第432話 薬草採取の依頼


 クリスティーナさんとイチャイチャしているところを、ジスレアさんとスカーレットさんに見られてしまった!


 ……うむ。あんまりよろしくない場面を見られてしまった。

 もしもこれが僕の幼馴染なら、きっとブチ切れていたことだろう。ちょっと目を離した隙に女性をひっかけてイチャイチャしている僕がいたら、それはそれはブチ切れる。


 はて、ジスレアさんとスカーレットさんの場合はどうなのだろう。

 勝手な言い分ではあるけれど、なんとも思われていなかったら、それはそれでちょっと悲しくもあり、やっぱり少しは何かしらの感情を覚えていてほしいかなって……あ、うん、もちろん某幼馴染ほどの激情を見せてほしいとか、そこまでは言っていないけど。


 そんなわけで、こっそり二人の様子をうかがってみるが――

 ジスレアさんの方は、ちょっと呆れている感じだろうか。そしてスカーレットさんの方はというと……あんまり気にしていないのか、こちらを見つつも、何やら普通にご飯とか食べている。


「――で、最後に『更新日』だな」


「え? あ、はい」


 どうやら僕らを見ている二人にクリスティーナさんは気付いていないようで、そのままギルドカードの説明を続けるつもりらしい。そして二人の方も、じっと僕達の様子をうかがっている……。

 うぅむ。なんだか少し不思議な状況になってきたな……。


「更新日はそのままだな。ギルドカードを更新した日って意味だ。『何日前』って感じで表示される」


 クリスティーナさんの説明を聞きながら、自分のカードに視線を落とす。

 ふむ。僕のカードには『0日前』って書かれているね。


「その更新というのは、ギルドでやればいいんですか?」


「その場でできるぞ?」


「その場?」


「カードに魔力を流せば、更新される」


「なんと!」


 そうなのか、それはすごい……。

 このカード自体が魔道具みたいなものなんだな。さすがだ。さすがは創造神ディースさんが設計したカードなだけのことはある。


「なるほどなるほど、自分で更新して……うん?」


「どうかしたか?」


「よくよく考えると、この更新日のらんはなんなのでしょう? 更新するまで、ずっと『0日前』なのですか?」


 更新しなければカードに変化も表れないのだから、ずっと『0日前』と表示されてしまう。……というか、更新したらしたで、やっぱり『0日前』と表示される。

 つまり『0日前』からずっと変わらない? それだと、この欄の意味がなくなってしまうような……。


「そこだけは勝手に変わっていくな。更新してから一日経ったら『1日前』、二日経ったら『2日前』って、自動で変わっていく」


「はえー」


 そういう仕組みになっているのか……。すごいなぁギルドカード。


 まぁそれなら全項目が自動で更新されればいいのにって思わなくもないけど……それはちょっと厳しいのかな?

 どうやら与えられた魔力を消費して更新しているようだし、全項目のリアルタイム更新なんて、きっとすぐに魔力切れを起こしてしまうのだろう。


「よし。これでギルドカードの説明は終わったな」


「はい。ありがとうございました」


「んじゃ次に、ギルドの使い方も簡単に説明しておくわ」


「あぁはい。ありがとうございます」


 とてもありがたい。ありがとうクリスティーナさん。

 いやはや、クリスティーナさんは本当に親切だ。ここまで親切にしてくれるとなると、やはりお茶一杯奢っただけでは釣り合いが取れていないような気がするのだが……。


「んで、ギルドだが――とりあえずモンスターの素材なんかを集めたら、あっちで納品できる」


「ほうほう。別室なんですね」


 冒険者ギルドは、入ってすぐ食堂兼待合室の大きなホールという構造になっているのだが、納品する場所だけは部屋が分かれているらしい。


「やっぱりそれはな。普通に飯とか食ってる奴もいるんだから、そんな中で魔物の肉やら皮やら内臓やらを取り出すのもよくねぇだろ」


「それは確かに」


 ふむふむ。配慮されている。それで別室なわけね。


「その納品ですが、魔物はなんでもよかったりするんですか?」


「そうだな。あんまり納品拒否されることもないと思う。ちなみに、自分でちゃんと解体してから納品した方が、報酬は高くなるぞ?」


「ほうほう」


「んで、そっちの方がギルドポイントも多く貰える」


「なるほど」


 ちゃんと解体まで済ませた方が、より冒険者らしいとか、そういう評価基準なのかな?


「とりあえずはそれくらいか。あとは、さっきみたいに食堂を使ったり、受付でパーティを登録したりで――今アレクがギルドでできることは、それくらいだな」


「……ん? あれ? 依頼の受注とかはどうしたらいいんですか?」


「依頼?」


「依頼ですよ。よくあるのだと、掲示板に依頼書が――あ、あった」


 アニメやラノベでは、そういうシステムだった。そう思ってギルド内を見回してみると――やはり存在した。

 壁に掲示板が備え付けられており、何か書かれた紙がペタペタと貼られている。


「あれですよ。あれは依頼書じゃないですか?」


「詳しいなアレク。まぁそうだな、依頼書だな」


「あの紙に、依頼が書かれているんですよね? そう、例えば――薬草採取の依頼とか」


「薬草採取?」


「『薬草が欲しいので採ってきてほしい』とか、そういう依頼が書かれた紙が――」


「ないぞ?」


「え?」


 ない? ないとは? ないってのは、何?

 ……ちょっと意味がわからない。『求む、薬草』的な依頼書があって、それを剥がして受付に持っていけば、依頼を受注できるんじゃないの?


「えっと、どういうことでしょう? 依頼がないとは? 僕は薬草採取の依頼を達成することを目標に、ここまで来たと言っても過言ではないのですが」


「なんだその目標……」


「旅に出ることが決まって、まず考えたのが、ギルドで薬草を採取することでした」


「なんでだ……」


 ギルドで薬草採取の依頼を受けて、ちみちみと冒険者ランクを上げる。――そういう目標があったからこそ、僕は魔界ではなく、人界を旅の行き先に決めた経緯があるのだ。

 その薬草採取の依頼がないとは、いったいどういうことなのか。


「ひたすら薬草採取の依頼を受け続け、それで最終的にはSランク冒険者になりたかったのですが……」


「無理だろ……」





 next chapter:大ネズミの皮の納品依頼

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