第122話 受け止めきれない現実の数々

「ほ、宝田?大丈夫…?」


休憩時間終了ぎりぎりで隣の席に戻ってきた宝田はやけに元気がないように見えた。


「だ、大丈夫です……」


「いや、とても大丈夫に見えないけど?」


少しの間、行って戻ってきただけなのにさっきまでとは大違いの変わりようだ。


「もしかして、誰かに何か言われたとか?」


宝田は人気者だ。でもみんながみんな好いているわけじゃないだろうし、1部の人間から嫌がらせを受けていることも考えられなくもない。


「そう、ですね……

とても私には受け止めきれない現実の数々を突きつけられました……」


なるほど……なら、話は簡単だ。

宝田は、宝田の努力も知らないやつに適当な事を言われただけなんだろうし。僕が自信をつけさせてやれればそれで問題解決だ。


「大丈夫、宝田は頑張ってるよ」


「へっ?」


「他の人は知らなくても、僕はちゃんと見てたから知ってる」


「え!?それって……

は、葉幸くんは私の気持ちを──」


宝田は、少し潤んだ瞳で僕を上目遣いに見てくる。


「──だから、宝田は自信をもってピアノを弾けばいいと思う。何も見てない他の人達を、驚かせてあげたらいいと思う」


「あれ?」


僕のできる限りのアドバイスを言ったつもりだったのに、帰ってきたのは予想外にも「あれ?」という疑問形の一言だった。


「もしかして、ピアノの事で何か言われたとかと、勘違いしてませんか…?」


「えっと、そのつもりだったけど……」


あれ?勘違い?

どこに間違える要素があった……?


よく考えて見たものの答えは出てこない。


一方で、宝田は元気を取り戻したのか、隣でくすくすと笑っている。


『次の、花陽高校2年C組の皆さん準備お願いします』


「さぁ、行きますよ葉幸くん!」


アナウンスを聞いた宝田は勢いよく立ち上がると、僕の手をとって楽しそうにステージ裏の準備室へ向かうのだった

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