第342話 金の延べ棒

※『第342話 世界樹のギター』の予定でしたが、都合により予定を変更してお送りいたします。誠に申し訳ございません。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


「およ?」


「む?」


 自分の部屋に戻ってきたところ――何やらフラフープを回している緑髪の幼女がいた。


「あぁユグドラシルさん、こんにちは」


「うむ」


 誰かと思えばユグドラシルさんだ。

 僕が挨拶すると、ユグドラシルさんは鷹揚おうように頷いた。


「すまぬな、ミリアムにいいと言われ、勝手に入ってしまったが」


「いえいえ、全然全然」


 そもそも旅の間は自由に部屋を使っていいと伝えていたくらいだし、それは全然――


「あ、というか戻ってきました。こうして旅から戻ってまいりました。お久しぶりですユグドラシルさん。あと、あけましておめでとうございますユグドラシルさん」


「うむ」


 僕が改めて挨拶をすると、ユグドラシルさんは鷹揚に頷いた。

 帰還の挨拶やら新年の挨拶やらいろいろ伝えたのだが、『うむ』とだけ返ってきた。相変わらず、『うむ』は万能な返事である。


 いやしかし、ユグドラシルさんと会うのも本当に久々だ。かれこれ二ヶ月と二週間ぶりの再会となるだろうか。

 旅から戻ってきて二週間ほど経ったが、その間も会うことはなかった。そしてこの二週間で、年もあけてしまった。


「お主が帰ってくることはナナから聞いておったし、帰ってきたのも教会からの通話で知ってはいたのじゃがな……」


「ええはい。一応連絡させていただきました」


 一応ね。村に戻ってきて教会に寄ったとき、一応帰還のことを通話で伝えておいた。


「じゃが、今回はアレクも長いこと旅に出ていたじゃろ? しばらくは家族水入らずの時間も必要かと思ってのう」


「あぁ、そうだったんですか」


 そんなことを考えていてくれたのか。

 さすがだ。さすがは気配りと気遣いのユグドラシルさん。慈愛の女神ユグドラシルさんだ。


「お気遣いありがとうございます。でも、全然大丈夫ですよ? いつだって来てください」


「そうか?」


「そうですとも」


 二週間前に戻ってきたときも、家族は普通だったしな。普通に『あぁ、おかえり』ってな感じだった。

 ……レリーナちゃんはちょっと普通じゃなかったけど、とりあえず家族は普通だった。


「といっても、年の始まりはわしもやることがあってのう」


「そうなんですか?」


「挨拶やらなんやらで、わしも忙しいのじゃ」


「ほうほう」


 わりと暇な人疑惑の出ているユグドラシルさんではあるけれど、さすがに年末年始は忙しいらしい。


 あ、そうだ。年末年始といえば――


「そういえば、ちょっとユグドラシルさんにお渡ししたい物があるんですよ」


「うん?」


 ユグドラシルさんに少し待ってもらい、僕は部屋に備え付けのマジックバッグのもとへ向かった。

 そしてバッグから目当ての物を取り出し、ユグドラシルさんの前に戻ってきた僕は――


「ではユグドラシルさん――あ、フラフープを一旦止めていただいてもよろしいですか?」


「あぁ、すまぬ」


 このままでは、ユグドラシルさんの五連フラフープに轢かれてしまう。


「うむ。それでなんじゃ?」


「ではユグドラシルさん、こちらをお納めください」


 フラフープを止めてくれたユグドラシルさんに僕は――金の延べ棒を差し出した。


「むぅ……」


「去年の分です」


「ダンジョンのやつか……?」


「左様でございます」


 『世界樹様の迷宮』の入り口には、『二代目等身大リアルユグドラシル神像』が設置されている。

 初代はユグドラシルさんにプレゼントした神像で、それに続く『二代目』の『等身大』の『リアル』系ニスを塗布した『ユグドラシル』さんの『神像』――二代目等身大リアルユグドラシル神像。通称二代目さん。


 その二代目さんの前には、日々お供え物やらお賽銭やらが置かれていく。

 それらは一定時間経過後、ダンジョンが吸収し、ダンジョンポイントに変換される仕組みとなっている。


 そこで得たポイントだが、ナナさんに設定をお願いし、普段のポイントとは別に、『お供えポイント』として計算してもらっている。

 そうして貯まったお供えポイントを消費し、金の延べ棒を生成したわけだ。


「ズシリとくるのう……」


「メイユ村民、ルクミーヌ村民の想いが詰まっております。一年分の想いです」


「重いのう……」


 軽くダジャレっぽくなってしまったが、とりあえずユグドラシルさんは延べ棒を受け取ってくれた。


 この延べ棒は、去年一年間で貯まったお供えポイントを、年末にすべて消費して生成した延べ棒だ。

 年明けにユグドラシルさんへ渡そうと思って、準備しておいたのである。


 このシステムは一昨年から導入されており、去年も年明けに延べ棒をプレゼントした。

 ただ、そのときは受け取ってもらうのに大層苦労した。『いらんいらん』と、ユグドラシルさんが頑なに受け取りを拒否したのだ。


 とはいえ、こればっかりは受け取ってもらわないわけにはいかない。

 想いなのだ。二村の想いが詰まっているのだ。


 ……どうでもいいのだけど、年明けに渡すとなると、どことなくお年玉っぽい雰囲気を覚える。

 お年玉で金の延べ棒。どこの富豪だろうか。


「あの看板がなければ、もっと大きい延べ棒になる気もするんですけどねぇ」


「これで十分じゃ……」


 二代目さんの前には、『あんまり置かなくていいのじゃ』と書かれた看板が立っている。

 あれがなければ、みんなもっとバンバンお供えして、延べ棒ももっと大きな物になっていたことだろう。


 だがしかし、ユグドラシルさん的にはもう十分だという。さすがユグドラシルさん。慎み深い。


「ちなみに、僕もそこそこお供えしましたよ?」


「うーむ……」


 当初、二代目さんにお供えがされる事態には、どことなく後ろめたい気持ちがあった。

 なんだかみんなを騙してお金儲けをしているような気がして、心苦しかったのだ。


 だがしかし、この延べ棒システムが導入され、無事に全額ユグドラシルさんに渡す流れが出来上がってからは、その悩みも解消された。

 後ろめたさや、やましさも感じなくなったので、僕も積極的にお供えするようにしている。


 やっぱりユグドラシルさんにはお世話になっているからね。これで少しでも恩が返せるのなら、積極的に返していこう。積極的に、バンバン金で返していこうじゃないか。





 next chapter:無限スキー板ニス地獄

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