第273話 そよぎ

商店街から少し離れた場所にある小さな喫茶店に入ると、私の呼び出した人物はもうカウンター席に座って私のことを待っていた。


「悪かったわね。急にこんなところに呼んだりして」


入ってすぐに、一旦厨房に入ってエコバックを置いてからその人、浜辺葉幸に声をかけた。


「大丈夫。でもまさか折木さんの家に呼ばれるとは思ってなかったかな」


「私も呼ぶつもりはなかったわ」


この喫茶店「そよぎ」は、私の母親が経営する喫茶店でこの上の2階には生活スペースもある。


そんな場所に浜辺を呼んだのは他でもなく、借りを返すためだ。


「別にお礼なんていいのに」


「お礼じゃない。借りを返すだけ」


「同じことでしょ……」


こいつはこういっているが、私の為にかなり時間をさかせてしまったし、友達同士ならまだしもライバル同士での貸し借りは私自信が許せない。


そんな訳で、借りを返すに当たって何をすればいいか考えた時にこいつと勉強の合間にした話を思い出したのだ。


詳しくはこいつがあまりに熱く語るものだからよく聞いていなかったが、おおよそ「甘い食べ物いいよね!」みたいな話だった。


そんな訳で今日は、こいつに好きなものを何か作ってあげようと思った訳だが……


(ニコニコ)


見られている。

思いっきり、ママが柱の影から私の方をガン見している。


(やりずらい……)


様子を見る限り、今のところ何かしてきそうな様子はないものの何か嫌な予感はする。


(ひとまずは、借りを返すことが先ね)



しかしこの後、私はそんな不安要素を放置したことを後悔する事になるのだった……

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