでたんだ。本来はキリスト教っていう宗教に起源がある降誕祭的なものだったんだけど、最近じゃクリスマスそのものを祝うお祭りって感じで楽しんでるらしい」


 ざっくりとした説明になるが、イエスキリストやら聖人うんぬんかんぬんとか言い出したらキリがないので、こんなもんでいいだろ。


「へぇ~、宗教関連のお祭りなんだ。じゃあこっちだとヤゼス教のお祭りみたいな感じ?」


「まぁその考えで間違いじゃない。んで、基本的にクリスマスイブは恋人同士や仲のいい友達同士で過ごして、クリスマス当日は家族で過ごすのが通例だ」


 この辺りは欧米の考え方なので、日本ではあまり気にしないが、こっちの世界はなんとなく欧米寄りにクリスマスを考えた方が似合っている気がしているので、そういう説明にした。


「…どうした、パーラ。急に鷹の目のようになったが。なんか気になったか?」


 それまで興味深そうに話を聞いていたパーラだが、この話が出た瞬間、近年稀に見る鋭い目を浮かべたのが気になった。


「ん…いや、なんでもないよ。続けて」


 なんでもない風には思えなかったが、なんとなくこれ以上追求しても答えてはくれない気がするので、説明を続ける。


 クリスマスの説明をする上で、俺の中では欠かせないものが2つある。

 一つはモミの木。

 クリスマスツリーと言えばモミの木というぐらいに有名だが、これを飾るのには諸説あるらしく、冬の間も葉が落ちることが無い事から、永遠の命を象徴しているという説が俺は好きだ。


 飾りつけなども色々と教えなくてはならないが、流石にイルミネーションは無理でも、カラフルな布や鉱石などであれば用意できそうなので、その辺りはパーラのがんばり次第だ。


 二つ目に大事なものはサンタクロースだ。

 やはりクリスマスと言えばプレゼントが欠かせない。

 特に子供の時はサンタがプレゼントを持ってきてくれると信じて、ワクワクしながら枕元に靴下を置いたものだ。


 …まぁ、サンタの正体が父親だと知った時の衝撃はとてつもないものだったが。


 そんなわけで、クリスマスをやるならモミの木を調達してきて飾りつけ、枕元に靴下を置いてサンタクロースからのプレゼントを待つ、というのをパーラに説明したのだが、どうもこのサンタクロースという存在に首を傾げざるを得ないようだ。


「うーん…。要はそのサンタクロースっていう知らない老人が家に入ってきて枕元に立つってことだよね?怖くない?」


「いや、その言い方だと確かに怖いけど、実際はなんていうか…あー…そう!サンタクロースっていう精霊がプレゼント、贈り物をくれるってことなんだよ」


 サンタクロースの起源なんぞ説明するよりも、この世界で一般人でも話には聞く精霊という存在に置き換えたのは我ながらいい判断だと思う。


「精霊がぁ~?なんで精霊が人間にプレゼントってのをくれるのさ。あれって人間に興味を持たないって言うじゃない」


 しかし、残念ながらパーラの言う通り、精霊は人間と交流を持つことがなく、ましてや贈り物をするということもまずないため、いまいち説得力がなかったようだ。


「…サンタクロースは人間にプレゼントをしたがる精霊なんだよ。そういう存在なの!」


 少し強引に押し通したが、そもそもサンタクロースが存在しないこの世界で、その精霊としての性質を追及されるのはつらい。

 ここはそういう精霊だとして無理やりにでも理解してもらおう。


 一通り説明を終えたところで、腕を組んで考え事を始めたパーラをよそに、俺は先程までしていた作業を再開した。

 春先に向けて色々と準備しておきたいものもあるので、パーラを追い出すこともせずに没頭していく。

 時折パーラから投げかけられ質問に答えつつ、この日は更けていった。









 唐突だが、この世界での暦について少し話すとしよう。

 暦自体は一般市民まで使うものとして浸透しており、一年は12ヵ月、1ヵ月はどの月も30日と決められており、つまり一年は360日で一回りしているということになる。

 閏年や一ヵ月の内の日数に偏りがない分非常に分かりやすいのが有難いのだが、月ごとの特色は薄れているように感じるのは俺だけだろうか。


 この世界では時計やカレンダーがまだ普及しておらず、今が何月何日なのかを知るにはギルドや教会などで聞くのが一般的だ。

 ギルドは依頼の管理で日付には特に厳重なのだが、教会は祭事の取り仕切りなどで独自のカレンダーらしきものを使っているらしく、どちらに聞いても正確な日付は分かる。


 さて、俺は先程ギルドで今日の日付を聞いてきたわけなのだが、今現在が12月の19日で、パーラのクリスマスの準備がどれぐらい進んでいるのか気になっており、こうしてびっくりアンディへと足を運んでいるところだった。


 あのクリスマスの話をパーラにした日の翌日にはパーラがバイクを借りてどこかへと出かけて行ったのだが、どこへ何をしに行っているのかは何故か教えてくれない。

 まぁタイミング的にクリスマス関連の何かだろうとは予想がついているし、マースとミルタと一緒に何かやるとパーラは言っていたので、彼女達にも聞いてはみたが二人とも何も知らなかった。


 ほぼ毎日バイクでとこかへと出かけていくパーラが気にはなったが、今日ついにパーラからクリスマスの準備が出来たらびっくりアンディへ来て欲しいと言われた。

 どうやらちゃんとクリスマスとしての形が出来ているのかを俺に見てほしいらしい。


 この世界で俺以外の人間が用意したクリスマスというのが少しだけ楽しみだ。

 びっくりアンディへと着いた俺は店内に入ることはせず、入り口から見て左手にある庭へと向かう。

 そこにはパーラとミルタ、マースの3人娘が既におり、楽しげに談笑している姿が目についた。


「おーいパーラ。来たぞー」


 やや遠くから声をかける俺に気付いたパーラ達がこちらを振り向き、笑顔で手を振りながら俺を呼ぶ。


「アンディ!見て見て!言われた通り飾りつけ用の木を調達してきたよ」


 はしゃぐようにして俺の手を取ったパーラに引っ張られていくと、店の影になって隠れていて見えなかったが、庭の一角に巨大な木が立っているのが見えた。


 10メートルはあろうかという大木が垂直に立つ姿は圧巻というしかないが、この庭の狭さから見るとこの木の大きさは余りにも大きすぎた。

 てっきり3メートルぐらいの木でも使うんだろうと思ったが、ちょっとしたビルぐらいはある高さの木は予想外だ。


「…いや、デカすぎだろ。なんだよ、この木。どっから持って来たんだ?」


「えへへ~、すごいでしょ~。これ、モトック村ってところの木こりから買って来たんだ。ギルドで大きな木の入手先をメルクスラさんから聞いて、わざわざバイクで取りに行ったんだよ。あの大きさだからここまで運んでくるのに何日もかかっちゃったけどね」


 誇らしげに胸を張るパーラだが、これだけの大きさの木を運ぶなら、言ってくれれば飛空艇を飛ばしたのに。


 多分パーラのことだから、そういうことも考えずに勢いでバイクで木を取りに行ったんだろう。

 しかしこうして目の前に立つ巨木を見ると、勢いでの行動も見事に完遂して見せたのだから、その気概は買おう。


 モミの木とは違うようだが、一応冬でも葉が落ちない種類を選んだらしく、青々とした葉っぱはまだまだ生命力に満ちているように思える。


「こんなもんをバイクで運ぼうって考えるなよ。…ところでここにはどうやって運び込んだんだ?街の門はまぁ通れたとして、ここって少し入り組んだ路地にあるだろ」


「あぁ、それは偶々通りがかった人が親切に助けてくれたんだよ。鬼人族の人ですっごい力持ちだった。もう、こんな太い腕で木をガッて掴んだらグォーって持ち上げちゃってさ」


 擬音だらけに身振りを交えた動きで木を持ち上げるしぐさを見せるパーラだが、その親切な鬼人族というともしかしたらオルムだろうか。

 ヘスニルでよく見かける鬼人族と言えばオルムぐらいなので、通りがかったオルムが大木を運ぼうとしている少女を見かねて手伝ったとかのストーリーを俺は考えている。


 意外というか、オルムはいかつい見た目に反して面倒見のいい男なので、そういう親切心を発揮する場面は想像しやすい。


「んで、庭まで運んでくれて、地面に掘っておいた穴に木をこうヒョイスポとやってくれたの」


「ほとんどが擬音で伝わるものはいまいち少なかったが、大体の経緯は分かった。それで、あの所々についてる布は飾りのつもりか?」


 庭に聳え立つ木の枝へと纏わりつくようにカラフルな布が飾られており、傍目には天に昇らんとする洗濯物という感じだ。


「そうよ。パーラがこの木を取りに行ってる間に、私とミルタで古着屋を周って色付きの布を安く買って来たんだから」


 3人を代表して飾りつけに使った布の出所を明かすマースだが、今にも溜息を吐きそうな様子は、それだけ布集めに走り回った時間が大変なものだったということか。


 見たところ縫製に使った余り布などがメインに使われているようだが、鮮やかな色合いの布というのはそれだけで値段が跳ね上がるもので、木の大きさに見合うだけの量の布を集めるのはさぞ骨が折れたことだろう。


「まぁクリスマスツリーはこれで用意できたし、次はサンタクロースの服だね!アンディに聞いてた通り、赤い服装もちゃんと作ってきたよ」


 そう言ってどこかへと走り去って言ったパーラが再び戻ってくると、その手には確かに赤い服があった。


「じゃーん!ほら、ちゃんと赤く染まってるでしょ」


 わざわざ効果音を自分で行ってまで俺達の前へと掲げたその服装は、少し暗めではあるが確かに赤一色のサンタ服らしさのあるものだ。

 その口ぶりからしてもしたしたらパーラ自身の手で赤く染め上げたのか?


「へぇ、少し暗いけどちゃんとした赤だな。これだけの量の赤い染料だと高くっさっ!何だこれ!すげー生臭いぞ!」


 感心してその服に触れようと近付いていくと、赤い服から漂うとてつもなく生臭い匂いに気付き、思わず手で払いのけてしまう。


「あっ!ちょっと、乱暴にしないでよ!これ作るのにどれだけの血を使ったと思ってるのさ!」


「血ぃ!?おま、血で赤く染めてんのかよ!そりゃあ臭いわけだって!」


「確かにちょっと臭いけど、でもサンタ服ってそういうものなんじゃないの?」


 キョトンとした顔で、本当に理解できないという様子のパーラだが、果たして俺の説明のどこを聞いたら鮮血に染まるサンタクロースという絵を想像できるのか。


「全然違う。サンタ服が赤いのは血で染められたからじゃない。飲料メーカーの陰ぼ…いや、この話はいいか。ともかく、なんで血なんか使おうと思ったのか順序立てて説明してくれ」


 そして、パーラの口から語られたのは、俺から聞いた説明を色々と捻じ曲がって彼女の中で理解されてしまった不幸な勘違いに関するものだった。


 そもそも赤い服を用意するだけなら値は張るが街中でも調達できる。

 しかし敢えてそれをしなかったのは、パーラなりにサンタクロースという精霊の在り方を間違って解釈していたせいだ。


 どうもパーラの中では、サンタクロースという精霊は多くの命をその身に吸収して力に換え、子供達に贈るプレゼントを作り出すという。

 その際、吸収した命への鎮魂を祈り、体に着いた血をそのままにしておくのがサンタクロースの服が赤い所以だ。


「つまり、サンタクロースの服が赤いのは、返り血のせいだったんだよ!」


『なにそれ怖い』


 まったくもって勘違いも甚だしいパーラの勘違いではあるが、マースとミルタはこの話を聞いて震えあがっているようで、二人して身を寄せ合って抱き合う姿は、いったいサンタクロースをどういう風に想像しているのか。


「そんなわけで、私はサンタクロースを忠実に再現すべく、こうして返り血で服を作ったってわけ。あ、もちろんこの血は討伐依頼で出たものを分けてもらったものだから、安心して」


 いったい何を安心しろと。

 夜な夜な人斬りをしたわけではないという言い訳だろうか。


「…なるほど、よく分かった。パーラ、とりあえずその服は処分してこい」


「なんで!?神聖なサンタクロースの再現を果たした、鮮血の鎮魂衣だよ!?」


 その背中が痒くなるネーミングはやめてくれ。


「さっきも言ったけど、サンタクロースはそういう存在じゃない。そういう血生臭いのとは違う、もっと穏やかな精霊なんだよ。だからそれを着てクリスマスってのはやめようぜ。な?」


「そうよパーラ。いくら何でもそんな酷い臭いの服を着るのは女の子として色々と終わってるわ」


「私もマースちゃんに同意。流石に血で染まった服でクリスマスっていうお祭りは楽しめないよ」


 俺の言葉にマースとミルタも乗っかり、パーラに鮮血の鎮魂衣を破棄させることを説得し始める。


 身内ともいえる3人に言われてはパーラも思い直したようで、勿体ないと呟きながらサンタ服を破棄することを決めたようだ。

 一応後でミルタにパーラがあの服を処分するのを見届けさせよう。


「んじゃあクリスマス用の赤い服は街の服屋で買って来いよ。マースとミルタも一緒に行ってやってくれ。ついでにお前らの分も買ってもいいぞ」


 落ち込み気味のパーラを元気づけさせる意味も込めて、サンタ服になりそうなものを3人に買いに行かせることとした。

 マースに金の入った小袋を投げ渡し、どうせならと女子3人をサンタクロースにしようと画策してみる。


「アンディってば太っ腹だね~。よ!デブ!」


 誰がデブだ、誰が。

 太っ腹ってそういう意味じゃないぞ、ミルタ。


「赤い染料の服って結構高いよ?まぁせっかくだから有難く好意に預からせてもらうわ」


「どうせなら普段使いも出来るのを選ぼうよ。ほらパーラ、行こ」


 女3人寄れば姦しいとは言ったものだが、生憎今のパーラは少し覇気に欠けており、その分を補うようにしてマースとミルタが騒ぎながら庭を後にした。


 残された俺は、ツリーを見上げて考えに耽る。

 確かにカラフルな布のおかげで彩りのいいツリーとなっているが、残念ながら電気によるイルミネーションがないこの世界では、日のある内にしかツリーの美しさを楽しむことはできない。

 魔道具のランプでもあれば話は違うが、あれは高価なものだし光量的にかなりの数が必要になる。

 ランプを使ったライトアップというのは流石に難しいが、一つ考え付いたことがある。


 前世ではよく見られた、夜のツリーのライトアップを頭の中で思い浮かべてみる。

 色々と用意するものと手回しもあるが、これが実現できればパーラ達はもちろん、街の人達も喜ぶことは間違いない。

 そうと決まればすぐに行動だ。

 用事が出来たということをパーラ達に告げるために、店内で暇そうにしていたローキスへと伝言を頼み、俺は大通りへと飛び出した勢いのまま駆け出していく。


 まず向かうべきはルドラマのいる居館で、そこを目指して走る俺の足はドンドンと速いものになっていった。

 走る勢いのままに冬の冷たい空気が肺に溜まるのとは対照的に、先程考え付いたことを思うと体の内側は熱くなるのを感じる。

 なんだかんだで俺もクリスマスを楽しいものにしたいという思いがあるのを改めて自覚した瞬間だった。








 クリスマス当日の夕方、びっくりアンディでクリスマスパーティをやるということで、俺とパーラは手土産を抱えて店へと足を運んだ。

 今日ばかりは夕方から店を俺達の貸し切りにし、ローキスが腕によりをかけた食事を楽しみつつ、クリスマスというお祭りを過ごそうということになっていた。


「やっと来たわね、あんた達。さあ、準備はできてるから早くいらっしゃいよ」


 入り口の扉を開けた俺達を待ち構えていたマースのそんな言葉を受け、早速俺とパーラは手を引かれてミルタとローキスが待つテーブルへと連れていかれた。


 マースもミルタもサンタ服を意識した赤い服を身に着けているが、どちらも普通の服で赤いのを選んだだけといった感じだ。

 そん中、パーラだけはしっかりと赤地に白のモコモコした生地を随所に使ったものを着ており、ちゃんとサンタクロースっぽさが出ている。


 椅子について見えるテーブルの上には既に隙間がないほどに大量の料理が並べられており、まだ湯気が出ているものもいくつか見えることから、どうやら冷めた料理で槍玉に挙げられることはないようだ。


「やあアンディ、いらっしゃい。言われた通りの料理を僕なりに再現してみたけど、どうかな?」


 ローキスが料理皿の上を撫でるように手を振り、自分が手掛けた料理の感想を俺に求めてきた。


「まだ食べてないうちから感想は言えないが、見た目は完璧だ。俺の想像とかけ離れた出来のものは無いし」


 クリスマスということで、料理の一切をローキスに任せることにし、材料と味付けぐらいしか指示していないが、飾りつけもクリスマスの雰囲気は出ているので、十分楽しめそうだ。


「あぁそうだ。これ、前に話したフライドチキンな。口に合うといいが」


「はいはーい、持ち込みはこちらでお預かりしまーす」


 テーブルの端に置いたフライドチキンが入った籠をミルタがそう言って持ち去り、厨房へと下がると皿に盛ってテーブルへと運んできた。

 ローキスが作った料理だけでも豪華なものだったが、山と盛られたフライドチキンがテーブルの中央へと鎮座すると、やはり一気にクリスマス感が出てくる。


 このフライドチキンだが、流石にこればかりはローキスに説明だけで作らせるのは難しく、俺が飛空艇で作ってここまで持ってくるということになっていた。

 途中、何度もパーラによるつまみ食いを防ぐという攻防戦が繰り広げられたが、こうして皆の前に置かれることで、ようやくパーラの恨みがましい視線から解放された。


「さて、それじゃあ全員そろったことだし、クリスマスパーティの開始の音頭をパーラに取ってもらいましょう」


 料理の布陣が完成したところでマースがそんなことを口にした。


「ええ!?私!?無理無理無理無理!そんなの何言ったらいいかわかんないって。クリスマスのことはアンディの方が詳しいんだから、アンディにそれっぽいことを言ってもらおうよ」


 両手を前に突き出して慌てるパーラだが、俺を出汁にして逃げようなんざ許さんぞ。


「いや、確かにクリスマスのことを教えたのは俺だけど、このクリスマスパーティの発案はパーラからなんだし、開会の音頭はお前がとるのがいいだろ」


 ツリーの調達から飾りつけまでやったパーラだ。

 パーティの始まりもパーラに委ねるのが筋というもの。


 パーラは周りを見渡し、マースもミルタも、ローキスすら味方してくれないとわかると、大きく肩を落として深い溜息を吐く。


「そんなぁ…。もう、わかったよ…。ん゛ん゛、えー…本日はーお日柄もよく―」


「雪降ってたけどな」


「しっ、アンディ茶化さない」


 ついつい出てしまった突っ込みはミルタに窘められてしまう。


「今日のクリスマスパーティは、皆の助けがあって開くことが出来ました。…最初は冬の間に楽しめることってのをアンディに教えてもらったのが始まりだったんだけど、やってる内に一つの目的に向かって友達と一生懸命準備するのがなんだか楽しくって」


 クリスマスパーティという一種のイベントを立ち上げて、無事に終わらせるまでのノリは、それこそ文化祭のような感じでパーラ達には新鮮だったのかもしれない。


「おいしいものを食べて、皆で楽しい時間を過ごすのはきっと今日じゃなくてもいいのかもしれない。でも、私は今日のクリスマスという日に皆と過ごしたかった。だから…えーっとなんて言えばいいのかなぁ…まぁいいや。とにかく!クリスマスという今日の日を楽しもう!皆、グラスを持って!」


 パーラに促され、テーブルの上にあったグラスにそれぞれワインや果実水を注いでいき、目の前に掲げるようにして持つ。


「…はい、じゃあ雪降る夜の喜びに乾杯!」


『乾杯!』


 俺達を見渡し、パーラが乾杯の言葉を口にし、俺達もそれに応えてグラスを飲み干した。


 パーラが乾杯の際に口にした『雪降る夜の喜び』という言葉は、ヤゼス教における、『冬の間にも天から降る雪は、春へと続く恵みとなる。とりわけ、寝静まった頃に降る雪は神からの秘められた贈り物』という教えから、敬虔なヤゼス教の信者たちがよく冬の挨拶代わりに使うものだ。


 別に敬虔な信者というわけではないパーラでも知っているぐらいに、有名な言葉だったりする。

 クリスマスがキリスト教のお祝いだと教えたことから、ヤゼス教の言葉を引用して乾杯の挨拶としたパーラはなかなかセンスがいい。


 乾杯を終え、ミルタとマースからお褒めの言葉を貰ってデレるパーラだったが、テーブルの上にあるフライドチキンに目が行くと、一気にその顔は険しいものに変わる。

 その変化を見たミルタもまた、同じような顔をし、今このテーブルの上では獰猛な肉食獣が二匹、獲物に飛び掛からんとしているようだ。


 挨拶も済んだことだし、料理に手を付けるのも特に問題はなく、早速俺達はフライドチキンへと手を伸ばす。

 欧米ではともかく、日本人はクリスマスにフライドチキンを食べるという風習がもう長い事続いているため、こっちの世界でも俺にとってのクリスマスと言えばという感じでこれを用意した。


 手に持った瞬間から漂うスパイシーな香りは、あのケ〇タッキーのブレンドスパイスを意識して多くの種類の香辛料を大量に使ったせいだ。

 一口食べて見ると、口いっぱいに広がる香辛料の香りと、鳥特有の臭みが全くない脂が感じられ、弾力の激しい肉質が噛む楽しさを教えてくれる。

 あのケンタ〇キー完璧に再現できたわけではないが、これはこれで食欲をそそるいいフライドチキンだと自負している。


「ぅぅうんまぁあっ!」


「なにこれなにこれ!すっごいおいしい!」


「うーまーいーぞー!」


 一息に齧り付いた女子3人組はそれぞれにフライドチキンの味に過剰な位に感動して唸っており、一心不乱に食べ進めている。

 あとなぜかパーラは口から風魔術でスパイシーな香りを店中にまき散らすというおかしなことをしている。

 はしたないからやめなさい。


 騒ぎながらフライドチキンを貪る3人とは対照的に、ローキスはチキンを少しづつ齧りながらブツブツを何かをつぶやいている。

 聞き耳を立てて見ると、どうやら味の分析と再現を図っているようだ。

 スパイシーなフライドチキンというのはローキスにとって衝撃的だったようで、先ほどまでのパーティを楽しむ顔とは打って変わり、料理人のそれに変わっていた。


 料理に舌鼓を打ちつつ、パーティというよりも身内での食事会といった様子で時間は過ぎ、外が暗くなった頃にパーラが俺に声をかける。


「アンディ、そろそろいいんじゃない?」


「お、そうだな。んじゃ俺とパーラは一旦いなくなるけど、少ししたら庭のツリーを見に来てくれ。きっと驚くから」


 それだけを告げてさっさと店を後にし、俺とパーラは飛空艇へと戻ることにした。


 いつの間にか雪が止んでいた空は、冬の澄んだ空気のおかげで空いっぱいの星を俺達の目に届けてくれる。

 そんな星降る夜の中、俺とパーラは小走りで大通りを駆け抜けて門へと向かった。

 夜になると街の門は閉鎖され、一般の通行はできなくなるのだが、この日に限り俺達はルドラマから夜間の通門許可を得ており、貴族用の門を少しだけ開けて出来た隙間に体をねじ込むようにして外へ出る。


 飛空艇へと戻った俺達は早速船を空へと浮かべ、ヘスニルの街中目指して船体を泳がせる。

 この市街地部分への進入も許可を得ているため、外壁を飛び越えて悠々と目的地に辿り着いた。


 今回わざわざ飛空艇をここまで飛ばしてきたのは、パーラが用意したツリーをライトアップするためだ。

 飛空艇にはかなりの光量のライトが搭載されているため、これをツリーに向けて投射すれば、夜の闇を切り裂いて天から降りそそぐ光に照らされたツリーというのを作り出すことができる。

 せっかく異世界での初クリスマスとなるのだし、これぐらいのライトアップはやっておかなくてはな。


 ちょうど飛空艇がいる位置がびっくりアンディの敷地内にある庭に生えたクリスマスツリーの辺りで、飛空艇の舳先にあるライトをツリーへと向けて点灯する。

 辺りにある明かりと言えばせいぜいがロウソク程度のものか暖炉の火ぐらいの中で、飛空艇から放たれる光はあまりにも強烈だ。


「あれ?なんかツリーもキラキラしてない?」


「あぁ、あれは俺がやったやつだ」


 突き立つように注がれる光に照らされたツリーは、パーラ達が飾り付けた布のカラフルさに加え、所々に光を反射して輝く姿が幻想的な雰囲気を醸し出している。


 実はこのキラキラと反射しているのは、秘かに俺がツリーに取り付けた金属片で、出所は街の鍛冶屋で出た鉄屑を安く買い取ってきたものだ。

 これをあのクリスマスツリーに飾り付ける銀紙飾りの代わりにしたわけだ。


 大した量を用意できなかったが、それでもこうして光の中で反射している姿を見ると、かなり綺麗な出来上がりで満足している。

 地上で見ているミルタとマースも飛び跳ねている様子がここから確認でき、サプライズの演出は成功したといっていいだろう。


 さらに、この光に照らされたツリーに惹かれて集まった街の住民が続々と集まってきているのも見えた。

 今日の夜にびっくりアンディで飛空艇を使ったツリーのライトアップが行われることを事前にルドラマが街の住民に通達しており、空を飛ぶ巨大な物体の珍しさと、そこから伸びる光の先に興味を持った住民がこうして集まってきているというわけだ。


 雪も降っていない夜の空に、光を放つ飛空艇の存在感は大きいもので、地上からかなりの人達がこちらを指さしている。

 ほどよく注目も浴びたところで、本日のメインイベントといこうか。


「んじゃパーラ、そろそろ準備してくれ」


「了解。地上のミルタ達には私が合図を送るから」


 そう言ってパーラが貨物室へと移動する。


 操縦席から貨物室の後部ハッチを開放する操作を行い、あとは飛空艇をこの位置から動かないようにだけ注意して、その時が来るのを待つ。

 暫くすると、飛空艇から地上へめがけて、何かが投下されるのが全周囲モニターに映された。


 いくつもの小さくて丸い物体がゆっくりと地上へと降りていく様は、まるで雪の様ではあるが当然ながらこれは俺達が用意したものだ。

 貨物室に一杯とまではいかないものの、それなりの量があるこれらは、パーラの風魔術によって後部ハッチから次々と飛ばされていき、落下を始めた瞬間にパラシュートが風を掴んで速度を緩めて地上を目指す。


 紙で作ったパラシュートの下に括り付けた布の包みには、俺が手作りした甘い飴がいくつか入っていて、それが地上にいるツリーを見学に来た人たちの頭上へと舞い降りていっているのだ。


 それを見ていったい何事かと警戒するのは大人たちの方で、一緒に連れてきている子供達はゆっくりと降りてくる物体に興味津々といった様子だ。

 そこへマースとミルタが地上で動き回り、詰め掛けた人達にプレゼントというものを説明していく。


 このプレゼントに関しては、ルドラマからの提案で用意したもので、住民がツリーのライトアップに集まったのなら、空から撒くようにとの要請があった。

 包んである飴を作る材料もルドラマが持ち、飛空艇を街に入れることの代価として街の人達にプレゼントを贈ることの手伝いをこうしてさせられているわけだが、落下してくるプレゼントを楽しそうに捕まえようとする姿を見ると、なんだか自分がサンタクロースになった気分だ。


 興が乗ってきたところで、飛空艇を少しだけ揺らしたりして光の加減を変えて、ツリーのライトアップに変化をもたらすと、地上で見ている人達が歓声を上げているような動きを見せる。

 手を叩いて喜んでいる人達の姿を見て、もうちょい変わった動きをしようかと思った時、操縦席に怒り狂ったパーラが殴りこんできた。


「アンディ!何してんの!」


「おぉパーラ。いや、こうやって飛空艇を揺らすと光が動いてツリーが表情を変えるんだよ。ほら、下の人達も喜んでるだろ」


「それはよかったね。でもさ、あんな風に動かれたら私が危ないんだけど!後部ハッチが開いてる状態で船体が斜めになるとか、外に放り出されるかと思ったんだから!」


「あ……。す、すまん!すっかり忘れてた!」


「もーーっ!!」


 頬を膨らませながら地団太を踏むパーラの怒りは、果たして空に放り出されそうになったことに対してなのか、それともパーラのことを忘れていたことに対してのものなのか。

 多分両方だろう。


 調子に乗ってパーラのことを忘れて派手な動きをしてしまったことは、明らかに俺が悪い。

 下手をすればパーラを死なせていたのかもしれないと思うと途轍もない罪悪感と共に、無事だったことに深く安堵の念を抱く。


「全くもう…。空中に放り出されたら戻ってくるの大変なんだからね」


 戻ってこれるのかよ。

 いや、パーラは風魔術が使えるし、前に俺をかなりの高さまで浮かび上がらせたこともあったので、もしかしたらそういうことも出来るのかもしれない。

 だからといって俺のしたことが許容されるわけでもないので、猛省しなくては。







 クリスマスは飛空艇の登場とそれによるツリーのライトアップによって、見学に訪れた人達にも好評で終わり、一夜明けると街ではクリスマスというものに関する話題でいっぱいとなっていた。

 夜に光を浴びて聳え立つツリーの美しさと、空から雪のように舞い降りるプレゼントという、説明するに言葉では足りないものを何とか相手に伝えようとする人たちがそこかしこで見られた。


 朝から街へと出かけていったパーラの後を追うように俺も街へと繰り出したわけだが、普段よりも歩いている俺に声をかけてくる人が多く、そのほとんどだクリスマスがどういうものか、次はいつやるのかというものが多かった。

 ねだられる説明の中でクリスマスが一年に一度だけだと話すと、残念そうに肩を落とす人が続出し、この分なら来年の冬には街を挙げてのイベントになっていそうな気がしている。


 キリスト教のお祝いであるクリスマスをが開かれるのはヤゼス教の信徒が多いこの世界ではどうなるかと思うが、ヤゼス教は他宗教を積極的に排斥するような色が無いため、案外教会も一緒になって祭り騒ぎを盛り上げてくれそうではある。


 今年のクリスマス自体は終わったと言えるが、まだびっくりアンディではツリーが残されているため、イルミネーションはなくともカラフルな布と金属片によるキラキラとた飾り付けを楽しむことはできる。

 それを教えると、その場にいた人達は踵を返してびっくりアンディの方へと向かって行った。


 これで通りに引き留められることもなくなり、俺もびっくりアンディの方へと足を向けたその時だった。


「アンディ!大変よ!」


 後ろから掛けられる俺を呼ぶ声に振り替えると、こちらへと走り寄ってくるマースの姿があった。


「よう、マース。昨日はお楽しみでしたね」


 もちろんクリスマスパーティのことだ。


「何わけわかんないこと言ってんの!大変なのよ。パーラが衛兵に連れていかれちゃった!」


「衛兵に?なんだよ、パーラのやつ、なんかやったのか?」


「なんかって…!まぁ、やったけど…」


 冗談で言ってみたのだが、どうやらパーラが何かやらかしたらしい。


 パーラに原因があって衛兵に連行されたとなれば、俺も真剣な態度になろうというもの。


「おいおい。一体何をやったんだよ。衛兵に連れてかれるなんてよっぽどだぞ」


「ほら、あれよ。前にパーラが作ったあの服あったじゃない?」


「服…?あぁ!鮮血の鎮魂衣な!あれがどうかしたのか?」


 間違った製法で作ったサンタ服が一体どういう関係で衛兵による連行へとつながるというのか。


「実はあれの処分を今日私とパーラでするって話だったんだけど、私が少し目を離した間にパーラがあの服に火を着けちゃって…。酷い匂いがする煙がいっぱい出てきて―」


「―火事だと駆けつけた衛兵に捕まったってわけか」


 なんというか、迂闊と言う以外ににないな。


 あのサンタ服に染み付いた血は一種類の魔物や動物のものではないため、迂闊に燃やしたらどんな煙が出るかわかったもんじゃない。

 魔物の中には血自体が人間に悪影響を与えるものもいる。

 マースの話を俺なりに解釈するなら、燃やした煙が催涙ガスのような効果でも発揮したのではないだろうか。


「まぁ大体は分かった。後は俺が何とかするから、マースは家に戻れ。宿の仕事とかあるんだろ?」


「そうだけど…。んじゃあ私は戻るけど、パーラのことお願いね」


 名残惜しそうにこちらを何度か振り返りながら去っていくマースの背中を見送り、俺はここから一番近い場所にある衛兵の詰め所へと足を向けた。


 到着した俺を出迎えたのはタッドであった。

 なんでもパーラが連行されてきたときに偶々詰め所にいたのがタッドで、知り合いということもあってそのまま身柄を拘束する手続きも自ら行ったという。


 今回パーラのしたことは犯罪行為ではなく、迷惑行為だったといこともあり、先程まで行われていた厳重注意という名のお説教も終わり、今は詰め所の中にある酔っ払いなどを保護するための小部屋へとパーラは移されているそうだ。


「今日のところはこっちでじっくり反省してもらう。明日にはちゃんと解放するから、引き取りに来てくれ」


「分かりました。ご迷惑をおかけします」


 タッドの様子から、パーラがしでかしたことが重い犯罪というわけではないということが分かり、胸をなでおろす。

 本人も悪気があったわけじゃないし、本当に不幸な行き違いだったとしか言えない。


 タッドに案内されてパーラのいる小部屋へ行くと、特にカギなどは掛けられていないのか、普通にドアを開けて入っていくタッドに続いて俺も中へと入る。

 4畳半ほどの室内では落ち込んだ様子で膝を抱えるパーラが、入室した俺達に気付いて顔を上げる。


「アンディ、来たんだ。早かったね」


「おう、マースに教えられてな。…その様子だと説教が身に染みたってとこか」


「まぁね。バカなことをして色んな人に迷惑をかけた自覚はあるよ」


 少し軽い口調で話す俺とは対照的に、重く沈んだ声のパーラは、見るからに反省しているのがよく分かる。


「とりあえず今日はこっちで泊りになる。明日には迎えに来るから」


「迷惑をかけるね。私がこんな体じゃなかったら…」


「それは言わない約束だよ、おとっつぁん―って何言わせるんだよ」


 こんな体って、どんな体のこと?

 何故異世界人のパーラがお約束の言葉を知っているのか。


「後で着替えと差し入れ持ってくるからな」


「差し入れはハンバーガーね。ポテト大盛り、肉マシマシのピクルス抜き。あと麦茶も多めで」


 差し入れという言葉が聞こえた途端、早口でハンバーガーのオーダーを口にするパーラは、目の前の様子とは少しズレたものに思えた。


「…お前、本当に反省してる?」


「してる。超してる。反省しすぎてもう一回反省してるぐらいだよ」


 とてもそうは思えない言葉を口にするパーラだが、相変わらず重く暗い顔のままなので、それ以上の追及はできなかった。


 パーラとの面会を終え、迷惑をかけたであろう衛兵の人達に一通り頭を下げて周り、パーラへの差し入れの手配と着替えを取りに詰め所を後にした。

 この後びっくりアンディに行ってローキス達にもパーラのことを話し、マースにも報告しておこうと思っている。

 クリスマスのエピローグとしてはケチのついたものになったが、これはこれで思い出深いクリスマスになったということにしよう。





 余談ではあるが、翌日にパーラを引き取りに行ったとき、タッドとパーラによる―


『もう戻ってくるなよ』


『お世話になりました。これからはまともに生きます』


 というやり取りを見せられた俺は、一体どういう反応をしたらよかったのだろうか。

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