第716話 旅の終わり
――年が明けた。
ここまで必死にお皿作りを続けた反動か、ここ二週間ほどは何もせずにダラダラしていたところ、気が付いたらさっくりと年が明けてしまった。
遠く離れたメイユ村では、無事に新春パン祭りが開かれたようで、ナナさんからDメールにて『今年も大盛況で幕を閉じました』――との知らせを受けた。
その様子を見られなかったのは残念だけど、みんなが喜んでくれたのならば、僕も頑張った甲斐があるというものだ。
そしてパン祭りが終わったということは、もうすぐジスレアさんもラフトの町に戻ってくるだろう。そうなると、いよいよ――
「そう。アレクの旅も終わりなのね」
「そうですねぇ。長かった旅も、いよいよ終わりに近づいています」
今日は教会の応接室にて、のんびりエルザちゃんと語らっていた。別れの挨拶である。
「別れの挨拶……うん? いや、でもまだ別れには早いですかね。まだもうちょっと町にいるはずですから」
まだジスレアさんも戻ってきていないし、正確な出発日時も決まっていない。それらが決まった後で、改めて挨拶させていただこう。
というわけで、この旅の間に教会に来るのは、あと残り一回か二回か。そう思うと、やっぱり
「思えば旅の間は、
「そうね、二週間に一度は必ず教会に現れて、その度に鑑定して……特にレベル45に到達するあたりはすごかったわね。もう毎日やってきたもの」
「ええまぁ、その節はご迷惑を……」
「それはいいのだけれど――というか、逆に今はまったく鑑定をしていないわよね? 二週間に一度の訪問ペースは変わらないものの、鑑定の方はまったくしていないわ」
「あー、そうですねぇ。そうなんですよねぇ……」
実はそうなのだ。前回のチートルーレット以降、僕は鑑定をしていない。
レベル45でチートルーレットのために天界へ向かったのだが、そこで十ヶ月ほど滞在したこともあり、おそらく僕のレベルは上がっているはずで――そうなると下界に戻ってすぐの鑑定は話がややこしくなると考え、それで鑑定を自重していたのだ。
「まぁアレクからすると鑑定なんていうのは建前で、本音は私とお喋りしたいだけで、膝小僧を
「いやいやいや……」
いや、まぁ半分はあっている。お喋りしたいだけなのは認めよう。認めざるをえない。だがしかし、膝小僧を突かれたいだけというのはどうなのか。果たして認めていいものなのか。
「一応今の建前は、教会の創造神像の見物ということになっておりますが」
「建前と自分で言ってしまっているじゃない」
僕としては鑑定代を支払うことができないのが問題だったので、代わりの手段を探し求め、ようやくたどり着いたのが教会の創造神像の見物料であった。
懐かしいね。エルザちゃんと出会う前も、同じ理由で教会に通っていた気がする。毎日教会の創造神像を眺めに来る、半ズボンを履いた仮面の変態扱いをされていた記憶がある。
……うん、あんまり懐かしがるようなものでもなかったな。一周回って、ひどいレッテルを再び貼り付けられてしまった。
「というか、僕もそろそろ鑑定したい気持ちはあるのですが……」
もう半年近く鑑定していないしな。普通に鑑定したい。普通に気になる。
天界での十ヶ月があって、下界での半年があって、おそらくレベルも3つくらい上がっているんじゃないかな? きっと『素早さ』も3つくらい上がっていて、『素早さ』が二桁に到達していると予想できる。
「久々に鑑定する?」
「んー……いや、でもやめておきましょう」
「そう? まぁ無理に勧めるつもりもないけれど」
「たぶん今鑑定したら、ちょっと面倒なことになりそうなのですよね……」
「面倒なこと……?」
もう旅も終わりで、帰還に向けて話が進んでいるというのに、ここで鑑定したら、また余計に話数を稼いでしまいそうな気がして……。
いや、まぁ悪いことではないのだけれど……。それはむしろ望むところではあるのだけれど……。
「やはり今は時期が悪いので、鑑定は故郷のメイユ村に帰ってからにしようと思います」
「そうなのね。――それで、出発はいつになるのかしら」
「それもまだ未定ですね。ジスレアさんが戻ってきてから、掟のこととか出発日のこととかパーティメンバーのこととか、いろいろ相談する予定です」
「ふーん? 確か掟の達成が――二週間後だったかしら?」
「そうです。二週間経てば、めでたく掟達成です」
二週間だ。なんだかんだであと二週間。
ここまで長かった。あまりにもつらく険しい試練の旅路であった。しかしそんな旅も、ようやく残り二週間まで漕ぎ着けた。
「そう考えると、もういつ出発してもいいんですけどね。この町からメイユ村まで二週間程度掛かりますから、たどり着く頃にはちょうど掟達成です」
だからまぁ、いろいろと悩みどころではある。掟達成までの二週間をどう過ごすか、そこが難しい。そこが問題なのだけど――
「――その間に僕が死んだら掟失敗ですね」
「……唐突に、とんでもなく縁起の悪いことを言い出すわね」
確かにあんまり気分の良い話ではないが、ふと思い付いてしまったのだ。
もしも僕の身になんらかの災難が降り掛かって、命を落としたら――おそらくナナさんが蘇生薬で僕を復活させてくれることだろう。
そして僕は――メイユ村へデスルーラすることになる。その時点で掟失敗である。なんかピタゴ◯スイッチ的に掟失敗だ。
「残り二週間ですからねぇ。ここは万全を期して、安全な町の中で二週間待機という選択肢も考えられるわけですが――――あ、でもどうなんでしょう。たとえ死んでもメイユ村に戻るのが二週間後なら、掟達成になるんでしょうか?」
「死んだら失敗でしょ……」
「ふむ」
まぁそうか。それもそうかな。ナナさんに連絡して、もしものときは掟達成の期日まで蘇生を待ってもらおうかと考えたのだけど、旅の途中で死んだら普通に失敗だわな。
「なんだかすごい覚悟ね。まるで死を恐れず、それよりも掟を優先しているような……。エルフの掟とは、そこまでのものなのね。たとえ死んでも掟を達成したいと、そういうことなのね…………」
「ええまぁ……」
確かに『死んでも達成したい』的なことを考えたような気もする。
とはいえ、そんな覚悟とかの話ではなく、なんかちょっとだけニュアンスが違ったような気がしないでもないが。
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