第97話 バグ慰霊祭実行委員その2

 俺たちがバグ慰霊祭実行委員をすることが決まって数日後のこと。

 いつものように、俺達はみやことビデオチャットをしていた。


「ところで、しゅんさんからバグ慰霊祭っての聞いてるか?」


 話の途中で、ふと思い出したので聞いてみる。


しゅんからは特に聞いてませんけど。なんですか、それ?」


「えーとさ。ほんとしょうもない話なんだけど……」


 バグ慰霊祭の概要を語って聞かせる。

 俺たちが日夜バグを大量に生み出していること。

 そして、哀れにもそのバグは無残に殺されていること。

 そのバグを慰霊する祭りが必要であること。

 というのは建前で、皆でどんちゃん騒ぎしたいだけであること。


「そういう感じのお祭り」


「いかにも俊らしい発想ですね」


 くすりと笑う都は、俊さんの理解者といった風だ。

 まさか、都がこうなるとはなあ。


「いや、実は昔からの恒例行事らしいんだ。Byteが主催で」


「俊じゃないんですね。意外です」


 きょとんとした様子の都。

 まあ、俺も最初俊さん発案かと思ったくらいだし。


「で、都ちゃんも実行委員やってみたくない?俊さんも来るよ」


「うーん。行きたいんですけど……」


 なんだか悩ましげに思案する都。


「用事でもあるか?無理はしないでいいが」


「学祭と被るんですよね。サークルの出し物はないからいいんですけど……」


「無理はしないでいいけど。都ちゃん、巫女装束着てみたくない?」


 なにを思ったか、そんな事を口走るミユ。


「え。そんな本格的なんですか?」


 巫女装束という言葉に劇的に反応する都。


「着てみたんだけど、可愛いよー。実行委員は巫女装束着られるんだけどなー」


 なるほど。巫女装束で口説き落とそうという腹か。

 しかし、それくらいで-


「やります!俊に巫女装束見てもらいたいですし!」


 即答だった。愛されてるなあ、俊さん。


「なあ。ひょっとして、コスプレエッチしたいとかいう話だったりする?」


 先日のミユのアレを思い出して、もしや都もと思ったのだが。


「は、はい。そっちの方も少しは……」


 顔を赤らめながらも、否定しない。

 こっちにせよ、俊さんにせよ、なんで女性陣がコスプレエッチに積極的なんだ。


「まあいいか。じゃ、11月24日(土)は予定入れといてくれよ」


「わかりました。でも、その頃だとちょっと寒そうですね」


「ああ。防寒はちゃんとしてきたほうがいいかも。こっち寒いだろうし」


 つくなみ市は土地柄か、冬場はやたら冷えるらしい。


「それで、実行委員は何をすればいいんですか?」


「野獣の森、ってところでやるらしいんだけど。そこの施設のレンタルと、当日のプログラムと、バーベキューの買い出し……あ、これは俊さんたちにおまかせでいいか。なんでも、先生方も来るらしいから、そういうのも考えなきゃいけないらしい」


「結構やる事が多いんですね」


「ああ。というわけで、こっちに頻繁に来るのは無理だろうから、プログラムを考えるのとか、お金周り頼めると助かる」


「わかりました。それくらいならお安い御用です。サークルでも会計やってますし」


「へえ。都ならそつなくこなすだろうけど。ちなみに何部だ?」


「電子工作サークルですよ」


「なるほど。納得だ」


 初顔合わせの時に、電子工作トークをしていたのを思い出す。


「あー、でも、楽しみになってきました。俊の前で巫女装束を着て……」


 一体何を想像してらっしゃるのか、この人は。

 ま、いいか。


「とにかく、当日はよろしく頼むな」


「はい、ではまた」


 そうして、ビデオチャットは終わった。


「なんだか、都ちゃん、すっかり先輩にぞっこんだね」


 なんだか微笑ましそうな表情をしてそんなことを言うミユ。


「恋は人を変えるとは言うけど。しかし、俊さんはどんな風に接してるんだろうな」


「色々、甘い言葉を囁いてるみたい」


 どこかげんなりした様子だ。


「あー、そう言えば、お前は都から猥談よく聞かされてるもんな」


「うん。ほんと、都ちゃん、赤裸々に語るから、恥ずかしい……」


「聞いてみたいような、聞いてみたくないような……」


 聞いたら、落ち着いた俊さんのイメージが崩れそうだ。


「ほんっと俊先輩、情熱的みたい。リュウ君は聞かない方がいいかも」


「そ、そんなにか」


 あの二人の二人きりの様子が気になる夜だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る