第66話 幼馴染が肉食系をやめた件について

 しゅんさんにわからなかったところを教えてもらい、すっきりとして家に帰った俺だが、先程からどうもミユの様子がおかしい。


「なあ、ミユ。シャワー浴びて来たらどうだ?」

「う、うん。そうするね」


 とこんな具合に妙に挙動不審なのだ。ひょっとして、先程、俊さんと問答をしているときに置いてけぼりにしたのを拗ねているのだろうか。


(いや、ミユに限ってそれはないだろう)


 しかし、だったら一体何なのだろう。そんな事を考えていると、何やら物音がする。どうやら、ミユが出てきたようだ。って、は?


「なんでタオル1枚なんだ?」

「う、うん。最近、暑いし、ちょっと薄くてもいいかなって」


 いやいや、それは無理があり過ぎる言い訳だろ。というか、目を逸しているのが嘘をついている事を物語っている。


「リュ、リュウ君も入ってきたら?」

「あ、ああ」


 勢いに押されるようにして、俺も浴室に入ってシャワーをさっと浴びる。その中で考えていたのは、ミユの妙な態度だ。落ち着きがないというかそわそわとしているというか。


 と、そこまで考えて、ミユが毎日のように迫ってきていた一時期を思い出す。最近は、そういう事はなくなっていたが、まさか、な。それに、あの時だったら、もっと堂々と迫ってきていたはずだ。


 考えども答えは出ないので、さっさと浴室を出る。


 そして、部屋に戻ると、そこにはタオル一枚で、こちらに背を向けて横たわるミユの姿。ここまで来るとさすがに疑いようがない。


「なあ、ひょっとして、エッチな事したかったりするのか?」

「な、なんのことかな?」

「ここまで露骨な態度見せておいて、シラを切るか」

「……本当の事を言っても、軽蔑けいべつしない?」

「今更、軽蔑するわけないだろ。もう何年の付き合いだと思ってるんだ」


 おっかなびっくりといった様子のミユを見て、苦笑してしまう。


「そのね。さっき、帰る途中、リュウ君の顔を見てたら、かっこいいなあ、って思って、そうしたら、その、む、むらむら、して来て。それに、帰省中は一度もしてなかったし……」


 茹で上がりそうな程顔を赤くして、真相を告白するミユだが、そんな様を見せつけられたら、軽蔑どころか、むしろ襲いたくなってくる。


「で、そんなことをしていると。ミユが自慰行為してるの、初めて見たな」

「お、女の子だって、そういうのは普通にするよ」


 堂々と俺に迫ってきていたミユは一向に戻ってくる様子はないようだった。


「そんな可愛い姿見せられたら、俺の方がムラムラしてくるんだが」

「え、リュウ君も?」


 振り向いたミユは、はだけたバスタオル一枚で、非常に扇情的だ。


「そりゃな。帰省中はそんな事する状態じゃなかったし、まあ、溜まる」

「溜まる、とか生々しい事言わないでよう」

「どう言えば良いんだよ」


 ほんと、こんな姿を見せられたら、襲ってしまいたくなるが、もうちょっと話を聞くまで我慢だ。ミユはきっと早く襲ってくれないかなと期待してるんだろうけど。


「そのさ。もう襲ってしまいたいんだけどさ」

「う、うん。いつでもどうぞ」

「その前に一つ聞きたいんだが。以前はお前、もっとがんがん迫ってきてただろ」

「それは、前に言ったように、みやこちゃんの話を聞いて……」

「あれから結構経ってるけど、そこまで衝撃だったのか?」

「う。それもあるんだけど、やっぱり、私からより、リュウ君から抱いてもらえた方がドキドキして嬉しいし……もう、とにかく、肉食系は止めたの!」


 無理やり本音を白状させている内に何か変な性癖が目覚めた気がするが、きっと気のせいだろう。


「じゃあ、遠慮なく頂くからな」

「う、うん。食べちゃってください」


 冗談めいた言い回しにも、そんな風に返してくるミユは可愛らしくて、そのまま身体を近づけて、唇を奪う。


◇◆◇◆


「ああ。なんで、さっきはあんなになっちゃったんだろ」


 行為の後には、ジタバタとベッドでもがくミユの姿。


「凄く可愛かったけど」

「違うの!いやその、エッチはしたかったけど、あんなのじゃないの!」

「さいですか」


 確かに、いつもと様子が少し違う気がしたが、女の子にも色々あるんだろう。


「ひょっとして、賢者タイムって奴か?」

「そんな言葉使わないでよー」

「女性もなるって聞いたことがあるから、ひょっとしてと思ったんだが」


 まさか本当だったとは。


「もういいでしょ?これ以上は恥ずかしいから、答えないからね!」


 ぷいと、俺に背を向けて寝てしまうミユ。狸寝入りなのが丸わかりだが。


 あまりにもわかりやすいので苦笑してしまう。


(ま、いいか)


 こうやって、ミユの可愛い姿を毎日眺められるのも、同棲しているからこそだな、なんて思いながら、眠りについたのだった。

 

 

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