第387話 ダンジョン会議5


「よかったら、ナナさんにどれかプレゼントするけど?」


 僕が丹精込めて作った仮面シリーズ、欲しい物があるなら遠慮なく言ってくれるといい。


「プレゼントですか……?」


「どうかな? このワールドなヒーローっぽいシャーマンの仮面とか」


 全長一メートルを超えるマッドなマンの仮面。よくよく考えたら、さすがにこの仮面は旅で使うこともないだろう。なのでナナさんにプレゼントしても構わない。


「それを貰ってどうしろというのですか……」


「壁とかに飾ったらどうだろう」


 おそらく異国情緒あふれる部屋になるんじゃないだろうか。知らんけど。


「いらないですよ……。すでに私の部屋の壁には人界のペナントが貼られているのですよ? これ以上私の部屋をよくわからないものにしないでください」


「ふむ……」


 なんだかんだ文句を言いつつもペナントは飾ってくれたわけで、強く勧めたらこの仮面も飾ってくれるんじゃないかなって、そんなことを思わないでもないけれど……。


「それなら――こっちにする?」


「それは……」


かぎを拾うと、襲ってくる仮面」


「みんなのトラウマじゃないですか……」


 世界一有名な配管工兄弟が襲われるとこを見て、トラウマになった人も大勢いるだろう。とりあえずそんな仮面だ。


 ……僕もちょっと怖いので、ナナさんが貰ってくれると助かる。

 壁に飾るのならば、ある意味これ以上ないくらいにぴったりの代物だと思う。……さすがにちょっと怖すぎるかもしれないが。


「なんだったら、両方ともプレゼントするよ。――で、その代わりってわけでもないんだけど、ナナさんにちょっとお願いがあるんだ」


「まったくもって仮面はいらないのですが……。えぇと、お願いですか? 仮面はいりませんが、お願いとはなんでしょう?」


「うん。実は――これなんだけど」


 僕は部屋のマジックバッグをあさり、ある物が詰められた袋を取り出した。

 そしてテーブルに散らばった仮面シリーズをどけて、空いたスペースにドスンと置いた。


「なんですか?」


「お金」


「お金?」


「ミコトさんへの仕送り」


 この村で召喚され続け、一人で生活するミコトさんへの仕送りだ。

 僕はこれから旅へ出てしまうので、自分で渡すことができない。代わりにナナさんが届けてくれないだろうか。


「ああ、ミコト様の……。それは構いませんが、これは何日分ですか? マスターが旅から帰ってくるまででしょうか? 二ヶ月分?」


「……一応僕の旅は二年間の予定だけどね」


 確かに最長記録は二ヶ月だけど、一応は二年の予定なんだ。


「さておき、その袋ひとつで一ヶ月分だね」


「……多くないですか?」


 袋の中を覗き込んで、そんなことを言うナナさん。

 え、そうかな? 多い?


「だって何から何まで一人で用意しなければいけないんだし、それくらいは必要かと……」


「何から何まで金で用意させるつもりですか……。ちょっと多すぎます」


 そうなのか……。もう準備してしまったんだけどな。二年分ということで、その袋を二十四袋揃えてしまったのだけど……。


「とりあえずこの一袋があれば……そうですね、四ヶ月は保つでしょう。マスターが旅に出ている間の分はあります」


「旅は二年の予定だけどね……」


「これを四分割しておいて、毎月ミコト様へ渡していきますね」


「あ、うん。ありがとう。でも、二年……」


 それならせめて、六袋受け取ってもらえんかな。二年なので……。



 ◇



『必要ないと思いますが……』なんてことをのたまうナナさんに追加で五袋渡し、ついでにでかい仮面と怖い仮面を渡そうとしたところで――おもむろにナナさんが口を開いた。


「実はマスターに用事があったのですよ」


「うん?」


「用事があって部屋まで来たのです」


「あ、そうなの?」


 そうなのか。それは申し訳ないことをした。いきなり僕の無駄話に付き合わせたり、頼み事をしたりしてしまった。


「それで、僕に用事ってなんだろう?」


「7-1エリアのことです」


「あー……」


 未だ未実装である7-1エリア。6-1雪エリアに続き、こちらも巨大フィールドタイプのエリアになる予定だが……。


「どうしましょう? もう雪エリアが出来てから、一年以上経ってしまいましたが」


「うーむ。7-1か……」


 悩みどころだ。いったい7-1は、どんなエリアにしたものか。

 なにせ雪エリアが完成したことにより――


 春は森エリアでお花見。

 夏は湖エリアで水遊び。

 秋は……まぁ高尾山で紅葉でも楽しんだらいいんじゃないかな。

 冬は雪エリアで雪遊び。


 ――といったふうに、季節ごとのダンジョンでの楽しみ方ってのが、ある程度確立してしまった。

 軽く完成形とも呼べるダンジョンを前にして、次なるエリアをどうしたらいいか、決めかねているのが現状だ。

 そんなわけで保留に保留を重ねて、ここまで来てしまったわけだけど……。


「マスターが旅へ出発する前に話し合いを――ダンジョン会議をしておかなければと考えたのです」


「そうねぇ……」


「どうしますか? もしも決めるのが難しそうならば、マスターが戻ってきてからでも構いませんが」


 だからそれは二年後だと言うのに……。


「いや、決めよう。ここまでずるずる来てしまったからね。ちょうどいい機会だ。今ここで決めよう」


「わかりました。……で、どうします?」


「どうしよっか?」


「どうしましょうねぇ」


 などと悩む僕とナナさん。

 何やらいきなりダンジョン会議が行き詰まった感。


「とりあえず今までの会議では――砂漠さばくエリアなんてものが候補に上がりましたが」


「砂漠なー」


 まぁステージとしてはそこそこ定番だよね、砂漠ステージって。

 ……とはいえ、実際に砂漠をドーンと置かれても、あんまり寄りたい場所ではないと思う。


「あるいは――海エリア」


「海……。いや、海はちょっと……」


「やはり乗り気ではありませんか」


「うん……」


 どうしても気後れしてしまう。

 なんせ海だからな。やっぱり船で出航とかって楽しみ方になるのかね? ちょっとハードル高いよねぇ……。


「では、もう少しランクを落として――海岸かいがんエリアにしますか?」


「やっぱりそれが第一候補かな……」


 ドーンと海を作るわけではなく、海岸だけ。

 沖までは出られないように途中でエリアを塞ぎ、海岸だけを作る。そして残りは砂丘さきゅうにでもしたらいいんじゃないかってのが、今までの会議で出た案だ。

 悪くはないと思う。おそらくはそれで、海と砂漠も両方ある程度は体感できそうだし。


「――あ、そうだ」


「はい? どうかしましたか?」


 ふと思い出した。そういえば新規エリアについて、ちょっと考えていたことがあったんだ。


「実は僕に考えがあって」


「ほう? 新たなアイデアですか?」


「まぁそうかな。ちょっとね、実はちょっと――天界で考えたんだ」


「天界で? なんでしょう? ずいぶんもったいつけますね」


「あぁいや、別にもったいつけているつもりはないんだけど――」


「まさか――次回まで引っ張るつもりですかマスター?」


 ……次回ってなんだ?


「そうはさせませんよ? どうにかして今回で聞き出します」


「一体何を言っているんだナナさん」


「話してくださいマスター。いったい何を考えたのですか?」


「えぇと……」


 ナナさんが何を言っているのかわからない……。

 だけど、そうまで言うのなら――――ちょっと引っ張ってみようかな?


 うん。もうちょっと焦らしてみよう。

 ネタばらしは次回。次回まで、お預けだ。





 next chapter:牧場ぼくじょうエリア

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