第13話 ボアっとしていてはいけません

 「だからザラ、君は連れて行けないんだってば」


 今日一日ザラとまったり過ごそうと思っていたマイゼンドだったが、家にあった食料をぺろりとザラは食べてしまったのだ。どこにそんなに入るのだと驚いたが、昨日お願いした一角兎の燻製を取りに行こうと思った。

 ザラのエサとしてもそうだが、自分自身が食べる物もなくなったのだ。


 ザラを置いて出掛けようとすると、ズボンの裾にかぶりついて放さない。ぺりっと剥しても、まるで連れて行けと言っているように服にかぶりつく。


 「あのね、シャーフさんに見つかったら殺されちゃうんだよ!」


 言葉はわかっているような気がするのでそう説明すると、ザラは鞄にかぶりついた。


 「え……ここに入れて連れて行けって事?」


 ザラは、体より少し青っぽい瞳でジーッとマイゼンドを見ている。まるでそうだと言わんばかりに――マイゼンドはそう捉えた。


 「ぜ、絶対に鞄から出たらダメだからね!」


 マイゼンドも実は、一緒に居たかったのだ。こうして、こっそりとザラを連れて行く事にする。



 「お、おはようございます」


 「おはよう。早いな。燻製はもう少し待ってくれ」


 「あ、はい」


 「どうした?」


 マイゼンドは、何でもないとぶんぶんと首を横に振った。

 モンスターを連れていると思うと、挙動不審な行動をとってしまうマイゼンド。


 「あの、ボアを狩ろうかな」


 「あぁ。頼むな。そう言えばさ、昨日、お前を見たという奴がいたんだ。叫び声が聞こえたから見に行ったら一角兎相手に鎖鎌を振り回していたって」


 「え?」


 「それ、ボアにはするなよ」


 「はい……」


 忠告だった。シャーフには、何をしていたかわかったのだ。ボアは一体ずつ倒せという事だった。


 クエストを引き受け、冒険者協会の建物を出てホッと安堵する。

 マイゼンドは、鎖鎌を手にウキウキと森へと向かった。



 ザク!


 鎖鎌が、ボアにクリティカルヒットした。


 「なんというか、一直線に向かって来てどけないから命中率100%なんだけど……」


 逆に楽しくないと思った。いや楽しんでやるものでもないが、これならいっぺんに倒しても大丈夫ではないかなと、ちょっと思ったマイゼンドは試す事にする。


 「だ~!! ボア~」


 大声で叫ぶ。何となくすっきりした。


 ガサガサガサ。


 早速ボアが2体現れた。右側と前方だ。一角兎の時の様にスライドして鎖鎌を振った。


 ザクッと一体に突き刺ささってしまって、慌ててもう一度振り回す。

 胴体にぶつかると刺さってしまうようだ。一角兎の様にはいかなかった。

 倒した2体のボアを回収しに向かうマイゼンドは、ふと違和感で振り返る。変な所はない。ボアを置いてあった場所に血の跡があるだけだ。


 「あれ? ボアはどこいった? 生きていたの?」


 そう思って目を凝らしてよく見ると、赤く染まったザラが居た!


 「あ~~!!」


 いつの間にか鞄から這い出て、ボアを食べてしまっていた!

 一角兎ならまだわかるが、ボアをあっという間にあの小さな体のザラが骨ごと食べたのだ。


 「な、な……」


 何してるのと言いたいが、パニックになっているマイゼンドは言葉が出てこない。


 ガサガサガサ。


 また大声につられて、ボアが出現した。


 「え? あ……」


 今度は3体だ。なぜ集まったと思ったマイゼンドだが、驚きで声を上げたからだと気づいた。


 直進してくるボアに、鎖鎌を振り上げ飛ばす。ボアの場合は、横からより前からの方が、刺さらないので連続攻撃しやすい。だが気を付けないと惰性で突っ込んで来る。


 「ふう。ビックリした。あ……」


 倒したボアの1体にザラが近づこうとしていた。


 「ダメ!」


 走ってザラを掴まえる。


 ガサガサガサ。


 叫んだからまたボアが現れたかと思うい振り返るが違った。冒険者だ。慌てて鞄の中にザラを隠す。


 「お前、凄いな。ボアも昨日と同じ方法で狩ってんの?」


 昨日マイゼンドを見かけたという冒険者だった。年齢は、マイゼンドより少し上に見える。


 「え、いや。えーと……」


 マイゼンドには、そんなつもりはなかったので、返答に困る。


 「あ、ごめん。狩りの邪魔したね」


 と、マイゼンドの後ろを指さした。振り返るとボアが突進して来ていた。慌てて、鎖鎌を投げつける。


 「すげえな。鎖鎌使っているやつ初めて見たよ。★いくつ?」


 「え? ★? ……いえまだ」


 「え? それでボアをまとめて倒してるのかよ……」


 この街で狩りをしていてもレベルはあまり上がらない。同じ敵でもレベルが低いからだ。だが、★はクエストをこなした数だ。


 「ふーん。もしかして俺みたいな感じ?」


 「え? 俺みたいって?」


 「俺、モンスター退治するつもりあまりないんだよね。家が貧乏でさ。ただで力を授かれるっていうからなった。で、だらだら一角兎とボアで食いつないでいる。一年経っちゃって、アパート追い出されたけどな」


 「………」


 「あ、また来た」


 「え?」


 ボアがまた現れた。


 「で、これくれない? 今度借り返すからさ」


 「え?」


 ボアに鎖鎌を投げると同時に男がそう言った。そして倒したボアを一体持って行く。


 「え~~!! ちょっと!」


 ボアを抱え、逃げ去った!


 「うそ……いいっていってないよね?」


 唖然とするマイゼンドがハッとしてまた叫ぶ。


 「だめだってばぁ!」


 気がつけばまた、ザラが鞄から脱走していたのだった。

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