神話製造器
小倉蛇
クトゥルー神話の定義
家にいる時間が増えたので《クトゥルー神話》についてでも書こうと思います。
ブログなど他の場所で書いた内容と重複する部分も多いですが、新しい視点も入っていますので、よかったら読んでみてください。
まずはクトゥルー神話とはそもそも何なのかという〈定義〉からはじめます。
しかし、小説のジャンルやサブ・ジャンルを定義するのは難しい。プロの評論家の人でも定義についてはあまり語らなかったりもする。ある程度でも流行っているジャンルなら、多くの作家が好き勝手に作品を書いてるわけで、定義など決めようがないという状況になるのもわかります。
ですが私が思うに、ジャンルの定義の仕方には二種類ある。
一つは、ジャンルの境界線を確定するという方法。これは、個々の作品が境界線の内か外かを決める、つまり白黒をはっきりさせようという考え方ですね。
もう一つは、ジャンルの中心を指示するという方法。これは白か黒かではなく、全体をグレーゾーンとして、その最も黒に近いのはどこかを問うというものです。こちらの方法ならば、比較的簡単にできそうな気がします。
ただ、「このジャンルの中心はここだ」と言っても、それは個人的なイメージとしてしか語れないという問題はあります。だから定義といったところでそれは個人的なものとしか言えません。
しかし、たとえそれが個人的なイメージによる定義だとしても、大勢の意見が集まれば、その均衡点も見えてくるのではないでしょうか。言わば、集合知形成のための前段です。
というわけで、以下、自分なりのイメージによる定義を書いてみたいと思います。
私が考えるクトゥルー神話の定義を、できるだけシンプルに表現すれば
魔道書の記述の実現
と、なります。
これだけだと何だかわかりづらいと思いますが、要するに
「『ネクロノミコン』に書かれていたことは本当だった!」
というような驚きを軸に構成された作品ということです。
もちろん『ネクロノミコン』は他の魔道書に置き換えてもいいですし、何なら書物でなくても〈夢〉や〈伝承〉や〈芸術作品〉でもいいです。
さらには、ラヴクラフト以降の作家であれば「ラヴクラフトの小説は本当だった」という形にもできます。
つまり《幻想の実現》(実在しないはずのものが実在した)というパターンです。
じっさいの作品では、やはりラヴクラフトの「クトゥルーの呼び声」がこのイメージによく当てはまります。
「クトゥルーの呼び声」では『ネクロノミコン』への言及もありますが、それは寄り道的なものです。《幻想》として提示されるのは、まず芸術家志望の青年が夢をもとに作ったという粘土板と、ブードゥー教らしき狂信者たちの信仰の対象。それが、お互い接点がないのに一致しているという謎があり(ここはちょっとユング的、このことも書きたい)、その信仰の対象というのがつまりはクトゥルーで、それが実在したという驚異がクライマックスになっています。
ただ《幻想の実現》がクトゥルー神話の基本と考えるとしても、それだけでは『エディプス王』や『マクベス』のような《予言の実現》を描いた古典作品や、新しいものではJホラーでよくある口裂け女などの都市伝説が実在したというパターンも入ってきます。そうするとクトゥルー神話らしさは薄まってしまう。そこで定義としては《魔道書の記述の実現》としたいわけです。
ではその《魔道書》とは何か、をもう少し補足しておきたいと思います。
その原点『ネクロノミコン』は架空の書物で、何が書かれてるのかはっきりとはわかりませんが、〈ラヴクラフトにとっての幻想の歴史〉といったものだと思います。言いかえれば《ラヴクラフト的幻想》が形になったものが『ネクロノミコン』である、ということです。
そして他の作家による創作の《魔道書》や〈夢〉〈伝承〉〈芸術作品〉などが、クトゥルー神話的か否かは、この《ラヴクラフト的幻想》とうまく接続できるか、適合するか、といったことが問われるべきなのだと思います。
だとすれば《ラヴクラフト的幻想》の中身はどんなものなのか。
それは、とにかくラヴクラフトの小説をひたすら読むということで理解できるものだと言えるのではないでしょうか。
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